2月14日のさくらもち

地崎守 晶 

2月14日のさくらもち

 友チョコを配れるだけ配って、気になる男子に渡せなかったチョコをもて余しちゃた。 残念会しよう。親友のさくらにラインして、私たちしか使ってない部室で待つことにした。 ヒーターをつけて手を擦りあわせて、息をフーフーかける。 パタパタと足音がして、さくらがドアを開いて飛び込んできた。


「どうしたのさくら、なんで泣きそうなの」  


 大きな瞳に涙をいっぱい浮かべて、顔を真っ赤にした親友。立ち上がって近寄る。未だにテーマパークの身長制限ギリギリの小柄な彼女の 顔を覗きこもうとすると、


「もみじちゃん!」  


 精一杯という感じで、私の鼻先にそのお菓子が差し出された。

あんこの黒さが桜色に薄く透けて、深い緑の葉にくるまれているそれは。


「……さくらもち?」  


 確かにわたしの一番好きなお菓子で、さくらのおうちで毎年たくさん買ってるけれど。


「だって……だって、いっしょの学校、最後だから……」  


 俯いてしまったさくら。まるで一生のお別れみたいな顔をしてる。


 わたしは滑り止めの大学に進学するけど、さくらは家業を継ぐために専門校に行くことになってる。それで、最後なんて思い詰めたのかな。


「これ……! チョコレートじゃないけど……まだ下手だけど、もみじちゃんが一番すきなの、だから……!」


 つっかえながら差し出す桜餅は、確かにもち米がきちんとまとまっていなかったり、包んだ桜の葉の端っこが破れてたりと、彼女が拙いなりに頑張って作ってくれたことを物語っていた。おうちの人に頼んで、一人で作ったんだろう。


「ふふ。ありがと、さくら」  


 わたしはさくらの手から、今この世で一番おいしいに決まっている桜餅をそっと受け取る。味見と友チョコ交換であまあまになった口が、その程よい甘さを心待ちにしてるのが分かった。


「でもバカだなあ、違う学校に行ってもわたしたちずっと友達でしょ」


 抱き寄せて、さくらの頭を撫でる。


「ほんと?」  


 わたしの胸元から見つめ返すさくらの顔が、花が咲くように綻ぶ。  

この笑顔に弱いんだよなあ。名前と同じ色をしたすべすべのほっぺたに、手を添える。


「ほんとだよ。だからこれからも、毎年わたしの大好きな桜餅、手作りしてくれると嬉しいな」


「うん!」


 おでこを触れ合わせる。さくらと約束するときはいつもこうしてきた。

「じゃ、お茶淹れるから、一緒に食べよ?」

「うん! もみじちゃん、大好きだよ!」


 さくらをハグして、すっかりポカポカになった。

 渡せなかったほうはカバンにしまったまま、さくらのために作ったチョコを取り出して、二人きりのお茶会を始める。

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2月14日のさくらもち 地崎守 晶  @kararu11

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