河原の写真 (偽りの真実)
帆尊歩
第1話 河原の写真
「進路決めた?」と未知がカップのオレンジジュースをストローで飲みながら、あたしに聞いてきた。
学校帰りのハンバーガー屋で、ジュースでお茶をしている時だ。
「イヤイヤ、とんでもない」とあたしは答えた。
「そろそろやばくない」
「うん。最近親がうるさいのよ、だから余計にその気がなくなって」と今度はあたしがストローを吸う。
「分かる、分かる」
「まあ確かに心配はかけたくないけれどね。昔はうちの親には脅しのアイテムがあって。それをネタにあたしを揺すっていた」
「なにそれ」
「ほら」とあたしは一枚の写真を未知に見せた。
「えー。なにこの写真、可愛い」その写真は河原の草むらで、あたしが泣いている写真だった。
「これをどう脅しに使ったの?」
「お前は、うちの子じゃないんだ。河原で拾って来たんだ、その証拠だって言ってこの写真を見せられた。
で言うわけよ、言うことを聞かないとまた河原に捨てに行くぞって」
「それは子供としてはショックだよね」
「本当よ、今なら幼児虐待だって、言ってやるんだけれど。ほら子供のころのあたしは純真な少女だから、素直に泣いていた」
「まああんたが純真な少女かどうかは別として、それは恐いね」
「この間も誰のおかげで大きくなったんだって言われて、もう少しで、生んでくれなんて頼んでいないって言いそうになった」
「それは言っちゃまずいね」
「でも頭に血が上ると言っちゃうかも」
「まあでも、高校生活も最後の一年だし、進路はね」
「うん」
未知とハンバーガー屋の前で別れて、うちに帰る。
「ただ今」
「アッお帰り」
玄関先に父の靴があった。
「あれお母さん。お父さん帰っているの、早いね」
「うん」
「アッお母さん、ごめん進路もうちょっと。今日も未知とどうするって言う話で盛り上がって、ちゃんと考えているんだからね」
「うん分かっている。で、お父さんが話があるって」
「えー、なに。進路は早急に決めるからって、言っておいてよ」
「早くお父さんのところに」
「ううん」
「お父さん。ただ今」
「ああお帰り。まあ座って」
「えっなに。ごめん。進路はもう少しで決めるから。えっ、まさか学校から催促の連絡でもあった」
「いや、実はお前に話さないといけないことが」
「何よ、お父さんそんな神妙な顔して。えっ、まさかリストラでクビになった?学費払えないから就職しろとか。まあもしそうなら、それは甘んじて受け入れます」
「いやそんなんじゃない」
「悪いことして、捕まるとか。」
「お父さんが悪いことなんかするか」
「じゃあ、借金が返せないから夜逃げするとか。でもお父さん、逃げ切れる物じゃないよ。だからと言って、あたしの体で払うなんて嫌だからね」
「そんなことじゃない」
「じゃあ何」
「実はお前は私たちの実の娘じゃない」
「えっ」
「実はお前が子供のとき、河原で子供が捨てられて泣いていた。その子が可愛い女の子でつい拾って来た」
「拾った?あたしを?」
「そうだ、今まで黙っていてすまなかった」
「あの写真は」と言って、あたしは未知に見せた写真を出して父の前に置いた。
「じゃこの写真は」
「うん、本当の事だったんだ」
「えー」とあたしは叫んだ。でもショックよりも。
(産んでくれなんて頼んだ覚えはない)と言わなかったことを心底良かったと思った。
だって。
そもそも産んでもらっていないからね。
河原の写真 (偽りの真実) 帆尊歩 @hosonayumu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます