青ジャージ30%

青空一星

好きなもの

 私はジョギングが好きだ。自分のあまり知らない場所を知れるのが好きでさらに健康にも良い、正に一石二鳥だ。その日もいつも通りジョギングをしていただけだったんだ。


 その日は風が心地良く吹き、気温もちょうど良く、いいジョギングになるだろうと予感があった。


 汗はまだそこまでかいていない、まだまだこれからだと思っていた時、ある公園の前を通り過ぎた。周りを家に囲まれた閉鎖的な空間、そこまで特筆することもない公園なのだが、ふと青色の人影が目に留まった。


 滑り台の上に立ち、家の方を向いていてこちらには背を向けている。

 奇妙なことにその人は全身に青いジャージを着ていた。上半身下半身までならあり得るかもしれないが頭にまでジャージを被っているようなのだ。


 見るからに不審者だ、通報するべきか迷ったが今は遅い時間であり、あんな見るからに怪しい存在に着いていく者もいないだろうと放ってジョギングを再開した。

────


 あまりに気分が良かったものだからいつもより長くジョギングを堪能した。

 汗もいい感じにかいて、今日はこの気持ちの良いまま帰ろうと同じ道を通って帰っていた。例の青ジャージが気になって公園を覗いてみると

まだいた。


 次はベンチの上に立ち、やはりこちらに背を向けている。

流石に不気味だった。


 初め見た時もそうだったが背を向けたまま一切動こうとしていない。じっと立っているのだ。

 時刻はもう深夜の2時を回っているというのに、あれから2時間ほども経っているというのにずっと公園にいたのだろうか。


 一体何が目的だというのか、単にそういう趣味なのだろうか、それともほんとうは何かしら事情があるのかもしれない。

 それに、どんな顔をしているのか気になる。

私の好奇心が悪さをした。


「あの、こんな遅くにどうかされたんですか?」


 その声に反応してとうとう青ジャージはこちらを向いた。

 顔には「青」という文字の仮面を着け、上半身のジャージには大きく赤字で「30%」とあった。

かなりビビった。どうやら想像以上にヤバい人であるということが分かった。


「君は」


 青ジャージが口を開いた、ガタイからも予想していたが男の声だった。


「青、好きかい?」


「青か、まぁ好きっちゃ好きだけど灰色の方が好きかな」というのが本音なのだが気に触っても怖いので

「青好きですよ!」


「!

そうかそうか!!ハハハハハハ!実は私もなんだ!」


 青ジャージはよっぽど嬉しかったのか小躍りしている。どうやらただ愉快なだけの人らしい。

 少しネジはハズれているかもしれないが愉快な人は嫌いじゃない。


「青がお好きなんですね!」


「ああそうだとも!私は青が大好きなんだ!仲間がいて嬉しいよ!」


 ちょっと罪悪感を感じた、がそれよりも好奇心が勝っていた。


「その「30%」ってなんなんですか?」


「…ああ、これかい?

今の私の具合を示しているんだ。

ほら、このくらいチャックを開けているだろう?」


 青ジャージには中央にチャックが付いており、それは下半身にまで一直線に連続していた。

着るのに苦労しそうだなと思った。

 青ジャージの言う通り上半身からのチャック全体で見た3割ほどが下ろされているようだった。


 ようだったというのは少し不自然だったからだ。普通のジャージであればチャックを開ければ左右へ分かれて中が見えるようになるはずだ。にも関わらず閉じられている。ただチャックが下へ下ろされているだけなのだ。


「…気になるのかい?この中が」


「あ、いえいえちょっと気になっただけと言いますか…気にならないと言えば嘘になります」


「……」


「…えーと、なぜ「30%」なんです?」


 場の空気を元に戻そうとふと口から出た疑問だったのだが、なんか空気が重くなっちゃったな、もしかして間違えちゃったかな…

気持ちの良かった汗を冷や汗が押し出していく─


「ハハハハハ!いいだろういいだろうとも!

同じ青好きの仲間なのだから見せても何の問題もないさ!」


 ホッとした。あの居心地の悪さは吹っ飛んでいった。青ジャージはよく笑っている。そのチャックに手をかけて下ろしていく。


ジジッ、ジジッ


その時に見えた。数字が大きくなっていく。30から40、50、60…数字が変わっていく。ジャージの生地に直接染み込んでいるもののはずなのに。


ジジッ、ジジジ


どんどんと下ろされていくのに全く開いていかない、中が見えない。


ジジジッ、ジジジ


数字の大きくなるのは留まらず80、ついには90へと達した。

あと少し下ろせばきっと中が見れる。理解できてしまう。まて、まって!止め


ジジャー

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