第4話

 西側の盟主国がAIに戦争参加国として指名を受けた際、この国の大統領は20年ほど前にこのWWM創設に一役買ったあの変人大統領ではなかった。彼には大統領の任期を終えた後、20以上の嫌疑がかかり、いくつかの裁判で敗訴していた。そしてその変人大統領政治の反動か、現在は高潔でどちらかというと潔癖症の男が選ばれていた。

 この大統領のシンクタンクは指名を受けたWWMへの参加に対し、強く反対した。というのも相手国となるユーラシア大陸の二大大国は、一国がもとスパイだった男が選挙こそ実施されているように見せかけているが、その結果を操作して構築した独裁体制と言っても過言ではない国で、もう一国も一党独裁を是とする権威主義国であり、両国とも敗戦は権威を喪失するという意味で受け入れるとは考え難く、何かしらのルール違反をしてまでも勝利に固執する、または一方的な勝利宣言をすると考えたからだった。またそういった秩序の崩壊はWWM内の戦争では収まらず、相手が降伏するまで叩きのめす真の戦争に突入する可能性すらあった。石油などの利権もないのにそのようなリスクを負う必要はないというのがシンクタンクの総意であった、そう『とっとと一抜けを決めこめばいい』と。しかし高潔な現大統領はその進言には十分理があると分かってはいたが、そもそも自国主導で始まったこのWWMを自分の番が回って来たらやらないと言い出すことでの世界各国の批判や、この先の歴史の中で身勝手と評価される事を嫌がった。そうこうしているうちに時間は経ち、遂に第7回WWMが開始された。


 開戦当初は戦況は一方的な様相を呈した。世界に例を見ない空母打撃群を所持する北アメリカ大陸の大国A国がパートナーのアジアの島国N国にある基地を有効に活用し、電撃的な海上戦力での攻勢に打って出た。その結果は圧勝であった。ユーラシア大陸のR国とC国の二国は、相手を領土の中に引き込んでの地上戦を強いられることになった。しかし地上戦に移ると戦況は一気に停滞した。攻め入った側はまず地上戦を見据えての強固な橋頭堡を作ろうとするが、攻め込まれたR国、C国側も各種武器性能ではA国に劣るものの、圧倒的に多い兵員数と武器数にものを言わせた飽和攻撃で領土内にA国が拠点を作る事を許さなかった。戦争は開始から三週間で膠着状態に陥った。

 R国、C国ともユーラシア大陸に広大な国土を持っているので印象は薄いが国土に長い海岸線を持つ海洋国家でもあった。A国が海岸線を完全に封鎖する事は叶わず、包囲網を抜けた、特にC国の艦船によるN国への攻撃が度々行われた。しかしこの攻撃は戦況を大きく変えるものではなかった。

 結局A国もR国C国の領土内に橋頭堡と呼べるような陣地を構築できず、またR国、C国もA国の海上封鎖の影響で限定的な艦船によるN国への攻撃しかできないという膠着状態が続く中でWWMの戦争終決である「開戦から100日」が近づいた。

 そしてあと一週間で終戦というタイミングでR国が不穏な作戦を開始した。アリューシャン列島への上陸、占有作戦だった。A国もこの動きを察知してはいたが、A国本土を攻撃するには小規模な艦船の移動であった事、またWWM開催期間として残された時間内にA国本土攻撃は間に合わないという判断、加えてこれは陽動作戦であり、R国、C国の沿岸に張り付いて睨みを効かせている自国の空母打撃群をアリューシャン列島に移動させると、両国軍がN国へ殺到するとの分析もあった。そして膠着状態が続いたまま100日が経過し、第7回WWMは終了した。A国は勝利を宣言し艦隊は通常の作戦形態に戻るべく移動を開始した。今回の第七回WWMに対して、第三回WWMのような激戦を期待した世界中の聴衆からは戦闘が期待したほど面白くなかったと勝手な意見が浴びせられた。

 世界が異変に気付いたのはWWR終結から一週間後だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る