ポッキーの日

 スマホを持ったイチフサは、Amazonのアプリもとっていて、それで色々なものを通販している。

 この前あったハロウィンのコスプレグッズだってそう。


 妖怪のくせに現代社会に染まりすぎよ!

 ツッコミどころ満載だけど、それがイチフサなんだから、いい加減もう受け入れた。

 そして今回も、イチフサはあるものを通販していた。


「はい、結衣。これあげる」

「なにこれ?」

「なにって、ポッキーだよ。もしかして知らないの? 細長いスティック状のビスケットにチョコレートをかけたお菓子の……」

「ポッキーくらい知ってるわよ!」


 ポッキーなんて、多分知らない人を探す方が難しい。


「そうじゃなくて、なんでわざわざ渡すのかってこと」

「今日はポッキーの日だし、せっかくだから二人で食べようと思って」


 ああ。そういえば、今日11月11日はポッキーの日だって、どこかで聞いたことがあったっけ。

 イチフサも、多分これまたネット経由で知ったのね。


「で、私にポッキーを渡してどうしようって言うの?」

「どうするって、だから二人で食べようと思ったんだって。ちょうど一箱に二袋入ってるから分けやすいしね」


 そうしてイチフサは、片方の袋を開けて、ポリポリと食べ始める。

 一本、二本と、ごくごく普通に食べていく。


「本当にただ食べるだけなのね。あんたのことだから、これにかこつけてまた何かろくでもないことやるのかと思ってた」

「結衣、俺のことをなんだと思ってるのさ」


 ジト〜ッとした目で見てくるイチフサ。

 だ、だってしょうがないじゃない!


「この前あったハロウィンだって、私に魔女のコスプレさせてたじゃない。今度はポッキーゲームやりたいくらい言い出すんじゃないかって思ったのよ」

「ポッキーゲーム? なにそれ?」


 どうやらイチフサ、ポッキーゲームについては、存在自体を知らなかったみたい。


 よかった。


 ポッキーゲームってのは、男女がそれぞれポッキーの端から食べ始めて、その結果チューしそうになる、もしくはしちゃうっていうやつだけど、イチフサは一生知らなくていいから。


 と思ったら、なんとイチフサ、すぐさまスマホを取り出して調べ始めた!


「ええと、ポッキーゲームポッキーゲーム……おっ、これか。どれどれ……」


 そうしてポッキーゲームの説明やら、実践している動画やらを見ていたんだけど、詳しく知る度に、だんだんと目を輝かせていっていた。


 これは、まずい。


 そして色々と調べ終わったその時、イチフサの目の輝きは最高潮に達していた。


「なにこの最高すぎるゲーム! やろう。今すぐやろう!」

「やっぱり! そう言うと思ったわよ!」


 ああ、もう! ポッキーゲームなんて言うんじゃなかった!


「やるわけないでしょ! だいたいあんた、自分のポッキー全部食べちゃってるじゃない」


 イチフサは、ポッキーゲームを調べている間も片手でポッキーを食べていたから、彼の分のポッキーはもう一本も残っていなかった。


「でも、結衣の分がまだ残っているよね」

「うっ……」


 そう。私の分のポッキーは、ほぼ手付かず。

 ポッキーゲームをやるには、これだけあれば十分だ。


 だけどそんなの無理!

 なんだけど、イチフサから頼まれると、なんだかんだで断れないような気がする。

 この前のハロウィンだって、結局断りきれなくて魔女のコスプレする羽目になったし、今回もまた、それと同じパターンになるかも。


「ダメ? どうしても?」

「うぅっ…………」


 だから、その捨てられた子犬のような目やめててば!

 そんなの見せられたら、なんだか断るのが申し訳なくなっちゃうじゃない。


 だけど、今回こそは絶対にやらないんだから。

 いつまでも同じパターンでなんとかなると思わないでよね。


 かくなる上は、こうしてやるんだから!


「えぇーいっ!」


 ────バクッ!


「ああっ! 持ってるポッキー、全部一度に食べた!」

「ふぉ、ふぉふほ。ふぉへへふぉうふぉっひーへーふはへふはいへふぉう(ど、どうよ。これでもうポッキーゲームはできないでしょう)」

「いや、なに言ってるのか全然わからないから」


 今の私の口の中はポッキーまみれ。できればこんな雑な食べ方じゃなくて、もっと味わって食べたかったけど、とにかくこれでポッキーゲームは阻止できた。


「ああ、せっかくの結衣とのチューが」

「ポッキーゲームでなくチューって言ったわね。せめてそういう下心はオブラートに包なさいよ」


 ガックリと肩を落とすイチフサ。

 こいつ、いい加減セクハラで訴えてやろうかしら。


「だいたい、初チューをこんなノリでやるなんて、嫌に決まってるでしょ! やるならもっとムードやロマンを大事にしてよね!」


 怒ってそう言うけど、それを聞いたイチフサは、なぜかキョトンとした顔をする。


「えっ? それって、ムードやロマンをしっかりしたら、チューしてくれるってこと?」

「えっ? そ、それは……」


 し、しまった!

 つい勢いで本音を……ううん、本音じゃない本音じゃない。

 イチフサにペースを乱されて、錯乱してただけなんだから。


「ごめんね結衣。最高にロマンチックなシチュエーションを考えるから、待っててね」

「し、知らないわよこのバカ!」


 結局、この日ポッキーゲームは未遂に終わったけど、イチフサの心に妙な闘志を植え付けてしまったみたい。


 これからしばらくして、イチフサの考える最高にロマンチックなシチュエーションが実行され、そこでまた私たちは大いに揉めることになるのだけど、それはまた別の話だ。







 ※この続きは、書くかどうかは未定です。いつか書けたらいいな。

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人間×妖怪 バカップル! 無月兄 @tukuyomimutuki

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