魔術師が後衛だと誰が言った?

咲春藤華

プロローグ

第1話 基本は


 世界で数ある職業のうち、戦闘専門の職業がいくつも存在する。

 大まかに剣士、弓使い、盾持ち、武術家、魔術師。

 騎士は剣士に、弓騎兵は弓使い、守護騎士は盾持ち、拳闘士は武術家、僧侶は魔術師に含まれる。

 また、その職業において戦闘の配置はとても重要である。

 剣士や武術家、盾持ちは接近戦を行うため前衛。

 弓使いは中央からの援護。

 魔術師は後方支援。


 剣士が後方にいても間合いの外で戦闘はできない。

 弓使いは接近を許すと矢をつがえることができずに殺られるだろう。魔術師もしかり。

 これが配置のであり、である。




______________




「前衛の剣士は突破した!! 弓兵もうちのが仕留めた!! 今が絶好の機会だ!!   後衛の魔術師が魔術を使う前に切り捨てろ!! 目標は目の前だ!! やりにかかれ!!」


『『『うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!』』』





 残った残骸は場を染める赤黒い血だまりと肉塊。

 後衛は前衛を突破されたのなら、その後の道はひとつ。殺されるか敗走か。

 勇士を集った依頼主はことごとく殺される。

 

 そうこれが普通の基本である。



 

 だが、基本に対して例外も存在する。




______________



 周りに散らばるのは肉塊。

 辺りを染めるのは血。


「お、お前はなっ、なんなんだ?!?!」


 


 それが戦闘をであること以外は普通である。


「お、お前は魔術師だろう!!」


「ああ」


「な、なら!!」

「なぜ、杖ではなく、剣を握る!!」


 

______________




 『基本』『常識』が役に立たないことはどの世界でも存在する。

 

 異分子、イレギュラー。


 それらは常識に囚われた愚者が自分勝手に言い出した戯言である。

 人類の大部分がその常識に囚われた愚者であり、そして、成長するにつれ身に着けた、『協調性』のなれの果てである。

 周りの思想に合わせようと自分を妥協し続け、自分自身を押し殺し、自分は普通であると自らを偽った賜物である。


 頭の良い愚者は率先して偽り、脳のない愚者は自分こそが普通であると先頭に立つ。


 思想が元からみな一緒であるはずがない。

 多様性。

 十人十色。


 その中から『善い』『悪い』をどうやって決めるのだ?



 自らの思想と外れる者は理解ができなくて気持ち悪く感じる。

 相手に対する嫌悪感が芽生える。

 同じように感じる同士を募り、糾弾する。

『異端者は消すべきだ』と。


 どの世界もそうだ。

 自分と意見が違う。

 「そうだね」と受け入れることはできないのか。

 「いろんな人がいるなぁ」と、「どうしてその考えに至ったのか」と思考を巡らすことはできないのか。


 極端に、『人を殺す』のは『善い』『悪い』で聞くとおそらく全員が『悪い』と答えるだろう。『善い』と言うのは自分が殺される、という覚悟があるのだろう。




 それはさておき。


 

 この世界の基本では、『魔術師は接近戦ができない』


 なぜか。


 それは、魔術師が魔術を極めること同じく、剣士は剣術を極めるしかない。

 その両方ともなると、中途半端な魔術を使う剣士が生まれるのが一般的であるからだ。

 人生は何事をもなさぬにはあまりに長いが何事かをなすにはあまりに短い。

 時間が足りないのだ。

 

 そして、『極める』とはどこまでなのか。


 最高峰と言われている人は『極めて』いるのか?


 『極み』はあらゆることに対して存在しないのだ。


 だが、ひとつの道に絞れば、近づくことはできるだろう。

 しかし、ふたつは……


 やはり時間は短い。

 そして、それに気づくのはあまりにも時間を無駄にしすぎた。


 日々していることにすら、『これがもし意味がなければ』と思考を揺らす。



 そう。

 そして、それが無駄ではない、と結論付いた時の安堵は。


 とても大きかった。


 ああ、神よ。

 私を、おれを、この世界へと導かせてくれたものよ。

 我に悠久の時を与えしものよ。

 汝に感謝を。


 この世で我は、今度こそ……



______________



「なぜ、杖ではなく、剣を握る!!」


「魔力が切れた時の対処法のひとつだ」


「な……??」


「お前らは、剣での戦いに誉を感じる。後衛の俺らは弱腰の弱者だとなじられる。実際、そうさ。俺らは安全な後方からの狙い打ちさ。しかし、前衛がやられたら、詠唱、術式、魔法陣の準備の時間がなく、案山子同然に切り捨てられる。それならば、というものだろう」


「お、おれは!! 今まで力を尽くして剣を磨いた!! 40年近くだ!! だ、だがお前は、どう見ても、若いじゃないか!!」


「……」 


「魔術師でありながら!! おれを打ち負かすほどの剣の実力を!! なぜだ!!」


「あんたは、すごいよ。この俺に傷をつけたんだから」


「それが!!!」


「……いや、悪いな。俺は『不老』持ちなんだ。」


「……は??」


「あんたも時間をかければ大物になっただろうな。俺みたいな中途半端じゃなくて」


「く、糞があぁぁぁぁぁ!!!!」


「……さらばだ」




 周りに散らばる肉塊がひとつ増えた。

 

 敵味方死ねば残るは骨の山 塵に還せば花を咲かせる




 依頼主を乗せた馬車が進む。

 血の香りを運びながら。

 残ったのは二人のみ。

 

「今回はなんで狙われたんだ」

「なんでだろうね? 理由が多すぎてわかんないや」

「そうか」

「うん」

「魔術師が後衛だなんて誰が言ったんだろうな?」

「今回はほんとに後衛だったけどね」

「中途半端な剣に中途半端な魔術か」

「親友。何歳だっけ?」

「言ってるだろ。お前の曽祖父の代から仕えてるけど、その時から覚えてねぇって」

「そうだっけ?」

















______________

どうも、作者です。

読んでいただきありがとうございます。

この作品の続きを書くかわかりません。

応援してくれたら書くかもしれませんが。|ω・)チラ

家の諸事情なんですが、単純に自分の大学受験のために書く暇はたっぷりありますがはい。応援してくれると頑張ります。(どっちを?)


 




 

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