103話:『工場都市:リンデンブルグ』の観光案内

「こんばんハ、何か困り事ですカ?」


「ん?」


 工場地帯から街に辿り着いて早々、“機械の顔”を持つ女性に話しかけられた。

 廃棄都市ジャンクシティにいた無骨な見た目の完全機械人間ヒューマノイドとは違い、こちらは顔が「モニター」となっていて、そこに女性の顔が映し出されている。


(コレは完全機械人間ヒューマノイド……なのか?)


 彼女の服装はパンツスタイルの上下スーツ姿で、手には清潔感のある白い手袋をはめている。

 露出部分が皆無な為、脳以外を全て機械に変えた完全機械人間ヒューマノイドかどうかは不明だけれど、とは言え彼女の姿はここ『Robot World (機械世界)』においては特別珍しい話ではない。


 ネオンが煌びやかな街中の光景を改めて見渡しても、全体の1/3程は何かしら機械の身体を持っている。

 機械部品ギアパーツが日常に溶け込んだ世界で、機械の顔そこに疑問を持つ意味はあまり無いけれど……とは言え、警戒しない理由にもならないだろう。


 ジロリと、ボクはあからさまに警戒の瞳を向ける。


「……どちら様?」


「あ、これはごめんなさイ。自己紹介が遅れましたネ。ワタクシ、この『工場都市:リンデンブルグ』の観光案内をしております『ユーエス』と申しまス。以後、お見知りおきヲ」


「はぁ、それはどうも。でも、何でまたこんな夜に観光案内を?」


「あ~、実は先日“旅行会社”に就職したんですが、新人研修としテ『街に来た人を案内しろ』って無茶振りを言われましテ。それで困ってる人を探していたところなんですヨ。あと一人でノルマが終わるのデ、行きたい場所があればワタクシに案内させて下さい」


「なるほど……」

 変わった理由だけど、絶対に無い話でもない。

「それじゃあお願いしようかな」


「やったッ、ありがとうござまス!!」


「………………」


 モニターの顔を笑顔に変えて、素直に喜んでいる彼女が嘘を吐いている様には思えなかった。

 ボクを追いかけて来た感じでもなかったし、廃棄都市ジャンクシティやその上にあった工場とも無関係だろう。


 とは言え。

 ボクが探しているのは裏社会の窓口:『セーフティネット』。

 平穏に暮らしている人間が知る由も無い場所だし、仮にそれを知っていたとしても、ボクがそこを探しているとバレた時点で怪しまれる。


「どちらまで案内しましょうカ?」


「ん~そうだね……」


 ポケットに手を入れ“残金”を確認。

 先日『Ocean World (海洋世界)』へ渡る前に支給された「もしもの時の軍資金:3万G《ゴールド》」が丸々残っており、時間も時間なので行き先は自ずと絞られてくる。


「とりあえず、近くの宿屋までお願い。なるべく安いところで」


「承りましタ。しかしながら、その……少々言い辛いのですガ、ホテルへ向かう前に“ミストシャワー”を浴びた方がよろしいかト。よくよく見るト、結構オイルで汚れ――いえ、オイルが付着していらっしゃるようなのデ」


「ミストシャワー?」


「はい。すぐそこのボックスで受けれるサービスですヨ。微細なミストを噴射しテ、身体に付着したオイルを洗い流すのでス。ささ、この中に入って下さイ」


 グイグイと背中を押され、道端の端っこにある半透明の大きな箱に入れられた。

 壁は曇ったガラスみたいな半透明の素材で、ぼんやりとだけど壁越しにユーエスの姿が確認出来る。

 どうやらここで綺麗にしてくれるらしいが、シャワーという割にはシャワーヘッドの1つも見当たらないが――と困惑して間もなく。



 噴射シャー!!



「わッ!?」


 ただの天井だと思っていた頭上から、勢いよく霧が噴射。

 服ごとボクを丸洗い(?)して、あっという間に汚れが落ちたと思ったら、続けて壁から「ブオ~ッ」と温風が噴き出した。

 小さな台風に飲み込まれた様な感覚は、時間にして1分程か。

 扉から出たボクの身体は既に乾いており、服の汚れも9割方は落ちている。


「へぇ~、凄いねコレ。『Robot World (機械世界)』じゃあ、お風呂と洗濯をいっぺんにやるんだ?」


「いえいえ、決してそういう訳ではないですヨ。このミストシャワーは本来“別の目的”で導入されたものデ――」


 腹の虫ぐぅ~

 会話を妨げる様に鳴ったのはボクのお腹だ。

 まだ我慢出来る程度の空腹だったけれど、いざお腹が鳴ってしまうと、先にも増してお腹が減った気分になる。


「先に腹ごしらえをしますカ? 非・機械人間ノン・ヒューマノイド向けのお店も沢山ありますヨ」


「う~ん、それじゃあそうしようかな。ホテルは自分で見つけることにするよ」


「あれ、ホテルまで案内しなくて大丈夫ですカ?」


「まぁそれくらい自分で探さないとね。あまり付き合わせても悪いし、色々教えてくれただけで十分だよ。ユーエスも早く帰りたいでしょ?」


「それはそうなのですガ……本当に大丈夫ですカ? そもそもアナタはどうして一人でリンデンブルグに? というか、お名前も聞いていませんでしたネ」


「ユーエス、色々ありがとね。お店も自分で探すよ。それじゃ」


「あっ」と彼女が声を上げるも、それを無視してボクは歩く。

 これ以上会話を続けると面倒臭そうな気配がしたので、ユーエスには悪いけどこの辺りで切り上げるのが妥当なところだろう。


「あのッ、ホテルはあちらの通りに沢山ありますからネ!! 困ったことがあればいつでもお声がけ下さイ!!」


 仕事上のノルマなのか、本来持っている彼女の性格なのか。

 随分とお節介な言葉に、ボクは振り返らずヒラヒラと手だけを振り返し、ネオン輝く街の人込みの中に紛れていった。



 ■



「ふぅ~、食べた食べた。――さて、そろそろ宿を確保しないと」


 時刻は22時過ぎ。

 |非・機械人間ノン・ヒューマノイド向けの、つまりは普通の人向けの飲食店で食事を取り、今はホテルに向かっている最中。


 こんな時間でも街中は変わらずネオンで輝き、夜とは思えぬほど賑やかな様相を呈している。

 観光客も多く、遅くまでやってるお店も多い為に、この賑やかさが静まるまでには相当な時間が必要だろう(というか静まる時があるのか?)。


(この“動く道”も凄いな……自分で歩かなくても前に進めるなんて)


 昇降機エレベーター階段式昇降機エスカレーターは他の世界にもあるけれど、この“動く道”を見たのは『Robot World (機械世界)』が初めて。

 他の世界より「時代を先取り」しているのが『Robot World (機械世界)』の売りでもあり、これら未来の技術を体験する為に多くの観光客が訪れているのも納得。


 中でも一番の観光名所は、街の中央にある巨大なタワーだろう。


(天まで伸びる――は言い過ぎだけど、街の何処に居ても見えるくらい大きいな)


 ただ、そのタワーよりもボクが「お~」と思ったのは、アチコチに確認出来る“ホログラム表示された立体広告”だ。

 何も無い空間に立体映像が映し出されており、まるでそこに居るかの様な存在感で様々な商品を紹介している。


 ちなみにその広告の大半には“同一の完全機械人間ヒューマノイド女性”が出演しており、機械部品ギアパーツ化した身体を余すことなく曝け出していた。

 いわゆる「一般的な服」は一切身に着けていないものの、そこにいやらしさの類は一切無く、洗練された機械部品ギアパーツのデザインがよりカッコよく見える。


完全機械人間ヒューマノイドのモデルか。皆パシャパシャ写真を撮ってるけど、結構な有名人なのかな?」


 あまり興味が無い世界ジャンルの話なので、その辺の事情には疎いけれど……ともあれ。

 彼女の情報は必要無いけれど、今後に備えての休息は必要だ――という訳で。


 先程のアレコレ教えてくれた女性:ユーエスの言葉に習って、ホテルの多い通りへ到着。

 通りで一番安かったホテルで部屋を取り(一泊8000G《ゴールド》)、フロントで貰ったカードキーで部屋に入り、ベッドの上に寝転んだら一安心。


 溜まっていた眠気もじわじわと襲って来た為、裏社会の窓口:『セーフティネット』探しは明日にしようと瞼を閉じて、このタイミングでハッと気付く。


「そうだった。せっかく街に居るんだから、“鴉手紙カラスレター”だけでも出しておかないと――」


 爆発音ドンッ!!


「ッ!?」


 ―――――――――

*あとがき

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また、お時間ある方は筆者別作品「🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)」も是非。

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