第4話 不自然な襲撃
ある日の夕刻。
俺は軽い睡眠をとっていた。
桜にいつ襲撃されるか分からないという生活を生まれた時から送らされていた俺は、眠れる時に浅い睡眠をとるようにしていた。
だからだろうか、俺は屋敷の中の不自然さを肌で感じ撮ることが出来た。
やけに静かで、空気は辻斬りのようであった。
俺は、目を瞑ったままの状態を保つ。
目を開けたいところだったが、俺の第六感がそれに対して警鐘を鳴らす。
そうしてしばらくして俺の頭上になにかの気配を感じた。人。それも今まで接触したことの無い雰囲気。だが、この屋敷にいる人間と似たような空気をまとっていた。
おそらく、同業者だな。
そう考えた俺は眠りこけた演技を続ける。
鼻にツンと刺激を感じるが、それも無視しゆっくりと呼吸を続ける。
毒だ。
だが、その毒は俺には聞かない。
だんだんと呼吸を弱めていき、そしてぱったりと呼吸をやめた。
「あら?こんなにもあっさり。一悶着覚悟していたのだけど杞憂だったかしら」
音もなく天井裏から俺の目の前に現れた女。
口元には不気味なマスクをつけており、目の周り以外の素肌を完全に隠しきっていた。
背丈は俺と変わらないか、それ以上くらいだ。
おそらく歳は俺と変わらないと言ってもいいだろう。
「脈の確認はしておくべきね」
油断しきった彼女は俺の首元に、触れようとする。
甘い匂い、しっとりとした空気が俺の顔に近づいた瞬間だった。
「えっ!?」
俺は近づいた彼女の腕に噛み付いた。
汚いとか、怖いとか、心配とか、そんな感情なんてなかった。自分が生き残るためにこの行動は正しいと思えた。
今までこの家ですごした時間が、前世の俺の常識さえ塗り替えてしまっていたのだ。
異変を察知した彼女は素早く手をひこうとする。
でもそれではもう遅い。
俺の首の動き、俺の口の動きの方が圧倒的に早かった。
「っあぅ、った」
少し呻き声を上げた彼女。隙を見つけた俺は次の行動へと移す。
鳩尾に躊躇なく一発。
そしバランスを崩すために足を払い、手足を自分自身の体を使って押さえ込み、最後に首元に手を当て呼吸出来ないように絞めた。
「お前、どこの手先だ?」
「っ、かっ、ぁぇぁ、ぅ、ぉぇ」
俺が問いかけるも首を絞められているため上手く喋ることが出来ない。
そりゃ当たり前だ。
俺は首を絞めていた手を離し、人差し指を立て侵入者の額に軽く当てた。
これで簡単には首をあげることができない。
「どうして、、毒が...」
「何言ってんだ。神威座家のものが毒に耐性がないとかありえないだろ。常識的に考えろ。それで?お前は誰だ?」
「殺しなさい!私がそんな情報をペラペラと喋るはずがないでしょう!?」
やはりというか俺の言葉に素直に応じてくれない。まあ、想定内である。
だが、それでも俺の中に疑問が湧き出てきた。
「お前、自決剤を喉奥に仕込んでないのか...」
それは殺し屋になると決められた時必ず奥歯に仕込まれる毒。
追い詰められた時、自分自身で命を捨てるために用意されたもの。それを彼女は持っていないようだった。
「も、もってるわよ!」
「ふうん?それはおかしい。それなら俺に殺せとか言わないだろうし、忘れていたとしても今この瞬間噛めばいい」
「っっ、くぅ」
「お前、素人だな。雑魚がどうして俺なんかを殺しに来た。不相応にも程がある」
苦虫を噛み潰したような表情をつくる彼女。
どういう理由で俺の元に殺しに来たのか、それにこの程度のやつがどうやってこの屋敷に侵入したのか、そのくせ気配を消す能力は長けているのか。疑問しかない。
「それがわかってるなら、私を殺しなさいよ。殺してよ!」
きっと睨みつける彼女はどこかで見たことがあるような目つきである。
なんだったか、この目付きというか、この目。なんだろう、既視感がある。でも思い出せない。
何があっても話そうとしない彼女。
俺は彼女の頭を押えていた手を握りしめ、拳を作り彼女の顔の横に叩きのめした。
ドスン、と床が振動する。
「お前を殺そうと思えば殺せるが...、なんだか興味が湧いた。そうだ!決めた、お前今日から俺の物な」
「は、はぁ!?何言ってんの、このっ、殺しなさい!」
意固地になって反論するため俺はまた彼女の首を絞めた。
「っ、かっ、、あぅぅかぁぁ、っぅ」
「口答えすんな、俺の命令には絶対な。拒否権は無い。父上に許可がとれたらお前は俺の元で働くんだ」
この先考えることになる。
俺はいつから心が壊れていたのかと。
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