『可愛い』私を見ないでください

Ab

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 私ほど価値の低い人生を歩んできた人間は他にいない。


 そう思うのも違和感がなくなってきたくらいには、私はダメな方の道を進んでいる。


 早帰りできるテスト期間も今日で終わり、周りのクラスメイト達は十分前に完成させたばかりの答案を思い出して一喜一憂していた。どの生徒からも、いつものように私の名前が聞こえてくる。



「長谷川さんが隣にいたから頑張れた」


「長谷川さんに目を奪われてて解ききれなかった」



 男女問わず誰も彼もが長谷川さん、長谷川さんと私の名前を口にする。あなた達の成績は私のおかげでもなければ、私のせいでもない。

 本当に居心地が悪かった。

 カバンを持って立ち上がり、それだけで教室中の視線が私に向いた。


 ああ、まただ。

 また言われる。



「可愛いなぁ……」



 すーっと鼻から息を浅くを吸って、私は誰に挨拶するでもなく教室から抜け出した。




 廊下に出たからといって、私に対する声と視線は無くならない。すれ違う同級生、先輩、先生までもが私を目や首で追いかけてくる。


 『可愛い』と、もう嫌になる程耳にしてきた。悪気がないのも分かってる。

 でも、人の価値は他者からの評価で決まるのだ。優しい、頭がいい、運動ができる、ピアノが弾ける。色んな人に多様な評価をしてもらって個人の価値はできあがる。

 それなのに、私には『可愛い』しかない。


 視線を抜けてやってきたのは、【便利屋】と呼ばれる生徒会室の前だ。

 生徒会には全く興味がなかったものの、噂によると【便利屋】こと生徒会長の島崎先輩は、頼めばなんでもしてくれるらしい。なんでもというのは文字通りで、キスを求めた生徒の願いも叶ったとか。


 島崎先輩は私の基準からしたらまさに価値のある人間だ。共感はできないが、人の願いを叶えるというのは叶えた願いの数だけ他者から評価される。


 そんな人にこそ、私の人生を壊してもらいたい。



 軽く二回ドアを叩くと、「はーい」と明るい声が返ってきた。私は姿勢を低くしながらドアを開けて中に入る。



「失礼します」

「どうぞどうぞ〜。わあ、べっぴんさんだ」



 無意識に、ドアを閉じる腕に少しだけ力が入る。



「どこでも座って。なんでも自由にしていいからね。あ、この椅子に座りたいならどこうか?」

「い、いえ。それは会長の椅子ですから。私はここで」

「そう?」



 苦笑してからソファへ腰掛ける。すると結局先輩は立ち上がり、ブラインドをおろしてからテーブルを挟んで私の対面のソファに座った。前傾姿勢でまっすぐ私の目を見て言ってくる。



「まずは自己紹介。あたしが生徒会長の島崎遥香です! よろしくね〜」

「私は一年の長谷川沙耶さやです。よろしくお願いします」

「うんうん、よろしく〜。今日は何か相談事? それともお願い事?」

「えっと……多分、両方です」

「おお。いいねいいね。笑顔のためならなんでもするよ。話聞かせて? ……あーいや、ちょっと待って」



 島崎先輩は再び立ち上がると、急足でドアの鍵を閉めに行ってくれた。



「生徒会メンバーは誰も来ないだろうけど、他の相談者が来ると困るからね。プライバシーってやつ。気づくの遅れてごめんね」

「いえ、ありがとうございます。……あの、生徒会の他のメンバーは、どういう?」

「あー、それはなんていうか、あたしが相談受けすぎるせいで事務がパンクしちゃって、今は名前だけ置いてもらってるの」

「パンクって、それじゃあ今は先輩お一人で生徒会の業務を全て回しているんですか?」

「まあね。事務作業なんて笑顔一つでいくらでも頑張れちゃうからさ! それくらいあたしは、人の笑った顔が好きなんだ〜っ」



 席に戻った島崎先輩はとても楽しそうに笑っていた。



「だからどんな相談でもお願いでも、あたしが絶対に叶えてあげる。信じて話してみて?」



 力強い言葉と表情。まっすぐ私を見てくれる。

 この人になら胸の内を話してもいい。元々そのつもりだったけど、改めてそう思った。



「簡単に言うと、私は今まで他人から『可愛い』以外の評価を受けたことがありません。そんな現状を先輩に壊していただきたいのです」

「……あ、あたしもさっき似たようなこと言っちゃった。ごめん」

「い、いえ。初対面だったので、他に話題もなかったですから。大丈夫です」



 傲慢な願い事だと笑われなくて安堵する。

 私の返事に彼女は淡く微笑んだ。



「『可愛い』って言われるのが嫌になったきっかけとかって、聞いてもいい?」

「……きっかけは、小学2年生の時に参加したピアノのコンクールです。表彰台の上で優勝したことに喜んでいた私に対して、観客は『可愛い』という言葉ばかり呟いて、優勝したことを喜んでいるのが私だけのようで、恥ずかしくて。褒めてほしいのは、努力したピアノだったのに」

「そういうことが、今もピアノ以外で続いてるのかな」

「……はい」



 努力して可愛くあろうとしたことなんて、それを経験して以降一度もないのに。



「周りから評価してもらえないことは、人の価値にはなり得ない。勉強や運動をいくら頑張っても、誰もそこを評価してくれない。しかも、高校に上がってからは男子のイヤな視線も増え続けてて、どこにいても本当に居心地が悪いんです。けど、これといった対策が思いつかなくて……相談に来ました」



 カチ、カチと二人きりの部屋に秒針の音が響く。少し間があってから、先輩は真面目な口調で切り出した。



「客観的な事実として長谷川さんは綺麗だし、スタイルもいいからね。とはいえ、一切のケアを辞めてお風呂にも入るなーなんてアドバイス、あたしはしないよ。それじゃあ論点がずれるだけだもんね」



 私の表情から察したのか、言おうとしたことを先回りして潰してくれた。こういう能力があるからこそ、先輩を頼る人は尽きないんだろうな。



「あたしから提案する部分的な解決策の一つ。それは、あたしが長谷川さんの恋人になること」


「……こい、……人?」


「もちろん表向きはって話だよ? 多様性の時代、大っぴらに宣言しても大っぴらに否定してくる人なんていないでしょ。適当な男子だと嫉妬で殺されそうだし、女子同士っていうのが一番問題が少ないと思うんだ。あたしも堂々と長谷川さんに向けられる男子の視線を遮れるし」

「……いや、でもそれじゃあ先輩が他の人と付き合えなくなってしまいます」

「好きな人なんていないいない。強いて言うならよく笑う人が好きかな。それにあたしはノーマルだから、万が一にも関係性を利用して長谷川さんを襲ったりとかしないよ」

「でも……」



 その提案はあまりにも先輩の負担が大きすぎる。

 確かに恋人がいるとなれば私への視線は少し和らぐかもしれないし、ましてその恋人が同性の生徒会長ともなれば、下手なちょっかいもかけずらいと思う。

 私には明らかにメリットがある。

 でも先輩には何がある?

 出会ったばかりの同性の後輩を偽りの恋人にして、ノーマルだという先輩になんのメリットがあるのだろう。


 そんな私の心を見透かしたように先輩は笑った。



「何度も言うようだけど、あたしは人の笑顔のためならどこまでだって頑張れる。長谷川さんの問題を解決して、それでちょっとでも長谷川さんが笑ってくれるなら、あたしはなんだってするよ」



 他人の笑顔のためならなんだってする。

 その言葉に少しだけ胸が痛んだ。



「『あなたは笑顔に呪われています』って前に副会長に言われたくらいだからさ。信じて。長谷川さんの問題はあたしが必ず解決してみせる。だから今日から、付き合ってください」



 手を伸ばして言ってくる。

 笑顔というアメのためにどんなムチでも耐え凌ぐ。そうしてできたのが今の一人だけの生徒会で、アメを求めてこの人はどこまでも頑張ってしまうのだろう。


 なら、私が笑顔にならないと。

 先輩の頑張りが報われるように。


 ここで断ったら、私はきっと、今と変わらず笑えない。



「こちらこそ……よろしくお願いします」



 久しぶりに笑ってみせて、私は先輩の手を取った。


***


 翌朝のホームルーム中。

 先輩は私たちの交際関係を校内放送で宣言した。

 クラスメイトたちは驚くばかりで悪口を言う人はおらず、先輩が今まで積み上げてきた信頼が私を守ってくれていた。周りの善行を気にしていられなかった私を除けば、先輩の価値は入学して最も日の浅い一年生ですら認めているのだ。



「長谷川さんのこと、沙耶ちゃんって呼んでもいい?」

「ん……はい。もちろんいいですよ」



 恋人の信憑性増加という利点を無視しても、先輩が後輩を名前呼びするのは自然なことだろう。一週間がたったその日から、先輩は私を沙耶と呼ぶようになった。


 さらに数日が経ち、いつものように生徒会室で放課後を過ごしていると、【便利屋】に相談者がやってきた。相談者の男は二年生の先輩で、私を見て苦笑してから「いつも人のために頑張る先輩が好きです」と島崎先輩に告白した。

 不安になって先輩を見る。

 だって【便利屋】はどんな願いも断らない。

 一瞬困ったように目を細め、先輩は自ら反例を作った。



「あたしの恋人は沙耶ちゃんだから、君と付き合うことはできない。でも伝えてくれてありがとう。気持ちはとっても嬉しいよ。ごめんね」



 私の手を握りながら先輩は彼にそう告げた。



 さらに一週間、二週間と日は流れ、先輩と恋人になってから一ヶ月半が過ぎた。学校行事に初開催のものが出てきたのはこの頃だった。



「沙耶ちゃん、クイズ大会優勝おめでとう! 二年生以上の問題も混ざってたのに本当にすごいよ!」

「ありがとうございます。先輩も運営お疲れ様でした」



 ハイタッチを交わし破顔する。

 丸一日かけて行われたクイズ大会は学校の勉強を早押しクイズ形式にしたもので、今までの努力の成果を存分に発揮できる場所だった。



「沙耶ちゃん、最近よく笑ってくれるようになったよね。嬉しい」



 そう言う先輩の笑顔にはにかみ、私は彼女の細い肩に頭を預けた。直視しながら言うには少しだけ恥ずかしい。



「先輩と一緒だと……特別多く笑えます」



 吐息が聞こえ、頭をそっと撫でてくれる。

 遠くに見えた生徒会長の机には、たくさんの資料が散乱していた。


 その後も初めて開催される学校行事が続き、私は上位入りを繰り返した。生徒会室ではいつも先輩が笑顔で私を迎え入れてくれたが、行く度に机の上の資料は増えていった。


 早く止めるべきだった。


 資料の全部が私のために企画中の学校行事関連だって、早く確認するべきだった。

 七月のある日、訪れた生徒会室で先輩は風邪をひいて倒れていた。酷い寒気だったのか、部屋には暖房がかかっていた。


***


「……あれ、沙耶ちゃんだ」



 そんな呑気な言葉で先輩が目覚めたのは、保健室へ運ばれてから二時間が経った後だった。時計はもうすぐ六時半になるところで、保健室にいるのは私たち二人だけだ。もっとも保健室の先生は雰囲気を察して退席してくれているのだけど。


 辺りを見渡した先輩は状況を理解したようだった。



「……心配かけちゃったかな。ごめんね」



 いてて、と頭痛に耐えるようにして言い、起きあがろうとする先輩を手で制する。



「大事に至ることなく目覚めてくれて……本当に良かったです」

「そんな泣きそうな顔しないでよ。たまにやっちゃうんだよね〜あたし。でも大丈夫。風邪なんて寝てれば治るんだから。代わりに他の人が笑ってくれるなら、それがあたしにとって一番幸せだから」



 『可愛い』という評価が嫌でこの間までずっと人との関わりを避けてきた私だけど、人と関わろうと思えるようになってから二ヶ月が経ち、クラスメイトの前で少し笑えるようになってきた今なら確信をもって言える。


 この人は、笑顔に呪われている。


 笑顔のためなら自分のことなんてどうでもいいと思っている。


 ああ、本当に、どうして私は彼女ともっと早く出会わなかったんだろう。

 どうして彼女の周りには、彼女の自己犠牲を目の当たりにして笑える狂人しかいなかったのだろう。



「……笑えませんよ、こんな……こんなの」

「もしかして、他に評価して欲しい部分があったりした? 言ってくれれば来月には何かイベント用意するよ。沙耶ちゃんの笑顔を見るためならあたし、なんだってする」

「私に対する『可愛い』という評価を減らしてくれて、さらに私が活躍できる場をいくつも用意してくださった先輩には本当に感謝しています。本当に、一生かけても返しきれない恩だと思っています」

「恩返しなんて必要ないよ。周りが沙耶ちゃんをちゃんと評価して、その結果、沙耶ちゃんが心の底から笑ってくれれば、あたしはそれで……──沙耶ちゃん?」

「先輩……あなたは……、あなたは私の笑顔しか見ようとしてくれない。もっと私という人間を見てください!」



 散々助けてもらっておいて我儘だなと自分でも思う。

 けど、もう止まれない。

 涙と一緒に全部出し切るくらいじゃないと、この人の呪いはきっと解けない。



「私は先輩に助けを求めました。誰も私を見ようとしてくれないのが辛かったから。苦しくて、寂しくてどうしようもなかったから。でも私は、自分の代わりに他の人に傷ついて欲しいなんて思ったことは一度もありません」

「傷つくって……違うよ、これはそういうんじゃない。お医者さんが患者さんの笑顔を見るために頑張るのと一緒で、最後に患者さんが笑ってくれるなら、どれだけ頑張っても傷ついたりなんかしないんだよ」

「でも私たちは患者と医者じゃないッ。高校の先輩と後輩。生徒会長と生徒。恋人同士でもあるし、先輩は私の恩人でもあるんです。そんな大事な人が私のせいで風邪をひいて、寒気で真夏なのに暖房までかけて、脱水症状もあって下手したら本当に死んじゃうかもしれなくて……。先輩、私がさっき無理やり水を飲ませたこと、覚えてないんですよね?」

「それは……確かに覚えてないけど、恋人についてはあくまで表向きの話だし」

「だとしても私は、好きな人が苦しんでいるのを見て笑えるほど心無い人間じゃありません」



 私の言葉を聞いた先輩は眉間に皺を寄せて、制止する暇もなくベッドから起き上がった。



「だから、あたしが頑張ってるのはあたしのためなんだって! 沙耶ちゃんと初めて会ったあの日、笑顔で私の手を取ってくれたあの時から、あたしは沙耶ちゃんの笑顔がもっと見たくてたまらなくなった。心からの笑顔じゃなかったはずなのにあんなに……美しく笑う人がこの世にいるんだって思ったから!」

「なら私のことをもっとしっかり見てください! 私の笑顔をもっとちゃんと好きになってください!」

「もう十分大好きだよ! だからこんなに頑張ってるんだ!」



 呼吸を忘れて言い合うも、私の言葉は届かない。

 お互いに肩を震わせて息をするわずかな時間で私は必死に頭を回す。


 言いたいこと、思っていること。

 きちんと言葉にできただろうか。


 恥ずかしさやプライドの影に隠れて、遠回りな綺麗事を並べているだけじゃないだろうか。


 自分の心と真正面から向き合って、まっすぐ言葉を紡がなければ、『人の役に立つ』ことで評価され続けてきた彼女の心には響かない。


 他人の笑顔に価値を感じすぎる彼女には、自分の笑顔の価値を知ってもらわないといけない。



「私は先輩のことが好きです。男の人にだって負けないくらい、先輩のことが大好きです」

「そんなのあたしだって……」

「先輩は、私の笑った顔が好きなんですよね?」

「……うん」

「私も、先輩の笑った顔が好きです。いつも元気で明るくて、『可愛い』って言わないように気を遣ってくれるから、私は先輩といるとき安心して笑うことができました。……でも、もういいです。そんな気は遣わなくて」

「ダメだよ。それじゃあ沙耶ちゃんが笑ってくれなくなる。言ったでしょ? あなたの問題はあたしが必ず解決してみせるって。解決しないと、笑顔が見れないから」

「元気な先輩といるときが一番笑顔でいられるんです。先輩が笑ってくれるなら、私は『可愛い』ままでいい。本気でそう思っています」



 先輩を好きになるのに、二ヶ月という時間は十分すぎた。いつも笑顔を絶やさずに私をまっすぐ見てくれたから、側にいられることが心地よかった。

 質の良い黒髪も、滅多に荒れないこの肌も、先輩のためなら本気でこの先ケアしてみせる。



「…………あたしが笑顔なら、沙耶ちゃんも笑顔になれるってこと? そんな……そんなのおかしいよ」

「おかしくありません」

「おかしいよ! だって今まで一度もそんなこと、言われたこと……ないのにっ」



 先輩は涙をこぼしながら否定した。


 この人は、確かに笑顔に呪われている。

 他人の笑顔を喜べるのに、自分の笑顔は他人を喜ばせられないと思っている。

 でも、先輩はきっと呪われたくて呪われたわけじゃない。他人の笑顔に呪われないと自分の価値を保てなかったから、呪われるしかなかったのだ。『人を助ける島崎遥香』を評価されすぎたせいで、助けた結果生まれる相手の笑顔を好きにならないと、人を助け続けることができなかったのだ。


 他に誰も伝えないのなら、その分私が伝えよう。



「おかしくないですよ。私は先輩の笑顔が大好きです。先輩の笑顔で私は笑顔になれるんです。だから先輩、私の笑顔をもっと好きになってください。私を心から笑わせるために、先輩も心から笑ってください。そのためなら、私は今よりもっと可愛くなります」

「……いいの? これ以上可愛くなったら、可愛いって何度も口にしちゃうけど」

「不思議と、先輩に言われる分には嫌じゃないので何も問題ありません。むしろ嬉しいくらいです。それに先輩は、可愛い以外の私もちゃんと見てくれますから」

「うわ……なんかすごい恥ずかしくなってくる」



 呟いて、泣きながら笑った先輩の顔がどうしようもなく愛おしい。

 つられて私も笑みをこぼすと、先輩は涙を拭ってから私に抱きついてきた。



「本当に好きになっちゃうけど、いいの?」



 耳元で、大好きな人がささやく。



「はい、どうぞ。私も先輩のこともっと好きになっちゃいますけど、いいですか?」

「ははっ、うん、いいよいいよ。いくらでもあたしのこと好きになって。そうなってもらえるように、いっぱい笑うからさ」

「一応言っておきますけど、作り笑いには作り笑いを返しますからね」

「うわっ、二人で作り笑いとか最悪じゃん」



 先輩が笑い、私も笑う。



「だから、お互いに心から笑えるよう、先輩は私の心からの笑顔にもっともっと依存してください」

「……うん、わかった。これから更に可愛くなる予定なら、それは超余裕で達成できそう。もちろん今のままでも余裕だけどね」



 先輩の体にはまだ熱が残っていたけれど、きっと私の体も同じくらいほてっている。



 他人の笑顔にではなく、私だけの笑顔に呪われる。


 そう約束してくれたとはいえ、この人はあの生徒会長だ。私の笑顔のために、知らない間に無理をするに決まってる。

 だから私はこの話をしようと思ったときから決めていた。体を離し、私は切り出した。



「正式な恋人として最初のお願いがあります」

「お、なんでもどうぞ」

「私を生徒会の副会長にしてください」



 そうすれば、私はずっと側で先輩を見ていられる。



「……いやいや、それはさすがに……選挙とかあるから」

「なら実質的なものだけで構いません。今いる幽霊副会長に変わって、私が副会長その他業務を担います」

「……いや、でも」



 眉を寄せて睨んでみる。

 すると彼女は両手をあげて降参の意を示した。



「わかった、降参。でも、業務は二人で無理せず担う。それでいい?」

「無理せずって言葉が出てきたので、それでいいです」

「ぐ……なんか先回りして釘を刺された気がする」



 お互いを見つめあって、また笑う。


 その笑顔が本当に尊くて、私は自分の容姿に感謝しながら先輩を胸に抱き寄せた。

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