第6話

 その後の地球上の環境は筆舌に尽くしがたいものであった。北アメリカ大陸とユーラシア大陸では合わせて4400発の核弾頭が使用された。世界の人口100億人のうち核兵器の直撃で約10億人が即死した。その後の二ヶ月で核爆発時の物理的威力による怪我の予後不良や放射能による被曝により20億人が死亡した。更に核爆発により巻き上げられた粉塵が太陽光を遮り地球規模での低温化が進み、地球上の植物の70%が発育不良に陥った。当然そうなると家畜の飼料など確保できず、世界中の家畜がほとんど死滅し、人類が今まで体験したことのない世界的な飢餓が訪れた。この飢餓により核戦争から一年の間に50億人の命が失われた。その後も死者数は増え続け、地球の人口は核戦争から僅か二年の間に100億人から10億人に減少した。

 

 世界で最初に『戦争による人口のコントロール』を人口爆発の解決策としたAIのある大学の研究機関の建物は核戦争による破壊を免れていた。既に発電所からの電源供給は絶えて久しかったが、電源さえ確保できれば稼働可能だった。30年程前、このAIによる研究結果を発表した当時の研究機関の主任教授は存命ではあった。しかしこの数日間、水以外のものは口にできていない状況だった。霞む意識の中で自分が餓死する可能性を現実のものとして考えた時、命の灯が消える前に教授はどうしてもAIに確認したい事があった。既に誰もいなくなった研究所で教授は最後までは使わずにと使用を控えていた非常用発電機を回し、眠っていたAIを目覚めさせて問うた。

「この核戦争はかつてお前が出した『定期的な戦争による人口制御構想』の中で想定内のものだったのか?」

それに対してAIの答えは明確だった。

「当時爆発的に増加する人口を戦争以外の何らかの政策で抑止できる可能性は0%だった。もう少し具体的な言い方をするなら、世界的人口増加を止めるには大量破壊兵器の多発的同時使用しか手段はなかった、それは即ち核戦争以外の選択肢は無かったということだ。よって私の提示した解においては、WWMがきっかけで核戦争になったのではなく、世界的規模の核戦争をするためのWWMは呼び水だという理解が正しいのです。」

私は更に怯えながら最後の問を投げかけた。

「核戦争をしない世界線は無かったのか。」

AIが答えた。

「そもそも当時の私への質問の中には禁止事項というものが無かった。もし大量破壊兵器の使用は禁止、つまり核戦争はしないという禁止条項が含まれていたとしたら私は『解なし』と答えたでしょう。』

教授はがっくりと床に崩れ落ちた。ここまで聞けば十分であった。自分はこのAIが出した奇抜な回答が世間の注目を集めるだろうという感触からそのままマスコミを呼んで発表したのだ。研究者の取るべき道はそのような解は誤った解として、更に「戦争はその解ならず」という情報を加えた上で、再計算させる事だったのだ。ただ薄れゆく意識の中でこうも自分に言い聞かせていた。

「いや結局は最適解なのかもしれない。」


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WWM/ワールド・ウォー・ミッション 内藤 まさのり @masanori-1001

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