WWM/ワールド・ウォー・ミッション

内藤 まさのり

第1話

 西暦2074年は四年に一度のWWMの年だった。


 WWMとは〝ワールド・ウォー・ミッション〟の略だ。第7回となるこの世界的なイベントは遡る事30年ほど前に考案された。当時、世界は先の見えないいくつもの重篤な課題を抱えていた。その最たるものが世界的人口の爆発的増加であった。

 

 西暦2045年、当時先進国のいくつかの国では少子化が進み人口減少が進む国もあるにはあったが、アジアとアフリカでは多数を占める発展途上の国々において子供は労働力とみなされ、多産を良しとする風潮があった。そこに医学の進歩により事故や病気による死亡者が減少したことでそれら地域の人口は爆発的に増加した。その増加した人口はアジア・アフリカ地域から他の地域に溢れ出し、世界中に食糧不足と貧困が蔓延した。治安は悪化し一握りの富裕層が大多数の貧困層の標的となり襲撃されるという事件が世界各地で日常的に発生するという状況に陥っていた。世界は荒廃の一途を辿っていた。

 そのような世相の中、ある研究結果が注目を浴びた。というのも世界的に有名なある大学の研究機関がAIにこの人口爆発問題の解決方法を問うたところ、一つの答えを出したのだがそれが『定期的な戦争による世界的人口のコントロール』というものだったからである。多くのメディアが驚きと共に否定する論調で取り扱ったが、話題になる事でこのAIの人口爆発解決策が世界中に広く知れ渡る事となった。そうなると各国のAI研究機関が否が応にもその研究結果の検証をせざるを得ない空気感が生まれた。そして世界中の研究者が『戦争による人口コントロール』なんて馬鹿げた回答など出るわけがないと高を括ってAIに対し同様の地球的な人口問題の解決方法を問うたところ、マスコミや多くの人々の予想に反して各地で『定期的な戦争による世界人口のコントロール』という同様の回答が導き出された。

 ここまでの話であればただの話題程度で、時が経てば忘れ去られるものだった。しかし幸か不幸かその時の西側諸国の盟主を自負する北アメリカ大陸にある大国の大統領、これがビジネスマン上がりの変人だったのだが、SNSを使って「これこそ神の啓示」と喧伝し始めた。もちろん神の名など持ち出して高尚な話を装っているが、単に「自分の国ならどこの国と戦争をしても負ける事などない」という安易な考えと、「戦争が起きれば軍事産業が儲かるので貸しが出来る」という浅ましい考えからだった。ただこの変人の腹の内とは関係なく、西側諸国のリーダーがこのAIが導き出した回答を支持した事で、各国においてもこの『定期的な戦争による世界人口のコントロール』を政治的テーマとして議論せざるを得なくなってしまった。

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