最終話 どたばたバレンタインデー🍫、お返しホワイトデー🦊

 どうやら校長先生のチョコを盗んだ犯人は妖怪たちだったみたい。

 チョコ泥棒は一人じゃなかったの。


 わん太が犯人の正体の目星がついているようなんだけど、ちょっと悔しい。だってあたしにはまだ分からない。


「……この者たちの正体が分かりましたワン!」

「えっ? えっとわん太の知り合い?」

「知り合いでも友達でもありませんが、正体が分かったのですワン」

「そうか、七人か」

「なによ、その顔つきはまさか! 銀星ったら犯人の正体が分かっちゃったの?」

「まあ……」

「七人と言えば、か」

 

 銀星と茨木先輩には泥棒たちの正体が分かったらしいの。

 なんか面白くないなあ。あたしだけ謎が解けないって面白くないよお。


「この者たちはこの学校の七不思議妖怪ですワン」

「七不思議妖怪〜!?」


 驚いたのはあたしだけ。

 むうっ、なによ〜。


「だろうね」

「噂に名高い妖怪が七人揃ってるんだ、それしかないだろう。ずいぶん弱いけどな」

「びっくりしたのってあたしだけじゃない! 悔しいっ」


 ふふふっと優しい瞳で銀星が笑って、くすくすと茨木先輩が笑う。

 わん太ってばあたしの足にすりすりと体を寄せて、同情ですか? 慰めてくるんです。


 騒ぎを聞きつけて、パパたちが校長室にやって来た。


「大丈夫か!」

「なにがあったの?」

「怪我はないっ?」


 なにかあった時は助けに来るって言ってたから、パパもママも銀星ママも必死の形相だったけど、七不思議妖怪が倒れて重なってるのを見てホッとしたみたい。


 あたしたちは話し合って妖術を解くことにした。

 気を失っている七不思議妖怪を起こして、事情を聞くことにする。



 うちの中学校の七不思議妖怪はよその学校の七不思議妖怪とはすこしメンバーが変わってるのかも。


 掃除大好き妖怪あかなめでしょ〜、言わずと知れた河童に、おしゃれなトイレの花子さん。

 踊りが得意な妖怪人体模型くんと、煙妖怪の煙々羅えんえんらちゃんに、勉強大好き二宮金次郎くんと葉っぱ収集家の化けだぬきちゃん。


 よく見ると怖くないよ、可愛い七不思議妖怪もいるんだよ〜?



 しゅんと大人しくなった七不思議妖怪をあたしと銀星の教室の席に座らせて、うちのパパが問い詰めていく。


「お前らのせいでうちの雪華が危ない夜の学校に潜入捜査をする羽目にあったんだ。きちんと説明と反省をしてもらおうじゃないか」


 パパは人間だけど、四神獣の玄武という神の眷属でもある。凄みを利かせた睨みはあたしだって誰だって怖い。


「雪華のパパは相変わらず震えるような迫力だな」

「雪華ちゃんの父上、玄武の威厳は弱小妖怪を縮み上がらせるね」


 泥棒は悪いことだけど、七不思議妖怪たちがちょっとかわいそうになっちゃった。


「ほんの出来心なんです。いたずらするつもりでしたなめ〜」

「食べるつもりはなかったんです。隠すだけで」

「ところがチョコレートというのの誘惑に負けてしまいましたカッパッパ」

「あんたがたも妖怪なら分かるでしょ? いたずらとか人間を驚かすのは妖怪の性分なんですぽんぽこ〜」

「妖怪なら食べても良いかいとか思って」

「美味かった」

「またチョコレート食べたいほわほわ」


 妖怪あかなめが長い舌を出しながらケラケラ笑った。

 つられて七不思議妖怪たちが全員ゲラゲラ笑い出す。


「笑うなっ! お前ら反省の色なしじゃねえか」

「ひいーっ、お助けを〜!」


 妖怪七不思議たちはどうやら長年バレンタインデーというものを経験してみたかったんだって。

 チョコレートを食べてみたい、チョコレートを作って交換会がしてみたかったという。

 ところが作り方も材料も分からず、美味しそうな匂いに誘われて校長室に隠してあった校長先生のチョコレートを盗んで食べてしまったようです。


 このあとこってり三時間、うちのパパに妖怪七不思議たちはこっぴどく怒られました。



      ✦🍫✧


 今日は待ちに待ったバレンタインデーです。

 放課後あたしは大好きな人にチョコレートをあげました。


「あ、ありがとう、雪華。僕に?」

「うんっ。雪華特製チョコフィナンシェとチョコトリュフだよ」


 学校の屋上で銀星にチョコをあげると、銀星は真っ赤な顔で泣いて喜んだ。


「雪華ちゃん、約束どおりもらいに来たよ」

「ああ、茨木先輩もどうぞ」

「本命チョコかな?」


 空から颯爽と屋上に現れたのは茨木先輩だ。


「……なんだ、僕だけじゃないんだ」

「心優しい雪華ちゃんが君だけにバレンタインデーのチョコをあげるわけないだろう?」

「えっ、銀星。自分だけだと思っちゃってた? なんかごめん」

「いいよ、もうっ。僕の気持ちなんかどうせ雪華には分かりっこない。茨木先輩、チョコなんて甘ったるいもの鬼は食べないのでは? あなたなんかに雪華のチョコはもったいな〜い!」

「ふふっ、俺はたしかに甘いものはあまり食したことがないが、雪華ちゃんの手作りとあらばありがたく味あわせてもらうよ」


 追いかける銀星をかわしながら、あたしからのチョコを持った茨木先輩は屋上を走り回る。

 楽しそう……。

 これがほんとの鬼ごっこ?

 いや、追いかけるのが鬼だから逆だわ。


「雪華さま〜、七不思議妖怪を連れてきました」

「あたいたちにもチョコをくれるって本当かい?」


 トイレの花子さんを先頭に七不思議妖怪たちが屋上に現れる。

 今年は去年より友チョコをた〜くさん用意したんだ。


 そういや、チョコをあげたら今年もパパは泣いて喜んでたなあ。

 いつかあたしも誰かに本命チョコをあげられる日がくるんだろうか。


「ねえねえ、チョコ作りを教えてもくれるんだろう? あたしも雪華にお返しあげたいんだ」

「うん、花子さん。じっくり出来るまで教えてあげる。ああ、お返しをくれるならみんなでホワイトデーにお菓子交換しよ?」

「雪華、大好きだよ。友達になっておくれでないかい?」

「あっ、もうあたしたち友達だと思ってた」

「雪華〜!」

「雪華さん、わしらにもチョコ作り教えてカッパ」


「おいっ、そこの河童! 雪華に気安く触るな」

「同感だね。……ああ、雪華ちゃん。ホワイトデーにはデートしようね」

「なにどさくさに紛れて雪華にデートを申し込んでんだ。茨木先輩っ、あんた4月から受験生だろ」

「だから3月中は遊ぶことに決めたんだ。ああ、もういっそ人間どもを記憶操作して君たちと同じ学年になろうかな」

「やめてくれ。大人しく進学しろ〜」


 あたし、大好きな人たちや妖怪たちにバレンタインデーのチョコレートをあげられて良かった!

 みんなみんな喜んでくれたもん、嬉しいなっ。


 ホワイトデーもどたばた賑やかになりそうです。




 そうそう、追伸です。

 あたし、ホワイトデーのお返しに銀星からは大きな手作りマドレーヌとキャンディとキャラメルをもらいました。

 意味を調べてから食べるようにと謎のメッセージカード入りでした。

 どんな意味があるんだろう?

 探偵の訓練かしら?


 調べる前に、あまりに出来栄えがよくって美味しそうなので家族みんなでいただいちゃいました。

 銀星、ありがとう。

 ごちそうさま〜。



 あたし雪女の雪華と神狐の銀星の妖怪探偵社では、いつでも依頼を待ってるからね!

 あなたが困っていたら、遠慮せずに言ってね。

 必ずあたしと銀星が助けて、あ・げ・る。




       おしまい♪

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雪女の雪華と神狐の銀星のどたばた🍫バレンタインデー💝 天雪桃那花 @MOMOMOCHIHARE

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