第28話 始まりからの終わり

「あの、長くなります? その話」


「ああ、申し訳ありません。つい話し込んでしまいました。ダメなんですよね、私。こうなんて言うんですか、捨てられない、と言いますか。何でも取っておきたくなるんですよ、思い出とかも大切じゃないですか」


「世に言う思い出オヤジですね。あの、申し訳ないんですけど、ここ、もう片付けちゃいたいんですよ」


「最近はそのように言うんですか、申し訳ありません、時世に疎いものですから」


「言いませんよ、今作ったんです」


「あのお、アダンさん。片付け、私がやりますので、もう少しここに居させてもらっても?」


「ああ、まあいいんじゃないですか? 大事なことですよね、思い出とか伝説とかって」


「ええ、そうですねえ。特に、あんな事があって、ここを引き払う事になるなんて思いもしなかったですしね」


「って、やっぱり長くなるんですか? コウタロウさんの話、長いか泣くかですもんね。もうみんな下で待ってるんですよ、急がないとギンゾウさんがやってきて収拾つかなくなりますよ」


「ああ、それは困りますね。ただ、ただね。しっかりと記憶しておきたいんですよ、ここで起こったことを」


「えーっと、本当に長いですよ、コウタロウさん」


「もう少し。もう少しだけ、思い出しておきたいんです。ここ、モルぺス販売発掘事務所、最後の日のことを」


「あ! コウタロウさん。あれ、なんですか?!」


「え? どれでしょう?」


「あの窓の外ですよ! ほら!」


「なにか見えますでしょうか?」


「ああ、あそこが新しい事務所の煙突ですね」


「そうなんですねえ。私は、私は魔石のことしかわかりませんもので。あの、アダンさん。魔石にはいろんな色があるんです。その色には意味があって、色の組み合わせでいろいろな効果が期待できるんです」


「ああ、なんだかそんなことを言ってましたねえ。ってか、いいですよもう、魔石の話は」


「ええ、私はここに残ったほうが仕事ができると思うんです。ひっく。なぜ私がその、皆さんと一緒に新しい事務所に移ることになったのか、ひっく、全く分かりません、ひっく」


「また泣くんですか? コウタロウさん。コウタロウさんにはきっと何かの役割があるんだと思います。僕にもわかりませんけど。だけど、クルミさんがそうしろって言うってことは、そういうことなんだと思いますよ」


「ええ、ええ。そうなんでしょう、ひっく。クルミさんには我々には視えないものが見えていらっしゃるのでしょうから。ですからやはり、やはり、しっかりと記憶し、いつでも思い出せるようにしておきたいと思います。ここ、モルぺス販売発掘事務所、最後の日のことを」



「コウタロウさん。そんなに名残惜しいですか? 昨日のこと?」



(完)

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【全28話】嘘と誘惑のエクスカベーター UD @UdAsato

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