第13話 若者とシワ

「“元”勇者?」

モカが疑問に思ったであろうことを、そのまま口にだす。


「“元”を強調するな、“元”を」

何かしらのプライドが傷つられたのだろう、山月と名乗る男は不満を露にする。

「まぁ、そうだよ“元”だ」

「んで?後は何を話せばいい?」


「なぜここにいるか話せ」

山月にそう告げると、山月はニヤッと笑う。


「いいけどぉ~?でも手が痺れてきたなぁ~、説明するにもなぁ、体の自由が聞かないと話せないなぁ」

いい加減な態度をして、自分の体に縛られている縄を解くように促してくる。


「....分かった」

こちらが一方的に情報を得ているのに、相手に情報を与えない、というのは理屈にも叶わないし、約束が違う。

だからこそ、ここは理屈通り、約束を守るためにも相手の条件を呑む。


「え!?ライト様!?」

だが、ミールが驚く。

まぁ、確かに、理屈にこそ適ってないが、そんなことこちら側からすればどうでも良いことではある。

驚くのも無理はない。


しかし、皆のリーダーとしてそれでは駄目なのだ。

皆を率いてくリーダーとして、約束すら守れない男に、皆のリーダーは勤まらない。


仁義や約束すら億劫にしてしまうような奴は人の上に立つ資格は無いのだ。


その考えに気付いたのか、ウーさんがミールに言う。

「ミール、確かにお前の言いたい意見も分かるが、俺らのリーダーはライト様だ」

ウーさんの言葉に、ミールが不服そうな面持ちで言う。


「で、でも....!」


しかし、ミールが話そうとした途端に、山月が遮る。

「そう言うことだ、お嬢ちゃん、グループのリーダーとして約束すら守れないようじゃぁ....」

「このグループは、無抵抗な人間との約束すらも守れない“落ちこぼれグループ”ってことになっちまう」

「メンツが保たれないってわけだよ」


ミールは、その話を聞いて不服そうな顔をしながらも、理解は出来たようだった。


「さっ、早く縄をほどけ」


途端に横暴な態度を取る山月、確かにこいつの条件をのんではいるが少し腹が立つ。


「その態度は無いんじゃないか?」


そう言うと、山月の表情が変わる。


と、同時にモカが何かに気付く。

「ライト様!こいつの手!」


モカに、そう言われ山月の手を見る。

「こいつ!」


「ふっ、ようやく気付いたか?」





山月の手はうっ血していた。





「その通り、早く縄をほどかないと手が爆発するかもだぞ?」(爆発しません)


「爆発!?ヤバイよライト様!」(爆発しません)


急いで山月の縄をほどく。


「いや、本当に痛い、本当に!」


「ライト様!縄が固すぎてほどけないよ!」


「おい!そこの鬼!お前固く絞めすぎなんだよ!」

山月が餓鬼さんにキレる。


「いやぁ....その....すまねぇ」

餓鬼さんが、山月に謝る。


―――――――――――

「はぁ....痛かった」


申し訳なさそうに餓鬼さんが顔を下に向ける。


「一先ず、縄こそほどいたが....」

何故ここにいたのか?ということを聞くまでは、防具や武器、その他の装備品は返さないと釘を刺しておこうとするが....


「あぁ、あぁ、分かってるよ、武器と防具は返さねぇし、“何でここにいたか?”も話せだろ?わぁってる、わぁってる」


「分かってるならいい」


「あー、でも....服だけ返して貰ってもいいか?」

「その....流石にパンツ一丁だと寒くて」


山月は腕同士でさすりながら、大きなくしゃみをする


「・・・いいぞ」

流石に可哀想だということで了承する。


「ありがとう....後....」


「まだあるのか?」


「さっきのよ?なぜここにいるかの話をするためにも....そのイヤリング返してくれよ」

「安心しろよ、そこの....名前なんて言いますか?」

山月はセリナさんを指差す


「私か?」


「あぁ、はい」


「“セリナ”だ」


「この中だと、年長者か?」


「....まぁ、そうなるな」


「成る程!だからシワが....」


セリナさんが、山月の後ろに移動する。

あまりの早さに、目が追い付かなかった。


「フグっ!」


後ろにまわったセリナさんは、チョークスリーパーを掛ける。


「死にたいのか?」


「いやいや、お姉さん、冗談ですやん」


「・・・・」


「いやだってね?お姉さんシワとか無いから、冗談って通じる....苦しい苦しい!キブギブ!」

「死んじゃうから!ねぇ!死ぬ!」


「....」

セリナさんは、チョークスリーパーを掛けている片方の手で、ファイヤーボールを唱える。


「え?嘘だよね?死んじゃうよ?ホントに」


「私の顔をよく見ろ?ここにあるだろ?」

セリナさんは、魔法を打つのをやめ、目元を指差す。


「いや、え?目茶苦茶小さいシワやん!気付かんて!ねぇ」


「なぁ、スイさんこれは、どっちが悪いんだ?」

モカが疑問に思ったのか、スイに聞く。


「まぁ、圧倒的に山月さんの方ですね」


ミールが横で、ウンウンと頷いている。


「その辺にしとけ、セリナ」

餓鬼さんが、セリナさんを止める。

それを聞いたセリナさんは、チョークスリーパーを解く。



(今回短くてすみません、次回は3月23日です!ちなみに、セリナさんのシワは人間の肉眼では確認できない程小さいです。気にしてるセリナさん可愛いですね。)

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魔王討伐 甘党辛好 @amaamatou

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