第3話

 決められたこれらルールを見て例の変人大統領は苦々しい思いをしていた。戦争が起こりさえすれば武器は売れるだろうが自国が戦争を強いられる可能性があったからだ。自分の読みでは「世界で一番の軍事大国に対抗したがる国など出てこない」というものだったが、AIが複数国同士でバランスが取れるように選ぶとなれば自国が選ばれる可能性があった。ただ異議を唱えることが出来なかった。何故ならこの戦争を是と宣言してからの国際的な流れに対し、熱狂的に自分を支持する人々が世界中に少なからず存在していたからだ。その熱狂的に自分を称賛する声が心地よく、「そのルールなら我が国は参加しない」と宣言する事で賞賛が罵声に変わる事を変人は恐れた。世界的な世論に押される形で手続きは粛々と進み、ついには国際連合の総会で多数をもってこの基本ルールも西暦2047年、承認されてしまった。


そしてルールの詳細が検討され西暦2050年、第一回WWMが開催された。続く2054年に開催された第二回のWWMまでは世界に反対の声も聞こえていたが、軍需産業の増益に端を発する好景気が世界に伝搬し、戦争による死者数もそれなりで世界人口を示す折れ線グラフが若干ではあるが傾きが緩やかになった事が公表されると戦争非難の声は下火になり、新しい世界の秩序として受け入れられていった。またルールは辛くも順守された。特筆すべきは第三回のWWMでヨーロッパを構成する四つの大国が二国対二国で戦争をする事になったのだが、これらの国は前世紀の世界大戦でそれぞれ連合国側、枢軸国側として戦った歴史があり、聴衆である他の国の人々は大いに盛り上がった。更に戦闘も激化し、大量破壊兵器と非人道兵器こそ使用されなかったものの、最新鋭の戦闘機や戦車といった最新兵器による攻防が更に見る者を熱くさせた。そして開戦から100日を迎えても決着が着かず戦死者数についても大差がつかなかった事からドロー(引分け)とされた。戦争の当事国は我々こそが勝ちと異議を唱えたが、ドローンによる監視映像を見た世界中の人々の両陣営への激戦賛辞の声の中、その異議の声も小さくなっていった。

そして今年の第七回WWMの参加国としてAIは西側の盟主を自負する北アメリカ大陸の大国A国と、過去この国と戦争をして手痛い敗戦を経験したアジアの島国N国をペアとし、ユーラシア大陸の二大大国、この二国、R国とC国はどちらも権威主義的で有名な国であったが、これを他方のペアとして指名していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る