ひと筋の道 🛝
上月くるを
ひと筋の道 🛝
午前四時、浅春の起床としては早いですが、窓の外の闇が尋常でなく白いのです。
果たしてカーテンの隙間から見ると、昨夜の牡丹雪がこんもり丸く積っています。
――早朝から雪掻きなんかしなくていいよ、もう歳なんだから。
ご近所中で一番遅くても恥ずかしくなんかないんだからね。
離れて住む子どもたちはそう言いますが、膝丈のブーツも埋もれそうな積雪で。
放っておけば自然に溶けるとか、だれかが代わってくれるとかもないし。(笑)
身支度をして外へ出ると、まず玄関前を除雪し、つづいて車の屋根の大雪を除き、三十センチはありそうな湿って思い春雪を掘っては投げ、掘っては投げの小一時間。
大雪警報が発令されていたのですから、早めの手を打てば腰痛悪化を案じることもなかったのに、頼ったり縋ったりの発想がないのですよね~、ヨウコさんには。💦
☔
そういえば、通院歴六年目に入る心療内科もいつの間にか立場が逆転しています。
連日の患者に昼食をとる間もない主治医を慮り、深刻な相談をしないように……。
次回はどんなネタで先生を喜ばせようか、そのための本を読んだり映画を観たり。
事情を知らない人が訊けば、なんのための治療? 阿呆じゃないのと言われそう。
でも、こんなところでも他者に迷惑をかけたくない、ヘンな性質なのですよね~。
事業が危なかったときも緑色の用紙を突きつけられたときも実家にも頼らず……。
ただ一度だけ、子どもが学校へ行けなくなったときは、担任教師の見えないところでの実態を直訴しましたが、逆に「家庭に問題あり」と言われて深手を負いました。
以来、すべての出来事を自分で背負いこみ、なんとかかんとか解決して来たので、いまさらだれかに縋ろうとか頼ろうとか、相談すらしようとも思いつかないのです。
🏫
そんなヨウコさんを嗚咽させたのは、道路から家へのひと筋の雪掻きの跡でした。
人の親切に飢えていたのでしょうか、堪える間もなく、なみだが滴り落ちました。
そういえば、地域の民生委員さんが郵便受けに入れてくださる「困ったときはなんでもご相談ください」のご案内も、ろくに見もせずにゴミ箱に捨てていました。💦
年年歳歳、老けこみこそすれ若がえることは絶対にないんだから(笑)ハリネズミみたいなツッパリはやめ、これからは自ら進んで人さまに縋ったり頼ったりしよう。
そう思うと少し気が楽になり、お向かいのご夫妻に雪掻きのお礼を忘れないようにしなければ……いまのところは大丈夫らしい(笑)頭に( ..)φメモメモしたのです。
ひと筋の道 🛝 上月くるを @kurutan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます