森の中の家

西しまこ

第1話


 それは白馬に乗ってやってきた。

 傷ついて、馬に乗っているのがやっとという体で。

 僕は白馬からその人を下ろして――僕よりもずっと大きい人だったので、とても大変だった――家の中に入れ、甲冑をなんとか外してベッドに寝かせた。


 白馬もかなり傷ついていて、とても痛々しかった。

 馬はそれでも主人を気にしているようで、僕の家の方をずっと見ていた。

 僕は「大丈夫だよ」と言い、馬をつなぎ、そしてそっと傷口を拭いてやった。手を当てて傷を回復させる。

「頑張ったね。あの人も大丈夫だから、安心して」


 この森の向こうでは戦争が起こっていた。

 僕にはよく分からない事情で。

 僕はもう誰も入って来られないように、結界をはり直した。

 白馬があまりにも訴えかけるので、例外で入れただけだった。

 僕は僕の森をゆっくり散策して、果物を探した。傷ついたあの人も、果物ならば食べられるかもしれない。


 果物をいくつかもいで家に戻ると、その人は身を起こしていた。

「ここは?」

「僕の家です……大丈夫ですか?」

 その人が顔をしかめたので、起こしていた軀をまたベッドに寝かせる。そうして、馬にしたように傷を回復させた。

「……君は?」

「ここに一人で住んでいるんです」

「一人で?」

 こくりと頷く。

「少し、眠ってください」

 僕は彼の額に手を当てた。すると、彼は眠りについた。傷ついたときは眠るのが一番だ。僕はベッドの横の小さなテーブルに果物を置くと、外に出た。



 僕たちの一族は、もう僕以外にはいない。

 僕は井戸から水を汲んだ。手をかざして桶を引き上げる。

 この力のために、戦争の道具として使われ、みんな死んでいったのだ。僕の両親は僕が母のお腹に宿ったことを知ると、必死で逃げてこの森に来て結界をはって親子三人で暮らすことにしたのだ。

 父も母も、戦争で既に傷を負っていて、それは回復出来ない種類のものでじわじわと命を縮めて死んでしまった。それ以来、僕はここに静かに一人で暮らしている。

 扉が開く音がして振り返ると、彼が立っていて「ありがとう」と言った。

 白馬に乗ってやってきた彼が、僕の生活にどんな変化をもたらすのであろうか。

 彼の瞳はとても優しかった――



   了

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