3-15.鳥君

【前書き】

 近況ノートのサポーター限定にアップしたっきり忘れていたので投稿しました。

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「アーベルさん、なかなか山を下りてこないね」

「そうだな。魔鳥も警戒しておるのだろう」


 アーベル氏達魔狩人が山の牧場に行って三日。まだ討伐の報告はない。


 鳥君はなかなか危機感知に優れるようだ。


「ステル、大丈夫かな……」

「心配ない。子山羊と違って、ステルは勝ち気な山羊だ。魔鳥に襲われても、後ろ足の蹴りで撃退してしまうよ」


 昨日から、囮役として額に星のマークの山羊ステルが、魔狩人のキャンプに合流した。

 ミリアが凄く心配しているし、無事に戻ってきてほしい。


 休耕地の雑草取りと小石拾いも終わり、威力はイマイチだけどスリングもだいぶ狙った場所に当たるようになってきた。


 水源までの移動許可はまだ下りていない。

 早く水回りの改善がしたいものだ。


 そんな事を考えていた翌日――。



「――いいの?」

「うむ、セイも体力が付いてきたし、今年は狼の気配もない」


 お爺さんから水源の所まで行く許可が下りた。


「やったー!」

「だが、周囲や足下には十分に気をつけろ。何かあったら、この笛を吹いて報せるんだ」


 お爺さんがそう言って、笛に付いた紐をオレの首に掛けてくれた。

 この間から何か作っていると思っていたら、この笛を作ってくれていたらしい。


「それじゃ行ってくる」

「待て、わしも水汲みに行く」


 駆けだそうとしたら、お爺さんがバケツを持ってついてきた。

 なかなか心配性だ。


 一緒に水源まで行き、お爺さんが水汲みをしている間に、近くを散歩する。

 さすがに、お爺さんの目の前で精霊を呼び出す事はできないからね。


 水源から近いせいか、このあたりには低木がたくさん生えている。


「その実は夏頃に熟したら食えるようになるぞ」


 低木に生えた緑色の実を眺めていたら、後ろからお爺さんが教えてくれた。

 心配して付いてきてくれていたらしい。


 小さい子じゃないんだから、そんなに心配しなくても――って、今の身体は幼児だったっけ。


「お爺さん、こっちの葉っぱは?」

「それは肉を包むのに使う。昔から、その葉で巻くと夏でも腐りにくいんじゃ」


 せっかくなので、お爺さんに色々と尋ねながら散歩を続ける。

 けっこうデコボコしているから、スニーカーか登山靴を履きたい。合革の靴だと歩きにくいんだよね。


「セイ、危ない」


 お爺さんが急にオレの腕を引っ張った。


「――あっ」


 よそ見していたから気がつかなかったけど、オレの少し先で道が陥没していた。


「ありがとう、お爺さん」


 お爺さんが手を引っ張ってくれていなかったら、足を滑らせて落ちていただろう。

 まあ、密着結界があるし、一メートル未満の落差だからケガをしたりはしないけど、普通の幼児だったら足をくじいていたかもしれないからね。


「セイ、歩く時は必ず足下に注意しろ」

「よそ見して歩かないように気をつけるよ」

「うむ。山は麓の村とは違うからな。用心は必要じゃ」


 まったくその通りなので、自分のうかつさを反省する。


 それにしても、こんな左右に長い陥没がなんでできたんだ――。


「――もしかして、これって川?」


 正しくは川だった場所だ。


「そうじゃ。水汲みする場所からも見えておっただろう?」

「へー、ここが……」


 けっこう離れているように見えたのに、意外と近かった。

 この川の跡が山小屋の前に続いているのだ。


「お爺さん、この川の水源だった場所って遠いの?」

「いや、すぐそこだ」


 お爺さんに行ってみたとリクエストしたら、すぐに快諾してくれたので見物に向かう。


「――崖?」


 干からびた川の川底を歩いてきたら、唐突に五メートルほどの断崖で終わっていた。

 土砂崩れとかじゃなくて、地面が隆起して川がなくなった感じだと思う。


 一人で来た時にでも、浮遊魔法で崖の上を確認に行きたい。


「昔は崖じゃなかったんだよね?」

「うむ、大きな地揺れがあって、気がついたら川が崖に変わってしまったんじゃ」


 それは災難だな。


「崖になる前の川って、もっと向こうまで続いていたの?」

「いや、あの崖のあったあたりに泉があって、地面の割れ目から水が湧き出しておったんじゃよ」


 なるほど、それなら「土のおじさん」や「水のお姉さん」の助けがあれば、水源を復活させられそうだ。


 その日はお爺さんと一緒に家に戻り、家周辺で日課を過ごして終わった。


 そして次の日――。



「どこだ、ここは」


 ――すっかり道に迷っていた。


 おかしい。そんなに迷うような距離じゃないのに。


「クゥ、昨日の干からびた川ってどっちか分かる?」

「あっち~」


 近くでふわふわと浮かんでいた風精霊のクゥに訪ねたら、すぐに答えが返ってきた。


 そんなに離れていないらしい。


 背の高い草に難儀しながら移動していると、どこからかピュイーと甲高い鳥の鳴き声が聞こえてきた。


「もしかして鳥君かな?」

「セイ、あそこ~」


 クゥがシュピシュピュとオーバーアクションで、鳴き声の主の方を指し示す。


 遠くの峰の方に巨鳥が飛んでいるのが見えた。


 鳥君そっくりだ。ひらりひらりと狩人を馬鹿にするような動きで飛んでいる。

 キラキラと反射したのが、地上から巨鳥の方に打ちあげられているのが見えた。もしかしたら、地上からの弓を避けているのかもしれない。


 巨鳥はひとしきり地上の狩人達をからかう動きを見せた後、挑発するように上空を旋回する。


 何かを見つけたのか、巨鳥がこっちのほうに飛んでくる。

 こっちに獲物を見つけたのだろう。


 なんだかまっすぐオレの方に向かってくる。


「あの時の鳥さん~?」

「本当だ。あれは鳥君だね」


 距離が狭まって、巨鳥の正体が分かった。


 もしかしなくても、鳥君の標的はオレらしい。

 そのままオレを強襲するかに見えたが、目と鼻の先まで来たところで、急に取り乱して軌道を変えた。


「どうしたんだろう?」

『もしかしたら、獲物に狙ったのがセイだと気づいて、逃げ出したんじゃない?』


 バードウォッチングみたいなコスプレをした賢者ちゃんが、そんなふうに言う。


 賢者ちゃんひどい。

 オレは傷心しながらウィッチハンドの魔法を唱える。


<我が身に眠る万能なるマナよ

 万物のことわりを混沌へと導き、我が願いを具現せよ

 マナよマーナ集いてコリージェ腕となしファクティ・スント・イン・ブラチウム


 詠唱する間に圏外に逃げられそうだ。


 クゥに目配せする。


 クゥがと微笑んで、くるりんとうれしそうに宙返りした。

 可愛いけど、アイコンタクト失敗だ。


我が意のままにアプド・メ・ヴォルンターテム万物に干渉せよタンジェリ・アリクィド

 ――ウィッチ・ハンド>


 ちょっと派手なエフェクトを伴って魔法が発動した。

 なんだか久しぶりの魔法行使みたいな気がする。


 鳥君を捕まえようと、ウィッチ・ハンドを空に伸ばす。

 やっぱり、あと少しが届かない。


「ちょっと遠いな。クゥ、鳥君をこっちのほうに引き戻せる?」

「できるよ~」


 クゥがと手招きすると、滑空していた鳥君が急にバランスを崩してバタバタと羽ばたいた。


 姿勢を乱した鳥君が、上空の風にあおられてウィッチハンドの射程圏に入る。


 捕まえた。


 鳥君は往生際悪くバタバタと羽ばたいて逃げようとしたが、もうがっちりと捕らえている。

 オレはグイッとウィッチハンドで、強引に鳥君を引き寄せた。


 地に落ちた鳥君が、哀願するような瞳でオレを見上げる。


「さて、鳥君。申し開きがあるなら聞こうか?」



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【後書き】

 改稿してアップし直すか、別作品として作り直すか迷い中(>_<)

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