第207話 番外編ー女神像
王都の神殿には10体の女神像がある。
血盟を司る女神、頭に小さな王冠を乗せている。
稀人が血盟を創設、血盟員の加入、脱退を行う。女神の恩恵は稀人のみ。
資産を守る女神、大きな鞄を肩から斜め掛けしている。
持っている物を預け入れる事が出来る。ただし入れた物を出せるのは本人のみ。女神の恩恵は人を選ばず。
魔法を司る女神、手に本を持っている。
魔法書を持ち女神に触れる事で魔法の習得が出来る。または、紙を持ち触れるとスクロールを作成が出来る。女神の恩恵は人を選ばず。
戦いにおける修復を司る女神、剣と金槌を持っている。
壊れた武器の修復を行う。女神の恩恵はその武器の持ち主に限る。
薬を授ける女神、手に花と小瓶を持っている。
「これがまだ解明されていないんだよなぁ」
俺は今、王都のスクロール屋、ゴンザエモンに来ている。
そもそもは自分の店、ナヒョウエにバナナを持って来たのだ。
俺は普段はムゥナの街でやまと屋という弁当屋をやっている。
王都の店へは週一回だけバナナの販売で通っている。
午前10時開店だが、毎回あっという間に完売してしまう。
やはり、どの時代、どの世界でもバナナは大人気だな。
今日はたまたま隣のゴンザエモンでゴンザレスを見かけたので、久しぶりに話しかけてみた。
隣の店ゴンザエモンはスクロール屋だ。
王都の女神でもスクロールは作成出来るので、ゴンザの店は売れないのではと思い聞いてみたのだ。
「女神はさ、テレポート、帰還、ブランクの3種類だろ?うちの製造機は、それ以外に、解析スク、解呪スク、保護スクロールも作れる」
「ん?何だ?それ、保護スクロール?」
「ああ、そっか。カオるんがいなくなった後くらいにアプデされた新システムだ。WIZのエンチャント魔法のスクロール版だな」
「はぁあ?何だそれ、そんなスクがあるって事は、WIZはいらんって事か?」
「本当になぁ。あのゲームはWIZへの嫌がらせが酷すぎる。そのシステムが導入されて一気にWIZが引退したな。それか別の職へ転換だな。けど一からやり直しはキツいから結局やめるヤツが増えた、ハハ」
「まぁ10年前にやめた俺がどうこう言う話じゃないがな。それで?ゴンザエモンは続けるのか?」
「ああ。この世界は魔法職が少ない。MPに限りはあるが俺らが出来る事はやっておくさ」
「材料はどうしてるんだ?ゲームだと確か…どっかの森で採れるパルプだっけか? この国の森でも採れるんか?」
「それがさ、材料が見つからなくてダメ元で紙を製造機に突っ込んだら、出来た。女神像と同じで紙とか羊皮紙でいいみたいだ。カオるんからA4のコピー用紙を一箱借りただろう?それを返す前に死霊の森ダンジョンの話を聞いたからなぁ」
「返さなくていい。俺も職場からパクってきたヤツだから。で、行ったのか?ダンジョン」
「行くに決まってるだろう。地下ダンジョンのクリアドロップを聞いたら行かねぇヤツはいない。仲間集めて地上、地下ともクリアした」
そう言ってゴンザは首かかったメダルを服から出した。
まぁ、行くよな。セボンにマツチヨにマッツにスタガだ。
「いや、俺もさぁ、目的であった紙の事はすっかり忘れて買いまくったぜ、色々とな」
「で、さ、ムゥナでもPOT女神の謎が解けないんだよ。王都はどうなん?誰か謎を解いたか?」
「あれなぁ。花と小瓶持った女神な。本当にPOTなのか? てか、ただの像なんじゃないかって最近は言われ始めてる」
うぅむ、確かに勝手にPOTの女神と言ってるが、像に書いてあったわけではないからな。
しかし、花と小瓶だぞ?
花と小瓶……一輪挿し、生け花の女神?いや、何のために!
花と小瓶……香水?いや、結局何も製造されないからなぁ。
材料というより、スキル…だろうか?
調合師や薬師のようなスキル持ちが材料持って行くと作成してくれるとか。
あ、鍛治女神は、逆に鍛治師が材料持って行ってもダメだったな。剣の持ち主のみと言うのが発覚したっけ。
そんな雑談をして俺はムゥナの街へと帰還した。
今日は弁当屋が休みのせいか、珍しくリビングは静かだった。
マルクはパラさんやリンさん一家とハイキングに出かけたはずだ。
ダン達も一緒に行っている。
ふとキッチン見るとアリサとキールがいた。
一緒にハイキングに行かなかったのか?
声を掛けようと近づいたら、驚いたように振り返ったふたりは泣き腫らした目をしていた。
「どうした!」
ハイキングに置いて行かれたのか!
まさかと思うがうちの弁当屋でイジメを受けているんじゃないだろうな。
俺の顔を見て、またポロポロと涙を落とし泣き出した。
「ごめ…なさ、い」
「ひくっ、すみませんっ、私が、やりました」
ん?んん?
「落ち着け、怒らないから、ゆっくり話してごらん?皿でも割ったか?皿はいつかは割れる物だぞ?別にふたりを叱ったりしないぞ?」
「ち、ちがうんです」
うんうん。
そこにあった布巾でふたりの顔を拭った。
とりあえずカップにジュース(セボンで買った)を入れて、ふたりをリビングへと連れて行き座らせ、カップを手渡した。
「ほら。飲んで、大丈夫だから。うちには皿を割ったからって怒るような人間はいないぞ?どうしても勇気が出ないなら俺も一緒に謝ってやるから」
アリサが何度か深呼吸をしてから話し始めた。
「あの、私、女神様に回復薬を、作ってもらおうと思って、それでテーブルに置いてあった紙を借りたんです、それで」
ん?回復薬?テーブルの紙?
ああ!昨日の夜、女神像に頼らず自力で作れないかってリンさんらと薬草をゴリゴリしたっけ。
紙ってギルドからもらって来た初級回復薬のレシピの紙の事か。
結局、初級どころか粗悪品の失敗に終わったっけ。
ふむふむ、…って、え?
「アリサ、回復薬が必要ってどこか痛いのか?そういう事はちゃんと俺らに言わないと!回復薬なら持ってるし、地下の倉庫にもあるだろう?ヒールスクロールもあるし、我慢はダメだ!」
「ち、違うんです。アリサちゃんは、私の足を治すって言ってくれて、それで女神像に行こうって」
「だって、前より良くなって来たし最近は杖無くても少しだけ歩けるし、だからもっと回復薬あったら治るかも知れない。でもキールちゃんがカオさんやみんなにこれ以上迷惑かけたくないって言うから、自分で作ろうと思って」
「でも上手く出来なくて、女神さまが助けてくれないかって」
「こらっ!これは俺達を頼ってくれないから怒った。俺が困ってたらアリサもキールも助けてくれないのか?」
「助ける!」「助けます」
「俺だって、俺たちだって、アリサとキールを助けたいよ?同じ事。キールの足は色んな専門の人に見てもらったけど、時間がかかるって言われた。だからゆっくり治そう?そのうちもっと凄い回復薬が見つかるかも知れない」
「うえっ、うえっ、はい」
ふたりが泣き出したので頭を撫でた。
ところで?自力で回復薬を作ろうとした事で怒られると思ったのか?さっき何で泣いていたの?効き目が無かったからか?
「ごめんなさい。ひくっ、レシピ失くしてしまって、ひくっ」
ん?ああ、女神像に回復薬を作りに行ってレシピを失くしたから泣いていたのか。
「せっかく女神様がくれたのに、バチがあたったから効かなかったのかな」
んん?くれたって何を?
「女神様がくれたの?……何を?」
「これ…」
キールが差し出した、空の瓶。
「うちから持って行った瓶?」
「うん。女神さまは薬を入れてくれたから飲んでみたけど、足は治らなかった」
いやいやいや、待って。
この街も王都も、未だかつて誰もPOT女神とのやり取りに成功していないはず。
「ええと、女神様には何を渡したの?」
アリサとキールは顔を見合わせた後、キッチンテーブルを指差した。
「あそこにあった葉っぱと瓶です。紙に書いてあったやつ」
「うんうん、それを女神様に渡して、女神様は何か言ったか?」
ふたりは首を横に振った。
どう言う事だ?
あのレシピに書かれた材料は散々女神像で試した。
しかし、何もくれなかった。材料が足りないと言われた。
アリサ達は成功した?
何が違うんだ?
まさか、穢れなき乙女…とか言うんじゃないよな?
オッサンはダメなのか?
ちょっともう一度試すか。
俺はテーブルの上の薬草と小瓶を持ち、アリサとキールを連れて神殿の中庭へとテレポートをした。
ふたりに先程と同じように女神像に渡してもらったが、瓶は空のままだった。
何故だ、どこがさっき違う?
何が違う?俺が見ていたらダメなのか?乙女ふたりにすべきか?
おれは木陰に隠れてもう一度試してもらった。
ぬぅぅ、出来ぬ。
POTの女神よ、何が気に入らないのだ。ほら、目を瞑っているぞ?
「葉っぱの量が違うのかな?さっきの紙に書いてあったの覚えてる?キールちゃん」
「うん。多分5枚であってたはず」
「さっきは葉っぱが無くなって、瓶の中に薬が入ってたよね?」
材料も人も一緒だ。
だが、葉っぱを受け取らない女神。
何が違う?
レシピ…無くなったレシピの紙!
レシピか!
俺はアイテムボックスから直ぐに紙とペンを出し、昨日見たレシピを書きつけた。
それをアリサに渡す。
アリサの手のひらにあった葉っぱが消えて瓶の中に液体が入った!
俺はそれをアリサから受け取りアイテムボックスに入れて見た。
ステータスのボックス一覧には『初級回復薬(下)』と表示されていた。
「やったぜええええ!」
俺はアリサとキールを交互に持ち上げてグルグルと回した。
神殿の女神像は、材料と入れ物と『レシピ』を渡すんだ!
俺は直ぐに仲間達へと連絡をした。
ふたりを連れて家へ戻った後、もちろんギルドのゴルダへも報告をした。
五つ目の女神像の謎が解けた。
アリサとキールのお手柄だ。
完
俺得?仕事中に転移した世界はゲームの魔法使えるし?アイテムボックスあるし?何この世界、俺得なんですが! くまの香 @papapoo
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