【5章:工場都市リンデンブルグ編】

102話:『Robot World (機械世界)』

 ~ 時は遡り、血婚祭典ブラッディフェスタの数日前 ~


「私はもう、いつ死んでもいい。随分前からそう考えていた」


 『世界管理局:Robot World (機械世界)支部』- リンデンブルグ支局長:ヤーイング。

 他の誰でもない“自ら選んだ最期”を前に、彼は腹心達へその心内こころうちを語った。


「一体何年前の事だったか……あの“老木”との戦いで、私は自分に疑問を抱いた。あのおろかで愚直ぐちょくな種族の生き様を見て、私はこの機械の手足へ疑問を持つようになった。――否定している訳ではない。自由を失った私に再び自由をくれたのは、この機械の手足だ。この手足のおかげで私は今ここにいる。手足を機械部品ギアパーツ化したことに後悔などある筈もない」


 その後悔などある筈もない鉄の手足を、彼はガチャンッと取り外す。


「“尊厳”なのだよ、問題は。人としての尊厳を何処まで保てるか、それが私は怖くなった。……お前達も知っているだろう? 脳の衰えは止められない。老化を遅らせることは出来ても、新しい機械の身体を得ることが出来ても、脳の衰えそのものを止めることは出来ない。年老いた脳に新品の機械を組み合わせ、それで出来上がるのは木偶の坊だ。今はまだこうやって会話することも出来るが、これから先は自我を保つことさえ徐々に難しくなるだろう」



 “そんな自分になるのが、私には耐えられない”。



 僅かに震える声で、この街で誰よりも偉い管理者:ヤーイングは静かに呟いた。

 大きくも質素なベッドの上で、静寂に包まれた部屋の中。

 数分前に医師から処方された薬を飲んだヤーイングは――そのまま静かに息を引き取った。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 ■



 ~ ドラノア視点:廃棄都市ジャンクシティからの脱出直後 ~


「ふぅ~、ギリギリ間に合った。久しぶりに外の空気が吸えた気がするよ」


 換気ダクトから外に出て、月明かりの下で一段落。

 安堵の息も自然と漏れるが、まだまだ自分が置かれている状況を把握出来ているとは言い難く、すぐさま周囲に目を配る。


 まず目に付くのは「背の高い鉄条網(有刺鉄線の柵)」。

 ボクが出て来た換気ダクトの通気口を封鎖する様にグルリと囲んでいる。

 更にその外側には「無骨な鉄の壁」が続いていて、巨大な歯車がアチコチで回り、至る所の配管から蒸気が噴き出し、無数の煙突からは様々な色の煙がモクモクと空に立ち昇っていた。


(この感じ、案の定『Robot World (機械世界)』で間違いなさそうだね。街中って感じはしないし、何処かの工場の敷地内か?)


 だとすれば、廃棄都市ジャンクシティと繋がる工場なので、どう考えても普通の工場ではないだろうが、壁の外から眺めてわかることなどその程度。

 詳細を知るには内部に侵入する必要があるものの、だからと言って工場内部に潜入し、何を作っているか突き止めるなんて真似はしない。

 別にそこまで興味は無いというか、そもそもそんな暇が与えられなかった。



『脱走者ハッケン、脱走者ハッケン。タダチニ排除モードヘ以降スル』



「あらら、コレは……」


 少し離れた曲がり角から「下半身がローラー、上半身が人型のロボット」が出現。

 見た目からして“巡回中の警備ロボット”に見つかってしまったらしい。


 脳は人間である完全機械人間ヒューマロイドと違って、こちらは全てがプログラム制御の完全なる機械。

 その警備ロボットの瞳(というかセンサー?)が緑から赤色に変わったかと思えば、両腕が尖って二刀流の剣士となる。


「ん、その剣でボクに攻撃するつもり? 生憎ボクとキミの間には鉄条網が――」



 斬斬ザザンッ!!



(ッ!? 鉄条網を斬った!? なんて鋭さ――いや、それだけじゃない!!)


 よくよく見ると鉄条網の斬り口が赤く光っている。

 “高熱の刃で溶かしながら斬った”のだ。

 そうやって広げた「入口」から侵入して来る警備ロボットは、当然の様に高熱の刃をボク目掛けて振り降ろす!!


『脱走者、排除』


「おっと」


 問答無用の一撃を前転で避け。

 お返しとばかりにナイフを振るうも、鉄の身体が「ガキンッ」と呆気なく弾く。


(やっぱり駄目か。ナイフで倒せる相手じゃないね)


 とボクが軽く落胆している間に。

 警備ロボットが両腕の刃を左右に伸ばし、上半身を独楽コマのように回転させる。



 斬斬斬斬ザザザザンッ!!



 鉄条網がまるで空気。

 侵入&逃走を阻む鉄の防御柵を、存在しないかの様に薙ぎ払いながら迫り来る警備ロボット。

 アレをまともに受けたら怪我するどころの話ではなく、ボクはすぐさま天高く跳躍する。


 “黒蛇クロノ跳躍ダット


 黒ヘビをバネに警備ロボットの頭上へ。

 その上昇の勢いで上空高く黒ヘビを伸ばし、加えて“じる”。

 あとはそのまま、警備ロボットの頭に黒い鉄槌をお見舞いするだけ。



「“黒蛇クロノ蜷局拳バネッサ”」



 破損ガシャンッ!!

 無防備な頭に重たい一撃を食らい、警備ロボットの頭があらぬ方向へ。

 折れ曲がった首周りからはバチバチと漏電が起き、極端に落ちた回転速度は回復することなく終了。

 足元のローラーも部品に不具合が出たのか、最後は地面に転倒したところで赤色の目から光が失われた。


「さて、とりあえず何とかなったけど……って、全然何とかなってないな」


 安堵したのも束の間。

 建物の陰から次々と計5体の警備ロボットが出現。

 このまま倒す度に無限増殖する訳でもないだろうが、いちいち相手にしていたらキリが無い。


(倒したところで得は少なそうだし、相手にするだけ時間の無駄かな)


 こういう時は逃げるが勝ち。

 幸い、集まった警備ロボットは全て足元がローラータイプなので、工場の壁を登ればボクを追うのは物理的に不可能。


「悪いけど、壁を登れるようになってから出直してね」


 黒ヘビを伸ばし、歯車や配管に引っ掛けて工場の壁を疾走。

 1つ、2つと建物の角を曲がり、屋根に上って警備ロボットを完全にいたら、後は工場の敷地外に出るだけ――という考えが甘かった。


(ん?)


 視界の隅に何かが映った、瞬間。



 連射ダダダダッ!!



「ッ!?」


 “銃撃”だ。

 止まったらハチの巣になるだけなので、前に跳んで銃弾を避けつつ、ナイフを振るって斬撃を放つ。



 “鎌鼬かまいたち



 ザンッ!!

 この一撃で屋上に落ちたのは、少し前に見たばかりの機械。


飛翔機械ドローン? 配備されてるのは廃棄都市ジャンクシティだけじゃないのか……ッ」


 当然、1体だけな訳が無い。

 反対側からもう1体が迫り、こちら目掛けて機関銃ガトリングを放つ。


 今度の銃撃は屋上に張り巡らされた配管に身を隠して防ぎ、銃撃の音が鳴り止んだ隙を見て、再び“鎌鼬かまいたち”で撃墜。

 これで安堵したら駄目なことは重々承知な為、一先ずは遠くに見える“巨大なタワー”を目指し、工場の屋上を再び疾走。

 追加で数体の飛翔機械ドローンを破壊し、最後は屋上から大きく跳んで、工場の敷地を囲む壁を呆気なく乗り越えたのだった。



 ――――――――



「ふぅ~、今度こそ一安心かな。どうやら街中ここまで飛翔機械ドローンも追って来ないみたいだ」


 ネオン輝く煌びやかな街の、人の往来が多い通路の脇道にて。

 大勢の人混みに紛れた安堵感から、ボクは今度こそ呼吸を落ち着ける。

 目の前の危機は脱したと見ていいだろうが、とはいえ呼吸を落ち着けたところで周囲の様子は落ち着かない。


「……夜なのに凄い明かりだな。何処どこ彼処かしこもネオンばっかりだし、他の世界じゃお目に掛かれない高層ビルが一杯だ。やっぱり『Robot World (機械世界)』で間違いないみたいだね」


 自分が居る世界に今一度確信が持てたものの、しかし問題はここからの動き。

 組織の先輩(自称):イヴァンや他の皆がどうなったのかは不明のままで、早急に『秘密結社:朝霧あさぎり』の隠れ家アジトに戻って確認する必要がある。


(『Darkness World (暗黒世界)』へ戻るには『世界扉ポータル』が必要だ。裏社会の窓口:『セーフティネット』を見つけるところから始めないと――)



「こんばんハ、何か困り事ですカ?」



(ん?)


 不意の声掛けに警戒レベルをグンと引き上げる。

 すぐさまその人物に視線を移し、そして「おっ」と驚いた。


 理由は単純明快で、声を掛けて来た人物が“機械の顔”を持つ女性だった為だ。


 ―――――――――

*あとがき

「更新頑張れ」と思って頂いたら、作品の「フォロー」や「☆☆☆評価」もよろしくお願いします。1つでも「フォロー」や「☆」が増えると大変励みになりますので。

また、お時間ある方は筆者別作品「🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)」も是非。

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