ドラゴン

西しまこ

第1話


 僕は、異世界に転移してしまった。しかもデート中、彼女の彩香といっしょに。

 僕たちは水族館にいたはずだった。しかし、薄暗い屋内から屋外施設に出ようとしたとき、眩しい光に照らされ――気づいたら、地平線の見えるような草原にいた。


 彩香が繋いでいた手をぎゅっと強く握ってきたので、僕も強く握り返した。

「彩香、ここ、どこだろう?」

「……異世界ってやつじゃない? 流行りの」

「うん……どうしよう?」

「冒険じゃない?」

「は?」

「冒険しなきゃ! 異世界だし。それにきっと、スキルとかがあるよ! ステータスオープン!」 


 え? 彩香、何言ってんの?

 と思ったが、彩香は空中に出た画面を見て、はしゃいでいる。

「きゃー、あたし、白魔導士だって。よくない? なんか、けっこう強い気がするよ。弘樹くんは?」

 仕方がないので、「ステータスオープン」と言う。……恥ずかしい。

「見せて見せてー すごっ! 戦士で素早さと攻撃力が九十九だって。あたしはね、幸運が九十九だったよ! やばっ!」

 九十九がマックスかどうか分からないけれど、ともかく高い数値なら何よりだ。しかし、彩香の幸運が九十九? 異世界に飛ばされて?

 僕は頭を抱えた。

 草原を少し行くと街があって、僕たちはそこで冒険者登録をした。


 魔物を倒しまくってお金を貯めたころ、彩香が言った。

「あたし、ドラゴン、欲しいな」

「は?」

「ほら、ここの人たちでちょっと偉そうな人たち、みんなドラゴンに乗っているじゃない? あたしもドラゴン欲しい! それでね、空飛びたいの!」

「いや、僕、家を買ったらどうかなって思ってたんだけど……」

「いいじゃない、もうしばらくこの宿屋に泊まれば! それよりドラゴンよ!」

 ……彩香には逆らえないので、ドラゴンを買うことにした。

 ドラゴンって高い。家より高かった。しかも、場所代もかかるし。

 そして、いよいよドラゴンに乗る日が来た。


 結論から言うと、彩香はドラゴンに乗れなかった。

 ……才能がないとしか言いようがない。

 ドラゴンの背中に乗ることがまず難しく、乗ったかと思ったら転げ落ち、ドラゴンにつかまるようにしてようやく飛んだかと思ったら、「無理無理~! もう下りるー! 気持ち悪いー! 酔ったー‼」という声が、空から降ってきた。

 そう言えば、デートの場所、乗り物酔いするから遊園地はイヤだって言われたんだった。

 ドラゴンは僕が乗ることにした。結構いい感じ。


 

     了



☆☆☆いままでのショートショートはこちら☆☆☆

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330650143716000

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ドラゴン 西しまこ @nishi-shima

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