転生したら殺し屋の家系に生まれてた件
五月雨 四季
第1話 プロローグ
その日、俺がクソッタレな世界に転生していることを自覚した。
それは夕闇が朧気に溶け合う時間帯のことだった。
当たりを見渡せばそこは普段の部屋の内装と違っていた。現代風の小物がいくつか見受けられたが、それに見覚えなんてない。しかも凶器がベットの付近には備えられており錆びれたナイフは鈍く夕日を反射していた。
「なんだこれ?俺の部屋じゃ......ないのか?」
もちろん俺は常に危険物を片手に過ごすような男じゃない。そして、こんなもの買った覚えさえない。
「うーむ?」
刃先の持ち手を親指と人差し指で挟んで持ち上げ慎重に眺める。
なんだこれ?こんな錆びたナイフ、普通ならさっさと処分するくらいなのに。
どうしてこんなことに...?
そういえば記憶も朧気だ。頭もクラクラする。
もしかしていつの間にか人の家に上がり込んでしまったとか?
しかもいかにも危険そうな家に。
音を立てないようにゆっくりと立ち上がる。
この部屋の窓の外を見てみる。そこに備え付けられるガラスに映ったのは、沈み行く太陽と見たこともない男の顔だった。
「え、だれ?お前。......いや、おれ?」
俺が右手をあげるとそいつも右手をあげるし、口を開けばそいつも口を開く。
そう、そいつはいつもの顔の違う俺だった。
「なにこれ...俺って35歳のおっさんで、えっと確か...そう、30になってもあれだったから、魔法が使えるようになって。若返りの魔法とか使えるようになったとか?」
うーむ、そんなわけあるわけないかって思ったけど、ちょっとだけ信じてしまいそう。この歳になると、若返ってもう1回人生やり直したいとか考えてしまう。
だか、冷静に考えてみよう。今のこの状況、顔も知らない男が自分、この部屋も知らない、たったこれだけの情報で推測するならば、もしや俺ってば転生したのでは??
それしか考えられないんだが、最新技術でどうちゃらこうちゃらとか、小難しい話の可能性もあるけど、俺は前者の可能性にかけたいね。
と、そんなことを窓の外を眺めながら考えていると、この体の記憶が濁流の如く脳内に流れ込んできた。
この体が今までどのような生活を送っていたのか、その時の考え、苦しみ、嘆きが五臓六腑に染み渡る。
いや別に染み渡ったわけじゃない。寧ろそのせいで吐き気がする。それくらいこの体の持ち主は精神が侵されていた。
この体の持ち主の名は
「お目覚めでしたか、凪様」
すこし、歩んできた人生を思い出そうと思っていたところに赤い髪色をした女が俺の部屋に入ってきた。
「ああ、おかげさまでな。クソ女」
「あら、感情が揺らぎすぎでは?凪様?」
「誰のせいだと思ってんだ。正当な怒りだよ、これは」
「神威座家の嫡男たるもの、このようなことで荒ぶってはいけません。ご当主さまに、口酸っぱく言われているはずですよ」
「ああ、そんなこと言われたなぁ。だが、俺はひと時の幸せに致死性の毒を盛ったお前が目障りなんだ」
俺がさっきまでなぜ眠りこけていたのか、それはこの使用人であるこの女が毒を持ったことに原因があった。名は桜。姓は知らない。
「この家は殺し屋を輩出する家系。精神を乱すのは命取りです。それにいつ、どこで自分が狙われるかわかったものじゃありません。これも訓練ですよ」
「俺が苦労に苦労を重ねて手に入れたプリンに毒を仕込むだと?」
「甘ったれた精神はこの家には必要ありませんので」
俺と桜の間に睨み合いが続く。
俺は転生した魂と、この体の魂が溶け合うのを感じる。まるで今まで体験した記憶が自分の記憶に塗り替えられる気分だった。
こんな家、継がずに絶対に出ていってやる。
そう心に決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます