やっぱり魁!世直し遊軍!5じょう隊!





その日鬼頭は休日だった。

里奈が引っ越した後の部屋を掃除し、鍵も変えた。


「寂しくなっちゃったねぇ。」


と彼女はため息をついた。

だが次の住人を募集しなければいけない。

忙しくなる。


「でもその前に……、」


管理を頼まれている一角と千角の部屋の空気を入れ替えようとした時だ。

アパートの駐車場に一寸法師の車が入って来た。

鬼頭が不思議に思い見ていると、

車から荷物を抱えて一角と千角が降りて来た。

運転手は豆太郎だ。


鬼頭は慌てて階段を降りると二人に近づいた。


「あんた達、また四ヶ月も留守して。」


一角と千角はにこにこしながら鬼頭に言った。


「鬼頭さん、ありがとうございました。

お世話していただいたんですよね。」

「う、まあね、今回はあらかじめ連絡をもらったからね、

でもうちは下宿屋じゃないんだよ。」

「はい、そうですね、でも助かりました。」


一角の微笑にはさすがの鬼頭も弱い。


「ところですごい荷物だね、どうしたんだい。」


千角が相当嬉しいのだろう、

笑いながら荷物を持ってくるくると回った。


「豆ちゃんにミシンを買ってもらったのぅ~~。」

「僕は水出しサイフォンを買ってもらったんです。」


鬼頭の口がぱっくりと開く。

彼らの後ろからとぼとぼと歩いて来る豆太郎を鬼頭は見た。


「豆ちゃん本当なのかい?」

「……そうなんです。」


情けない顔をして豆太郎が返事をした。


「なんか弱みでも握られたのかい?あんた達どこかの御曹司なんだろ?

貧乏人にたかっちゃだめじゃないか。」


以前里奈に冗談で豆太郎が二人の事を話したのだ。

鬼頭はどうもそれを信用したらしい。


「まあまあ、鬼頭さん、

これからお礼もかねてコーヒーを淹れますから飲みに来てください。

里奈ちゃんの事も聞きたいし。」




鬼頭が一角と千角の部屋に来るとコーヒーのいい香りが漂っていた。


「水出しコーヒーは時間がかかるからね、

今日はサイフォンで。」


一角の手際はとても良い。

そして豆太郎がそれを飲んだ。

彼のカップは灰色のぽってりとしたものだ。


「お、なんか味が全然違う。えらのママが入れたみたいだ。」

「分かる?豆太郎君。」


鬼頭もまんざらでない顔で飲んでいる。


「ところで里奈ちゃんは豆ちゃんから聞いたけど

ついこの前引っ越したんだね。」

「そうなんだよ、あんた達によろしくと言っていたけど、

会いたがっていたよ。」

「僕達も会えなくて残念だったな。ちょっと忙しくて。」


と一角は言ったが、

豆太郎は多分遊んでいただけだろうと思ったが黙っていた。


「二人は結婚式を挙げたの?」

「いや急だったから挙げてないよ。

でも里奈の親と食事会はしたと言っていたな。

それで初めて知ったけど玖磨さんの親はもう亡くなっていたんだな。」

「そうなんですか?」

「まあプライベートだからね。

でも玖磨さんがボソッとまた親が出来て嬉しいと言ったらしいよ。

そうしたら里奈の父さんが泣いちゃったらしくて。」

「そうなんだ。」


豆太郎がにこにこと笑った。

嘘を言わない玖磨の言葉だ。

同じように親を亡くした豆太郎はその言葉の重さが分かった。


「まあ良かったら里奈に連絡してやってよ。

向こうで結婚写真を撮ると言っていたから

写真が送られて来たらまた見せるよ。」


鬼頭はそう言うと部屋を出て行った。


「おい、一角と千角。」


豆太郎がそう言うと紙袋を差し出した。


「豆太郎君、朝からそれ持っていたよね、なに。」

「里奈さんから渡してくれって言われていたんだ。」


千角が受け取る。


「あっ、5じょう隊のボックス!」

「里奈さんも玖磨さんもそれぞれ二つ持っていたらしい。

だから一角と千角に一つ差し上げますと言ってたよ。

大好きなんだろ?」


受け取った二人は複雑な顔になる。


「うーん、まあ確かに最後まで見たけど。」

「そう言えばあの正一とここに出て来るゴシック卿がそっくりだってな。

ちょっと見たいんだがな。」

「受け取った時に見ればよかったのに。」

「人から預かったものを勝手に開けられないだろう。」

「豆ちゃんはやっぱり律儀だね。」


千角がテレビをつけてブルーレイをセットした。




さきがけ!世直し遊軍!5じょう隊!


世の中の!

蔓延はびこる悪を打ち砕く!

正義の遊軍!5じょう隊!

イマワエル!

オトワスタン!

ベン・ケイン!

ムサシール!

ウシワカーヌ!

悪の総統

血まみれゴシック卿を打ち倒す!

5じょう隊!出動!!




派手な爆発とともに隊員がボーズを取った。




しばらく豆太郎がテレビを見る。


「これがゴシック卿か。ほんとそっくりだな。」

「吸血鬼らしいよ。」

「そう言えば今えらんてぃすはゴシック卿と言う名前に代わったよ、

あの正一がマスターをやってる。ブラッディ正一だって。

お前達一度行って来いよ。」

「ふぅん……。」




そして何時間後か。


食い入るように豆太郎は画面を見ていた。

後ろで鬼達は暇そうに彼を見ている。


画面は最終回だ。


『すまん、オトワスタン、俺は今でも迷っている。

だが誰かがゴシック卿を止めなければならないんだ。』


そして豆太郎が派手な音を立てて鼻をかんだ。








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一角と千角 2  一天地六 ましさかはぶ子 @soranamu

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