未来の二人
これは、少し先の未来のお話。
目を覚ました時、一瞬、ここがどこだかわからなかった。だけどすぐに思い出す。
ここは、地元から少し離れた場所にある、妖怪の隠れ里。そこにある妖怪の営む宿に、私とイチフサはちょっとした旅行に来ていた。
両親には、大学の友達と旅行に行くと伝えていたけど、まさかこんなところに来ているなんて思ってもいないでしょうね。
そして、一緒にやってきたイチフサはというと、私のすぐ隣にいる。
「ちょっとイチフサ、なに見てるのよ」
並んで横になりながら、ニコニコした顔でこっちを見ているイチフサ。
「結衣、起きたんだ。もう少し寝ててもよかったのに。寝顔、可愛かったよ」
「バカ。なに言ってるのよ」
普段はふざけたことしか言わないようなやつだから、こんな時、なんて返したらいいのかわからない。思わずそっぽを向いて悪態をつくけど、イチフサはそれを見てますます楽しそうに言った。
「ほんとに可愛かったんだって。寝顔も。それに、さっきの結衣もね」
「~~~~っ!」
まったくコイツは。困るから、あんまりそういうこと言わないでよ。
さっきのことを思いだしたとたん、何も身につけていない自分の体が、一気に火照ったような気がした。
私たちは、仮にも一応彼女と彼氏。付き合ってから、それなりに時間も経っている。大学生になった今、年齢の引き下げられた成人年齢の範疇に入った今、結構なことは自己責任で決められる。
そんな男女が二人きりで同じ部屋での一泊旅行。となると、当然それに伴うなんやかんやもあるわけだ。某小説投稿サイトのレーティングで言うところの、性描写有り的なことが。
「なに布団にくるまってるのさ」
イチフサにもかかっていた布団を奪い、ミノムシのように丸くなる。
そんな私を見ながらイチフサは面白そうに笑うけど、私はそれを直視することができなかった。
だって、服を一切着ていないのは、イチフサも同じだもの。そこで布団まで奪ったら、いよいよ一糸まとわぬ姿になるでしょ。そんなの見れるわけないじゃない。
だったら布団を奪うなってなるかもしれないけど、それも無理。
「ふ、服着るから、それまでむこう向いててよ」
「えーっ。どうせもう全部見たんだし、今さら隠すことないじゃないか」
「バカ! それでも、嫌なものは嫌なの!」
変な話だけど、行き着くとこまで行ったってのに、未だに見られることへの羞恥心は残ってる。 もう一度強めに釘を刺すと、イチフサも渋々ながらこっちに背中を向ける。
さあ、さっさと服を着よう。だけどそう思ったその時、胸元に赤い跡がついていることに気づいた。
これは、イチフサのつけたキスマーク。多分、同じような跡はここ以外にもあるだろう。
そういえば昔イチフサは、人から見られないような場所にキスマークをつけたいなんて言ってたけど、数年越しにその願いが叶ったわけだ。
あの時イチフサは、私の体全てを愛するように触れてきて、そのひとつひとつに唇を押し当て、さらには……い、いや。詳しく思い出すのはやめておこう。なんだかそれだけで、また意識が飛びそうになる。
「結衣、もう着替えた? そっち向いていい?」
「ひゃぁぁぁっ! ま、まだダメーっ!」
ほんと、あれこれ思い出してる場合じゃない。大急ぎで服を着ると、イチフサもいつの間にか服を着込んでいた。
これでようやく、お互い見て見られてができるようになったわけだ。
そうして私を見たイチフサが、真っ先に言ったのがこれだ。
「なにそれ、すっごい寝癖」
「なっ!?」
慌てて髪を触ってみると、確かにイチフサの言う通り、あちこち跳ねてるみたいだった。今まで鏡を見てなかったから気づかなかった。
けどだからって、いきなりそんなこと言わなくてもいいじゃない!
「痛っ! 謝るから、ポカポカ殴らないでよ。悪かったって」
「あんたにデリカシーがないのが悪い! 罰としてブラッシングしなさいよ」
殴るのを止めた後、イチフサにブラシを手渡す。サラッサラにしないと、許してやらないんだからね。
「いいよ。やってあげるから、こっちにおいで」
そう言って、膝の上をポンポンと叩くイチフサ。そこに腰掛けると、いよいよブラッシング開始だ。
後ろから包み込むような体勢で、少しずつ私の髪を梳いていく。
わかっていたけど、この体勢、めちゃめちゃ距離が近いわね。心臓の音、聞こえなければいいんだけど。
「どさくさに紛れて変なことしないでよね」
「だから、今さらそういうこと言う? う~ん、困ったな。それは、約束できないかも」
「…………バカ」
照れ隠しに言った言葉は逆効果。これじゃ、ますます心臓がうるさくなるじゃない。
この後イチフサが約束を守ったかどうかは、ここでは話さないでおく。
※二人の話、一旦はこれにて終了です。ここまで読んでくださってありがとうございました。
ですが一応完結ボタンは押しますが、何か思いついたらまた続きを書くかもしれません。
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