第3話 殺傷桜
今日も今日とて暗殺術の訓練が行われる。
今日は実践的訓練を行うこととなっていた。日常生活では桜から奇襲ばかり企てられるが、今日は違った。
なんとこういう日は反撃していいのだ。
普段は避けるばかりでつまらないのだが、こういうのはワクワクする。
当然俺は彼女を本気で殺す気で動く。彼女が死んだとしても俺はなんとも思わないしな。
万に一つくらいは、悲しくなるかもしれないけどそんなこともあると割り切ることが出来ると思う。
「桜、今どこにいるんだろ」
俺は気配を消して屋敷中を動き回る。
天井裏から床下まで、自分のフィールドを幅広く使う事によって、痕跡を残す事を極力避ける。
そうして探しているのだが、なんだかおかしい。
どこにも彼女はいないのだ。
「もしかして外にいるのか?」
そう思った俺は探索範囲を広げる。
ほとんど屋敷を出る姿を見た事がない桜。本当に今日は珍しい日だった。
刀を懐に備え、屋敷の前に広がる森の中に入っていく。
しばらくすると、そこには人が通った痕跡を見つけた。
土の沈み具合と、脚のサイズ、歩幅、歩き方のくせ。どれをとっても思い浮かぶのは桜だった。
「あっちか、たしかあっちは川があったはずだが、何をしているんだ?」
水浴びでもしているのだろうか。よく分からないが、今の彼女は無防備だろう。毒をしかけた時の報いを浴びるときだ。
そう思って後ろ姿を見つけた俺はひっそりと木の影に隠れた。
精神を落ち着かせ顔をひっそりとだす。
そこに映ったのは洗濯板を持って服を洗う彼女の姿だった。
「川の水が冷たいなぁ」
普段の彼女の言葉遣いとは違っていた。
高校生っぽく見える彼女。
それらしい喋り方だった。
いつも俺に見せる敬語とは別の。
そして今、彼女は川の水で自分の服を洗濯していた。時代錯誤にも程があるだろう。
もしかしたらべっとりと着いた血が取れなくてとか考えられなくは無いがこんなところで洗濯板を使うことは無いだろう。
それに一見汚れの見えない服もその場で洗っていた。
「家に帰りたいなぁ。でも帰れないし...。いくら本家のためにここに来たとはいえ、こんな扱いないでしょ」
そうグチグチとつぶやく彼女。
話を聞いているうちにわかった。
どうやら彼女は神威座家の分家の娘であるようだ。それで、俺の世話をするためにこの家に来たとか。
で、今の口ぶりだと父上にはいい扱いを受けてないようだ。
まぁ当然か。所詮分家だと割り切ってそうな父親だもんな。
「凪様?盗み聞きは感心しませんね」
ピクっと器用に耳を動かした桜。
ゆっくりとこちらの方へと振り返る。
俺も仕方ないと判断し姿を現した。
「別に、盗み聞きではない。ただ機会を伺っていただけだ」
「?? ああ、なるほど。今日は反撃してくる日なのですか。それにしても気配の消し方、上達していますね。全く気づけませんでしたよ」
「おかげさまでな。そのおかげで色々と聞けた」
「そう...ですか。どこから聞いていたのですか?」
俺に不安そうに聞いてくる桜。こんな彼女を見るのなんて初めてで逆に反応に困ってしまう。
だいたいいつもなら戸惑いなく口にするくせに、今日に限って弱々しい。
「さあ、どこからだろうか?」
おどけるようにそう言った。
「俺、初めて桜のことについてしれた気がする。今まで知ろうともしなかったから」
それは本当のこと。
昔の俺は彼女を敵のようなものだと思っていた。
自分が成長するための踏み台とか、そう思ったりもした。
だが、愚痴を聞いて、俺は『桜』という人物を知ってしまった。
前世の俺が高校生の時何をしてただろうか。
友達とゲーセンに行って、勉強したくなさから親に反発して、言い訳を作って。
何者にも縛られないとか調子に乗って、自由な時間を過ごしたと思う。
目の前にいる少女とは正反対に思えた。
だから俺はするりとこの言葉が出ていた。
「なあ、お前、この家から出たいなら今のうちに出ていけよ。俺が殺したって言っておくから」
単なる哀れみからくる偽善であった。
「いいえ?私はこの家に残らないといけないのですよ。凪様のお世話もしなくちゃですしね。あなたに殺されるまではあなたのそばにいますよ」
彼女の目には黒い固まりがあった。
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