大文字伝子が行く105

クライングフリーマン

大文字伝子が行く105

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOの アナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 斉藤理事官・・・EITO創設者で、司令官。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 草薙あきら・・・警察庁情報課からのEITO出向。民間登用。ホワイトハッカー。

 渡伸也一曹・・・陸自からのEITO出向。

 青山たかし警部補・・・元丸髷署生活安全課所属。退職した後、EITO採用。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

 金森和子1等空曹・・・空自からのEITO出向。

 早乙女愛警部補・・・警視庁白バイ隊からのEITO出向。

 大町恵美子1等陸曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ1等陸曹・・・陸自からのEITO出向。

 馬越友理奈2等空曹・・・空自からのEITO出向。

 安藤詩3等海曹・・・海自からのEITO出向。

 浜田なお3等空曹・・・空自からのEITO出向。

 日向さやか1等陸佐・・・陸自からのEITO出向。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。

 稲森花純1等海曹・・・海自からの出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からのEITO出向。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からのEITO出向。

 物部一朗太・・・伝子の大学翻訳部同輩。当時、副部長。

 物部(逢坂)栞・・・一朗太の妻。伝子と同輩。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師。

 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。階級は 巡査。後に警部補。後に警部。妻はEITO出向の、みちる。

 南原蘭・・・南原の妹。

 南原(大田原)文子・・・南原の押しかけ婚約者だったが、結婚。

 久保田管理官・・・EITO前指揮官。あつこと結婚した久保田警部補の叔父。

 橋爪警部補・・・元島之内署の警部補。後に、丸髷署に転勤。

 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==


 午前7時。目黒区の、あるコインランドリー。

 ショベルヵーが突っ込む。車体の前半分が店内に入り、乾燥機が大破した。

 近所の住人からの通報で、パトカーと消防車が到着した。店内の洗濯機や乾燥機の配線がショートしたが、ボヤで済んだ。だが、運転していた男は即死していた。

 午前11時。EITOベースゼロ。会議室。

 「TVのニュースでも放送されたが、今朝早く、目黒区のコインランドリーにショベルカーが突っ込んだ。ブレーキ痕がないから、ブレーキの故障かと思われたが、どうもおかしい、と初動の機動隊から報告が入った。その後の調査で、ブレーキは故障していなかった。コインランドリーの店員に聞き込みをすると、以前、その男はコインランドリーとトラブルがあったらしい。怨恨かと思われたので、運転免許証の家にガサ入れを行ったら、こんな光景だった。河野事務官。警視庁からの写真を出してくれ。」

 河野が、スライドでホワイトボードに写真を映した。

 「パソコンがありますね。」と、伝子が言うと、河野は次の写真を映した。

 《駅前にショベルカーを用意しました。キーは郵便受けにあります。あなたの恨みは、これで果たせるでしょう。成功をお祈りします。リヴァイアサンバージョン2》

 「これって、大阪支部で発見された闇サイトの・・・。」と、なぎさが言った。

 「その通りだ、一佐。それで、EITOにお呼びがかかった。」

理事官の言葉に、大町が「リヴァイアサンって、この間捕まえて、闇サイトはもう存在していないって・・。」と言った。

 「あの男とは別口と考えるべきだろう?どうだ、草薙。」と、理事官は草薙に尋ねた。

 「恐らく、今回の闇バイトは、斑鳩個人の作ったものでなく、幹であるテラーサンタか、テラーサンタの周辺が作った『ひな型』から作ったものではないでしょうか?」

 「すると、草薙さん。今回の枝を倒し、闇サイトを閉鎖させても、バージョン3とかが出てくる、とかいうことですか?」と、馬越が言った。

 「その通りです。」と、草薙が言った。

 「早くしないと、また、ぞろぞろと犠牲者が出そうだが・・・様子を見る他ないな。」と、理事官は言った。

 正午。伝子のマンション。

 「あなた、いい案ある?」「あるけど・・・危険だな。いや、やり方次第か?」

 「やり方次第って?」焼きそばを頬張りながら、伝子は高遠に尋ねた。

 「囮。「囮?」「うん。恨んでいる事情と、恨む相手が必要だ。そして、計画変更をして、おびき出した連中を一網打尽。」「連中?」「事件にもよるが、大勢必要なら、那珂国の兵隊が出てくる。だろう?」

 「そうは言ってもなあ。」焼きそばを書き込みながら、伝子は考え込んだ。

 午後1時。EITO用のPCと久保田管理官直通のPCが起動した。

 「既に、ニュースで報じられているのだが、中野区の眺望高校で立てこもり事件があった。立てこもり犯は、放送室を乗っ取り、校内放送で映像を流した。その模様は、生徒が教室でスマホ撮影し、警視庁に届けられた。一方、校門は全て鉄条網が張られ、校庭には、櫓が建てられ、男が数人、四方を見張っている。そして、男の要求は・・・。」

 久保田管理官は、送られて来た映像に切り替えた。

 《要求は簡単だ。帯刀徹をEITOが連れてこい。元眺望予備校の講師だ。生徒並びに教職員が校外に一歩でも出たら、爆発物を爆発させる。期限は午後5時。》

映像は、そこで終っていた。

 高遠のスマホが鳴動した。

 今度は、理事官が話した。「見た通り、犯人は、学校ジャックをし、EITOに帯刀を探し出して連れて来い、と言っている。明らかにこれは、あの闇サイトを犯人が利用した事件だが・・・。」

 高遠が、理事官の言葉を遮った。「理事官。あの男を南原さんが知っているそうです。男の名前は安西実。南原さんは、安西を説得したい、と言っています。」

 「学。スピーカーをオンにしてくれ。南原。知り合いか?」と伝子が南原に尋ねた。

 「はい、先輩。以前、全国教職員連合の活動ばかりしている教師がいて、嫌気が差して学校を辞めて非正規教員になった話をしたことがあったでしょう?彼が、安西が、その人物です。予備校の講師をしていることは、風の噂で聞いていましたが、予備校で何かあったのかも知れませんね。僕に交渉させてくれませんか。」

南原の言葉に、「いいだろう。警察だったら、素人に交渉人を立てないが、EITOの案件だ。いいかね、久保田君。」と、斉藤理事官は尋ねた。

 「いいかね?って、もう決められたんでしょう?確かにEITOの案件です。帯刀は、ニュースを観て交番に名乗り出たそうです。大文字君。帯刀と南原さんの両方の身柄を守ってくれ給え。勿論、学校の生徒や職員もだ。」

 「了解しました。管理官は、帯刀の移送をお願いします。あ。コインランドリーの件は?」

 「遺書が見つかったよ。心臓が悪かったそうだ。ネットで闇サイトを知り、トラブルになったことのあるコインランドリーを破壊して死ぬ、と。昔、建設現場で働いていたことがあり、闇サイトの方でショベルカーを用意したようだ。因みに、トラブルの原因だが、彼が洗濯しようとした時に、他の利用客が差別的な発言をし、その利用客が常連だったために、店側が一方的に常連客の肩を持って、事態を収拾したらしい。残念ながら、店には防犯カメラがない為、真相は分からない。闇サイトは、そういう鬱屈した人間の深層心理につけ込み、悪魔の囁きをするようだな。南原さんの知り合いも、そのクチかも知れない。」

 久保田管理官のPCの画像が消えた。

 「大文字君。飽くまでも特例だからね。一佐が来たから、作戦を練ってくれ。帯刀氏の移送は、段取りを整えておく。」

 理事官の画像が消えると、待っていた高遠は、「もう南原さんは出発したよ。直接現地に向かうそうだ、伝子。」と、言った。「了解。」伝子は短く応えた。

 午後4時半。眺望高校。校庭。オスプレイが飛来、ホバーバイクが降りて来て、エマージェンシーガールズの伝子が、帯刀を後ろに乗せて降りて来た。その後、ロープが降ろされ、なぎさともう一人のエマージェンシーガールズが降り、金森とエレガントボーイが降りて来た。ホバーバイクとは、民間が開発した『宙に浮くバイク』をEITOが採用、改造したバイクである。

 櫓から、リーダーらしき男が降りて来た。「お前が行動隊長か?帯刀は?」「この人がそうだ。」「よし、職員室に向かえ。」

 伝子達が行こうとすると。「待て。行くのは行動隊長と帯刀だけだ。」とリーダーは言った。

 「おや?あの放送では、EITOの人数は言ってなかったが。大勢の人質を取っているのに、自信がないのか?案外小心者なんだな。いいだろう。一人置いて行く。人質が一人増えたぞ。」

 伝子の言葉に、しばし考えていたリーダーだったが、エマージェンシーガールズ姿の金森に拳銃を向け、言った。「いいだろう、こいつも人質だ。変な動きがあったら、こいつを殺す。」

 伝子達は、職員室に向かった。

 一方、正門と裏門の鉄条網は、陸自の隊員が、簡単に解除をしていた。

 久保田管理官が、「敵はセンサーをセットしているらしい。危険なので、事件解決まで、指示する位置まで下がって欲しい。」とマスコミの記者達に知らせていたので、解除は誰にも知られなかった。

 職員室。

 「久しぶりだな、帯刀。」「安西。なんでこんなことをした?」「分かってるくせに。お前のお陰で予備校をクビになった。俺の恨みは消えない。」「誤解だ。予備校の校長が決めたことだ。それに、お前は授業より活動に熱心だった。」

2人の会話に割り込んだ者がいた。南原だった。南原はエレガントボーイのマスクを取った。

 ある教室の廊下。「先生、何開いてるんですかあ?」と女子高生が2人、近づいて来た。「君たち、教室に入っていなさい。」と、スマホを離して教師は言った。

彼の耳にはイヤホンがついていた。「先生、どんな音楽聴いているの?」女子高生の格好の、みちるが言って、イヤホンを取り上げた。

 「君たち・・・ウチの生徒じゃ無い。」その教師はいきなり、走り出した。

行く手に何か飛んできた。あかりが投げたシューターだった。この学校の床は木製だった。何個ものシューターが廊下の床に刺さり、男の行く手を阻んだ。

 シューターとは、EITOが開発した、うろこ形の手裏剣である。

 イヤホンから聞こえる音声を確認したみちるは、イヤリングを弄った。このイヤリングは、EITOのオスプレイが至近距離にあれば、オスプレイと、エマージェンシーガールズの仲間に音声を送れるイヤリングである。

 「おねえさま。その部屋に盗聴器があります。金森さん、そちらには、スマホを持った男がいる筈。もう指示音声は届かないわ。」

少し先で、教師の手に手錠をかけ、電源を切ったスマホを持った、あかりがニッコリ笑っていた。

 校庭。金森は、リーダーにブーメランを投げた。男がスマホを落とした。

櫓付近の男達が、金森を取り囲んだ。そして、援軍が現れた。

 「どうする?お嬢ちゃん。」

 「それまでだ。」増田達エマージェンシーガールズが空から降ってきた。

金森達は、戦闘態勢に入った。

 職員室。

 南原は言った。「相変わらずだな。君の政治活動の犠牲になった生徒がどれだけいたか、知ってるか?教職員はね、生徒に授業して教えるのが仕事なんだよ。帯刀さんに聞いたぞ。やはり予備校より活動が大事だったか。君は帯刀さんに密告されたとか、ノルマを果たせなかったからとかでクビになったんじゃない。生徒の補習をほっぽり出して、組合の飲み会に行ったりしただろう?覚えていないのか?」

 南原の隣にいた、エマージェンシーガールズ姿の文子がマスクを取った。

 文子は安西実に平手打ちをした。

 「あなたが、どんなトラブルに遭ったかは知らないわ。知りたくもなかった。私も、あなたと距離を置いた。龍之介と同じ理由よ。活動家のあなたが嫌いだった。私はね、今はこの人の妻なの。この人の為なら命だって投げだせるわ。全教師連盟が何?ただの政治活動家集団よ。子供のことなんか考えていない。あなたは、教師になるべきじゃなかったのよ。今まで、何人の、いえ、一人でも恩師という人に巡り会った?私は父の後を継いで塾をやっている。でも、教師になったのは、父の影響じゃない。恩師の影響よ。私は龍之介と見合いした時、お互いの恩師のことを話し合った。だから、この人が運命の人に違いないって思ったの。教師としての自覚があるなら、子供はついてくるのよ。あなたを恩師と慕った子供が何人いた?あなたに、何人の子供が質問しに来た?子供は単に質問に答えることを望んでいないの。信頼関係を築こうとするの。あなたはね、負けたの。自分自身に。己のことしか考えられない人だから。他人を巻き込んで死んじゃいけないのよ。あなたには、そんな資格がないんだから。負け犬!!」

 「文子。そこまで言わなくても・・・。」と、南原は言い淀んだ。

 「そうね。後は警察に任せましょう。お願いします。」と、文子は、入って来た橋 爪と愛宕に頭を下げた。2人を認めると、帯刀は黙って出て行った。

 「行動隊長。警視から連絡が入りました。校内に、爆発物は無かったそうです。それと、共犯の河本教諭も逮捕しました。校庭の集団は、エマージェンシーガールズが倒しました。陸自が待避させた生徒や教職員は戻って貰っていいですね。」と、愛宕は伝子に言った。

 「そうして下さい。」伝子は愛宕に頭を下げた。愛宕が、どこかへ警察無線で連絡すると、橋爪と共に、伝子に会釈をして、安西を連行した。

伝子が近寄って来て、文子に言った。「文子。今度、漬物の漬け方、教えてくれ。」

肩を叩かれた文子は、「はい。喜んで。」と応えた。

 なぎさが、戸を開けると、蘭が廊下にいた。「やっぱり、いいお嫁さんだわ。お兄ちゃんには勿体ないくらい。」

 「言ってくれるなあ。」と、南原は照れた。

3人が出て行くのを見ていた伝子は、なぎさに小突かれた。

 「おねえさま。早く愛しい旦那を抱きしめたくなった?」「からかうなよ、なぎさ。」

 2人は職員室を出た。伝子は思った。なぎさが泊まったら、また、パンティを取られるな、と。

 外に出ると、夕焼けの中、生徒達が教室に戻って来る最中だった。

 生徒達は何故か皆、エマージェンシーガールズ姿の伝子となぎさに敬礼をした。

 ―完―

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