104話:原因不明の大問題

 ホテルのベッドに寝転んで早々。

 眠気が吹っ飛んだのは「爆発音」が聞こえて来た為だ。


「今のは結構近かったな。通りの方から聞こえて来たけど……」


 ボクの部屋は「301号室」。

 カーテンを開け、3階の窓から通りを覗くと――“陰”。


「わっ!? なっ、何だ? 今、目の前を何か通り過ぎたけど……大きな鳥か?」


 窓の外を横切った陰は生き物の様にも見えたが、如何せん一瞬が過ぎる出来事。

 逆光だったのも相まって具体的に「何」というところまでは辿り着かず、3階という高さからして連想出来るのはその程度。


 これ以上の思考は無駄だろうと、今の件は一旦保留にして。

 爆発音のした方向に目を向けると、道路脇からモクモクと立ち昇る黒い煙が確認出来た。


(やっぱり爆発か……ガス管か何かに引火でもしたのか? 人通りも多いし、巻き込まれた人が居なければいいけど)


 当たり前だが通りは騒然としており、爆発地点から離れる様に多くの人々が急ぎ早に動いている。

 逆に、その流れに逆らっているのは現場に向かう管理者達。

 “宙に浮かぶバイク”にまたがり、警報を鳴らしながら10名程の管理者が現場に駆け付けていた。


「おっと、参ったね。“鴉手紙カラスレター”を出しに行くつもりだったのに、こんなに管理者が集まって来るとは……まぁフード被れば大丈夫か」


 賞金首となっている以上、管理者の視線に気を付けなければならないは自明の理だが、彼等は別にボクを追って来た訳ではない。

 全ての賞金首の人相を覚えている訳でもないだろうし、そもそも今は“先の爆発”に意識が向いている筈だ。


 虎穴に入らずんば虎子を得ず。

 この程度のリスクに怯えていては何も得るこなど出来ない。

 かくしてボクは部屋を後にし、ホテルを出て、すぐ近くにいた通行人に声掛ける。


「ねぇおじさん、通りで何があったの? 爆発事故?」


「いや、爆破“テロ”だな。十中八九、犯人は植物グリン族の仕業で間違いないだろう。さっきホテルの壁を伝って逃げて行ったのを見たし」


「……植物グリン族?」


 耳にする機会はそう多くないが、存在自体は知っている。

 ボクの記憶が正しければ、植物グリン族は自然と共に生きる「植物の身体」を持った少数種族だ。

 自然を愛するが故に“機械嫌い”でも有名で、非常に排他的/閉鎖的な種族だとも聞いている。


(さっき窓から見た“陰”は、爆破テロを起こした植物グリン族だったのか)


 けど、それならそれで疑問が残る。


「こんな機械だらけで観光客も多い街に、どうして植物グリン族が住んでるの?」


「いやいや、住んでる訳じゃない。警備の目をかいくぐって街に侵入してくるんだよ。ここから少し離れた場所に奴等の里があるんだが、何故かこの街を異様に嫌っててな」


「それで爆破テロを?」


「あぁ、近頃は毎週のように爆破テロが起きてる。観光客が怖がると困るから、噂を抑え込もうと管理局も躍起になってるみたいだけどな」


「ふ~ん。こんなに煌びやかで凄い街にも問題はあるんだね(まぁボクが知ったこっちゃないけど)」


 街の当事者なら大問題だうが、ボクはたまたまこの世界に居るだけの人間だ。

 それ以上の感想を抱くことは出来ず、それよりも目先の目的が最優先。


「おじさん、質問ついでに聞きたいんだけど、一番近い管理局って何処?」



 ■



 ~ 『世界管理局:Robot World (機械世界)支部』- リンデンブルグ第3大通り支局 ~


 おじさんとの会話から5分後。

 地獄から逃げ出した罪を認めて、ボクは自首しにこの場所へ来た――訳ではない。

 世界を越えて手紙を届ける“鴉手紙カラスレター”のサービスは、基本的に世界管理局が運営しているのでここへ来る他なかっただけだ。


 正直、夜も遅い時間なので開いてるかどうか不安だったけれど、管理局の建物にはまだ明かりが灯っていた。


(ラッキー、まだ営業してるみたいだ。もしかして24時間やってるのかな)


 だとすれば「ご苦労様」と労いの言葉を送りたくもなるが、ともあれ。

 怪しまれない様に堂々と入り、だけど念の為フードは被って受付のカウンターで声を掛ける。 


「あのー、カラスを1羽頼みたいんだけど。あと、ペンと紙も」


「おっとゴメンよ。ちょうど今、鴉手紙カラスレターの新規受付を中止したとこなんだ」


「え、何で? もう全部のカラスが出払っちゃったとか?」


 だとすれば参った。

 配達に出掛けたカラスが戻ってくるまで待たなきゃ駄目かー、と思ったのも束の間。

 受付の奥に数羽のカラスを確認。


「ん、カラスはいるみたいだけど……何で受付中止なの?」


「う~ん、それがどういう訳か“カラスが仕事をストライキ”したんだ」


「……はい?」

 ボクの聞き間違えか?

「えっと、ストライキってどういうこと? カラスが仕事を辞めたの?」


「仕事を辞めたというか、手紙を渡すと一応飛び立ちはするんだ。飛び立ちはするんだが……しかし飛び立ったはいいものの、何故かすぐにここへ戻ってくるのさ。全部のカラスがそんな感じで参っちまうよ」


「はぁ、つまりはカラスが全く機能してないってことか。よくある事なの?」


「いや、ここまで機能しないのは初めてだな。最近、ちょこちょこ未配達で帰って来るカラスが増えているのが問題にはなってたんだが、まさか一斉に機能しなくなるとは……。どう対応したものかこれから会議だよ」


 言って、対応してくれた職員は「業務停止中」と書かれたプレートを置き、忙しそうに奥へ入っていった。

 他の利用客も唖然とした感じで、ボクにだけ塩対応という訳でもないらしい。


(参ったな。鴉手紙カラスレターが使えないと隠れ家アジトに連絡出来ないんだけど……この問題はこの街だけか? それとも全世界がそうなのか?)


 仮に全世界がそうだとすれば、組織の長:グラハムが未だに手紙の1つも寄越さないのも納得出来る。

 以前、ボクに鴉手紙カラスレターを送って来たあの老人なら、“組織の状況”を伝える為に手紙を送って来ても良さそうなものなのに、今のところそれらしい接触は無し。

 カラスが仕事をしていないのであれば納得も出来るが、必ずしもそうと決まった訳ではない。


(う~ん、現状で何かを判断出来る程の情報も無いしなぁ)


 こうなったらいっその事、管理局の『世界扉ポータル』を使って『Darkness World (暗黒世界)』に帰るか?


(いや、それも駄目だ。管理局の『世界扉ポータル』は渡航記録を取っている。せっかく地獄から逃げ出して所在を眩ませたのに、自ら居場所を教えるのは自殺行為だ)


 となると、やはり裏社会の窓口:『セーフティネット』を探し出すしかない。


(……仕方ないね。また明日に出直して、それでも鴉手紙カラスレターが駄目なら『セーフティネット』を探そう)


 最高の手ではなくとも、それが現状取れる最善手。

 そうと決まればここで立ち尽くしていても仕方がなく、そそくさと管理局を出てホテルへ帰還。

 自分の部屋である「301」号室の扉に手をかけたところで、隣の部屋から出て来た“角が生えた女性”と目が合った。


「あれ、鬼姫おにひめ?」「ドラノア君?」


 ―――――――――

*あとがき

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■【右腕を代償に「黒ヘビの腕」を手に入れた少年の復讐劇】 ~ 死後、4000年の殺し合いを経て地獄最強の咎人となった少年が、地獄を抜け出し欲望渦巻く「闇の世界」で成り上がる!! ~ ぞいや@4作品(■🦊🍓🌏挿絵あり)執筆中 @nextkami

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