After Story.

「mon chéri」

「ん? なぁに」

「昔、サンジェルマンデプレに住んでいたご主人がよく奥さんのことをそう呼んでいたんだよ」

「えっと」

「僕にこの言葉の意味は分からないが、きっと君のようなものをそう呼ぶのだと思う」

「わ、わたし……フランス語は習ったことがあって……」

「あぁ、そうだったかい?」

 僕はあわあわと慌てふためく彼女の顔を見ながら微笑む。僕もこの意味を知っている。昔のご主人様が奥様に言っていた時、奥様もまた今の君と同じ顔をしていた。

「モンシェリ」

 ――僕の愛しい人。

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飛べない鳥のセレナーデ 虎渓理紗 @risakuro_9608

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