人魚調理法
そうざ
The Mermaid Recipes
「早速、調理に取り掛かれ!」
天下に冠たる王立遠洋船団が永年に亘る苦心惨憺の末、遂に人魚を捕獲せしめた。その数、五頭。
不老長寿は、王の本懐であった。若かりし頃より戦に明け暮れ、有形無形に関わらず戦利の産物を我が物として来た
王は、至高の膳を
先ず
この
やがて、一人目の料理人が怖ず怖ずと
「人魚のポワレ・レモンバターソースにて御座います。胡椒、大蒜、オリーブオイル、バター、岩塩、レモン汁、そして葡萄酒を――」
「今、何と申した?」
「はい、人魚のポワレ・レモ――」
「葡萄酒と申したな。朕が酒を受け付けぬと知っての戯れか?」
料理人は凍り付いた。王は稀代の偏食家であった。風味付けに用いる
料理人は早暁を以て処刑と決まった。厨房の面々は
その上で、二人目の料理人がおどおどと膳羞を披露した。
「人魚と茸の黒酢炒めに御座います。
「蛮族の味付けなど笑止千万。下がれっ!」
王は著しく優生思想に囚われた自民族中心主義者であった。
二人目も早暁を以て処刑と決まった。いよいよ一同から血の気が失われ、誰もが褒美どころか
居た
「人魚の香味蒸し・フォアグラ、キャビア、トリュフ添えに御座います」
「巷間の珍味を盲信しおって。下がれっ!」
王は他人が拵えた既成概念を嫌悪する
三人目も早暁を以て処刑と決まった。五人の心に巣食う悪魔が、この場からの遁走を
色を失った四人目の料理人がびくびくと膳羞を披露した。
「人魚のズッパディペッシェに御座います」
「そのような料理名は
王は自らの
四人目も早暁を以て処刑と決まった時、五人目の料理人がそわそわと膳羞を披露した。
「人魚の活け造りに御座います」
首より下を切り刻まれながらも、剥き出しになった心臓は未だ脈動し、口唇は喘ぐように開閉を続けている。その虚ろに濁った眼球がぎょろりと回旋し、獣性を宿した眼差しが王のそれと交わった。
「この上なき希少な人魚となれば、その素材を活かした野趣に
深く平伏する五人の前で、王は沈黙を守ったままであった。
それもその筈、王は食卓の玉座に身を委ねたまま頓死していた。凄惨にして
その後、五人の料理人が哀れ刑場の露と消えたのか、或いは数奇な曲折を経て生き長らえたのか、その後日譚については、何れも言わぬが花の如く
この点は、彼等が
王の食指を免れし人魚料理の数々、果たして
人魚調理法 そうざ @so-za
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