嫌な異世界

高黄森哉

こんな異世界は嫌だ


 こんな異世界はいやだ。


 まず、直面したのは書類の山だった。死ぬと市役所染みたかっちりとした施設があり、大量の書類を渡された。それも固い椅子で三日待たされてからである。俺が渡された紙には二千二十三番と書かれてあり待ち時間は七十二時間だった。待ち時間めいっぱい死にそうだった。だが、もうすでに死んでいた。エコノミークラス症候群になりながらも俺は死ぬことは出来なかった。もう死んでいるから、これ以上は死ねない。


 こんな異世界はいやだ。


 書類をようやく書き終わると今度は適正検査が待っていた。どういう基準なのか知らないが、全て×だった。俺は自分が否定された気分だったし、役人もこの人間という生物は徳が低いとか侮辱していた。

 徳を積んでいなかったので、転生した際のオプションが皆無に等しかった。もし、こんなことになると最初からわかっていたら全力で善行を積んだだろう。なぜ、先に言ってくれなかった。


 こんな異世界はいやだ。


 ポイントがないため俺は片腕がない状態で生まれなければならなかった。また、赤ん坊からやり直すことは出来ず、すでに中年からだった。これなら、死ぬ前の方が幾分かマシである。財布を開くと所持金は零であった。これもポイントがなかったからである。

 ただ、役所時代、隣にいた男は犯罪でもしたのか強制的にネジの道を歩まされていたので、それよりかはマシである。そこまで考えて、この財布も本当は何者かの後世かもしれないと思い至り、気味が悪くなって側溝に捨てた。


 こんな異世界はいやだ。


 転生後の世界は文明がかなり発展していた。地球の百倍くらいである。俺はこの世界の美しい住人ではなく人間として転生したので、猟友会のような組織につかまって、紆余曲折、研究所に送られた。

 解剖こそされなかったものの、動物園に送られることとなった。動物園には、先に送られていたさまざな人間が、精気を失った状態で暮らしていた。俺は、女と交わろうとしたものの、飼育員がきてその場で去勢されてしまった。


 こんな異世界はいやだ。


 空気が合わないので肺が爛れ、目がかすんでいる。異世界の雨水に曝されると頭髪も抜け落ちてしまった。水分として提供される液体を飲むたびに歯が溶けて、奥歯や前歯が飛び出した。気分が悪い、めまいがする。下痢がひどい。食べ物が合わないからだ。血尿が出る。喀血する。落屑する。膿が出る。

 餌を与えられても俺にとっての毒物であるため手を付けることが出来ない。だから、痩せていく。もし、生き残りたければ、共食いをするしかない。それか、糞尿を啜るのみだ。


 こんな異世界はいやだ。


 お前ら、異世界に憧れて自殺だなんて絶対に考えるな。きっと後悔する。きっと、げほ、がほがほ。げえ。や、約束だぞ。ごほ。ご。


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嫌な異世界 高黄森哉 @kamikawa2001

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