第2話

 西暦2045年当時、発展途上国も含め、世界中がインターネットによってつながれた事で『均衡性』と『物事を吟味する時間』を失い、ほんの一部のヒステリックな反応が大した理由もなく一瞬で世界の隅々まで伝わり、大きなムーブメントに発展する状況下にあった。そこに投下された今回の議論、既に『人口爆発』に端を発する先の見えない世界的荒廃の中、その不安からかいくつかの国で「戦争は必要悪だ」として熱狂的に支持された。その熱狂ぶりはSNS等を通じてあっという間に世界に拡散され、世界は狂乱状態に陥った。各国の理性ある政治家や知識人たちが国民に冷静さを取り戻すよう呼びかけたが「それならこの『人口爆発』に対する新たな解決策を提示しろ」という非難の声に対し具体的な反論ができず、ますます戦争待望論は世界に侵食していった。そしてこのムーブメントの火付け役を自負する西側大国の変人大統領はいよいよ調子に乗り、自国が国際連合安全保障理事会常任理事国である事を知ってか知らでか「国際連合の総会で人類に必要な戦争を認めさせる。私こそ人類の救済者だ。」とぶち上げた。この言動に対し他の常任理事国の首脳達は最初こそ驚きを示したが、それぞれ自国の軍需産業は儲かるだろうという思惑から、渋々であることを装いながらも賛成表明を行った。

 この流れに気を良くした変人大統領の指示により、この国から国際連合に対し「戦争によって世界的人口をコントロールする」という案が上程された。国際連合での決議前の意見陳述では、まだまともな感覚を持っていた幾つかの国の代表が戦争を肯定するなんてあり得ないと反対の意思を示したが、西側諸国の盟主が戦争を肯定した今、各国は既に軍備増強に向けて動き始めており、各国の武器メーカーは販売で遅れを取ってはならないと既にアジアやアフリカの国々に武器販売の大キャンペーンを開始していた。そして戦争が容認され定期的に実施されるような事があれば更に需要が伸び、儲けが出るという目論見から国連各国代表に対し軍事産業からの裏金がばら撒かれた。そのような狂乱の中で西暦2046年、上程された案は90%を超える参加国の賛成で承認された。


 方針は定まったがそれからのルール作りが大変だった。どの国とどの国で戦争をするのか、またそれを誰が決めるかなど問題は山積だった。しかし現状が続いても更なる世界的な荒廃が待っているだけだという不安から、国連において不眠不休でルール作りが行われた。その結果、以下のルールが決められた。

1 )四年に一回、条件付きの戦争を行う。一連のこの戦争による世界人口コントロールの名称は『WWM』ワールド・ウォー・ミッションとする。

2)対戦相手はAIによって決められる。

3)なおAIが対戦相手を決める際には、GDPや軍事力等、複数の項目をパラメータ化して一方的な展開にならないよう調整される。

4)バランスがうまく取れない場合は2国対3国等複数国同士の指定もあり得る。但し1国対複数国の指定はない。

5) 戦争犯罪は許されない。戦闘エリアは須くドローンによる監視が行われ、戦争犯罪が確認された場合はその個人を厳罰に処す。

6)国連において各国のGDPに応じて賞金を支出、ストックし、戦争終了時に戦死者が少ない方を勝者とし賞金の7割を受領。敗者も3割を受領し戦後復興に充てる。

7) 戦争の期間は100日間とするが、その前に国民全人口の10%を失うような一方的な戦況になった場合は、その時点で終戦となる。

8)このWWMの戦闘中において得た占有地は戦闘終了後必ず返還される。(国境不変)

9)核兵器等大量破壊兵器並びに非人道的兵器の使用の禁止。(禁止兵器使用による即時敗退)

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