第5話

 そこから人類の運命の歯車は急速に動き出した。WWMでの戦闘期限が過ぎてもアリューシャン列島を占拠したR国軍が退去しなかった。それどころか占拠した島々の要塞化を始めた。A国は数日間は外務省などを通じてR国に抗議したがR国は「アリューシャン列島は歴史的にみてそもそもR国の領土であり、この事実に基づいて行動するのみ」と一方的な実効支配を宣言した。これに怒ったA国はWWMから帰投途中であった空母打撃群の一部をアリューシャン列島に向かうよう命令した。緊張が高まる中、戦端はA国によってあっさりと開かれた。A国の艦載機による空からの圧倒的な攻撃によりR国軍は各島からの撤退を迫られた。しかしその撤退はあまりに速やかでA国軍の中にも訝しむ声があったが、A国の大統領や海軍はそれが自国の軍隊が強力であるが故と考え警戒を怠っていた。そこに驚きのニュースが飛び込んでくる。R国が「使える核」と呼ばれる局地戦用核兵器を使う兆しがあるというものだった。残念な事にそのニュースは数時間後には現実のものとなった。R国の大統領がテレビ演説を行い、R国が占拠していたアリューシャン列島へのA国の攻撃は、宣戦布告も無い一方的な騙し討ちだと非難し、R国が局地戦用核兵器を使用する十分な理由になると核攻撃を宣言。その演説が終わるとR国からアリューシャン列島近辺に集結していたA国の空母打撃群に向けて局地戦用核弾頭を積んだミサイルが一斉に打ち込まれた。いくつかのミサイルはA国のイージス艦による迎撃システムによって迎撃されたが、そもそも本来であれば人も軍艦も大して集まることのないアリューシャン列島のミサイル防御網は薄く、発射された多くのミサイルがアリューシャン列島奪還の為に集結していたA国の海上戦力群に達し、その海域にいたA国海軍の艦船は消滅した。

 A国は世界各地のパワーバランスが崩れる事を悟った、と同時に攻められる恐怖に駆られた大統領が大陸間弾道ミサイルによる敵性国家への先制攻撃を指示した。その攻撃先には同等の核戦力を保有するR国はもちろん、同じく近年核戦力の増強に努めてきたC国も含まれていた。A国の大陸間弾道ミサイルの発射準備は衛星やスパイなどの情報から早々にR国の知るところになった。そしてA国のミサイル発射タイミングに合わせるようにR国とC国のミサイルがA国に向けて発射された。

その日空には幾筋ものミサイルの軌跡が描かれた。世界中の人々が空を見上げてその光景を眺めていた。

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