第三話 困った。

 うーん、やっぱ俺先輩のこと絶対好きだ!

 職場からの帰り道、俺はニヤついていた。空は、まだ明るい。


 先輩は俺に誘われてどう思ったのだろう?

 今、どんな気持ちで仕事をしてるのかな?


 先ほどからそんな事ばかりを考えている。

 間違いなく、これは恋だ。

 俺は今、猛烈に、恋愛をしている。


 ——っと、アレ? 今何時だ?

 駅に着いた後バタバタしたくはないので、ポケットからスマホを取り出した。

 そして、二件の通知が目に入る。

 一人は一昨日の晩に電話して来たあの子。

 もう一人は……誰だっけ? 


 俺は記憶を遡る——ああ、思い出した!

 半年くらい前に行った、ファストフードの店員さん。マスクで口が隠されてはいたが、間違いなく可愛い、そう思って何回か声を掛けて一度だけ遊んだ女の子だ。

 俺的には全然アリだったけど、向こうの方がそうでもなかったようで、気まずくて連絡していなかった。

 まずはそちらを開く。

〝久しぶり 元気?〟

 なんだ? 元気は元気だけど、それが何?

 面倒なのでテンション高めのスタンプを送った。


 さてさて、面倒と言えば、この子だよな?

 内容も見ずにスルーしても良いが、一昨日の例もある。それに、昨日の俺からのメッセージの返信をまだ、受け取っていない。

 何気なく送ったメッセージだけど、返事が遅れていると気になるものだ。


〝いつもへんじおくれてごめん、、、 今日あえる?〟


 ぷっ! なんだよ「、、、」って。しかも返事になってねーし。

 というか、今日、か。どうする?

 現在俺は帰宅途中。すぐに帰ってシャワーを浴びるか、近くで知り合いがやってるBARに顔を出すかの二択だった。

 断っても良い。

 でも寂しがり屋の彼女が、そんな返事を見て、どう思うのだろう?

 夜中に電話が掛かって来るたびに、彼女をブロックしたい誘惑に駆られる。俺と彼女が寝たのはホテルの一室だし、俺の部屋に問い詰めにやって来る事も無理だ。

 それでも彼女が先月別れ際に見せたあのが忘れられない。

 ずっと気だるげに曖昧な笑顔でやり取りしてた彼女が、去り際の俺に対して言ってた「じゃあね!」という明るい声とは裏腹に、泣きそうになってた、淋しそうだった、あの顔。

 だから俺はいつも、通話ボタンをタップしてしまうのだ。惰性から。特別な理由などではなく。


〝シャワー浴びてからで良い? ちょっと遅くなるかも〟


 直ぐに返事が来る。


〝うわ えろ〟


 少ない平仮名が嬉しそうに見えた。


〝違えし〟


 違わない。

 遅い時間に会う、という事はそれも含めて言っている。

 

〝じゃあわたしがそっちにいく〟


 マジでか。それは困る。既読無視でもするか? ……いや、ダメだ。


〝〇〇駅わかる? そこまで来てくれたら迎えに行く〟

〝まじ? やさしー〟


 優しくねーし。

 でも、彼女の泣く姿を想像すると、なんか断れない。

 はぁ、マジかよ俺。もっとしっかりしろって。

 

 俺は先輩が好きだ。

 んで、たぶんこの子の事も嫌いじゃない。

 二人同時に付き合う道もあるのだろうが、俺はそんなに器用じゃない。浮気相手の子供の運動会を観に行って保育園から注意されてた友達アイツとは違う。

 何故だろうな? 今までの子達と、今のこの子、何が違うのだろう? 俺の中で。


 このまま今日が過ぎれば、その先は泥沼かも——そんな想像が頭をよぎる。


 でも時間を戻す事もできなければ、その流れを変える事もできない。

 ああ困った。

 俺は流れに、身を委ねる————。



 終わり。

 




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