第17話 番長の憂鬱★忠犬ショコラ!?③

「ごめ〜ん!おまたせ〜!」

が、次の瞬間、遠くから小鳥の声が聞こえたのだ。

次の瞬間、ショコラの唸り声は消えて、ベロベロと何かが柴崎の顔面を拭った。


「あれ〜。ショコラすっかり懐いちゃったねぇ〜」

小鳥はのどかな風景を見るかのように、仰向けに倒れる柴崎とその顔を舐め回すショコラに声をかけた。黒い大きな犬は尻尾をブンブンと振って、柴崎の顔を舐め回していたのだ。


小鳥の声を聞くとさっと柴崎から離れ、また尻尾を大袈裟に振って小鳥に向かって抱きつこうとした。


「ほら、ショコラ。今はこの子のご飯が先でしょ!お兄さんなんだからね!」

小鳥はショコラにそう言うと、ショコラはクーンと小さく鳴いてショボンとおすわりをした。


「い、いや…ち、違う!違うぞ!」

柴崎はその様子を見て、小鳥に対して言った。


「は?何が違うの?」

「お前の犬、そ、それ本当に犬か!?」

「はぁ?アンタこの子が猫に見えてんの?」

「い、いや、そうじゃねぇ。普通の犬じゃないって!」

「あ〜。そう言うことね。凄いシッカリしてたでしょ。この子すごい頭いいからねぇ!何でも理解してるよ!ご飯の時間とか、散歩のルートとか!」

「いや、そうじゃねぇ。こいつ魔獣かなんかじゃねーのか!?」

怯えた口調で柴崎は小鳥に訴えた。


「え〜?柴崎くん動物の事わかってないなぁ。動物にも感情があるの。嬉しい時は嬉しい、悲しい時は悲しいって。まぁ、動物飼ったこと無いと分かんないかもねぇ〜。ね〜ショコラ!」

小鳥がいうと黒い大きな犬は「ワン」と大きな返事をして、柴崎をじろりと睨みつけた。


「ほ、ほら!今!!」

柴崎はショコラを指さしたが、小鳥は気にもとめず、飼ってきたドッグフードを子犬に差し出した。


「食べられる?安心して良いんだよ〜」

小鳥はそういって子犬を優しく撫でた。隣に居たショコラもさっきと打って変わって、また子犬をペロペロと舐めていた。


子犬は一口もドッグフードを口にせず、ブルブルと震えながら段ボールのすぐ横で怯えていた。


「うーん、ダメかぁ。仕方ない」

そう言うと小鳥はひょいと子犬を抱き上げた。


「お、おい。そいつどうするんだ!?」

「え?どうするってこのままにして置くわけにも行かないから、一旦うちに連れて帰るよ。」

「はぁ?!何で?」

「里親探しだね。いや、アンタねぇ。ここに居てもこの子無事じゃ済まないよ。保健所に連れて行かれちゃうかもしれないし、食べ物がなきゃ死んじゃう」

「い、いや。そうだけど、お前の家ってそのショコラと一緒だろ?」

「当たり前じゃん。でも大丈夫だよ。ショコラも歓迎するでしょ!?」

小鳥はショコラに向かって言うと「ワン!」と尻尾を振りながらショコラは返事をした。


「よし、じゃあ。早く行こうか!?」

小鳥はそうすると、子犬をそのまま家に連れ帰ろうとした。嬉しそうに黒い大きな犬は尻尾を振りながらその後を追う。


「キャン!キャン!キャイ~ン!キャン!」

子犬は身体をジタバタさせながら何とか逃れようともがいている。


「あらあら。そんなに嬉しいのね。もう大丈夫だよ!」

小鳥は暴れる子犬をきっちり抱きかかえながら子犬に言った。子犬は微動だにできなくなり悲鳴に似た鳴き声を上げた。


「…めろ…」

「え?柴崎くんなんか言った?」

「キャンキャン!キャンキャン!」

「ゲ、ゲヘェ」

「キャンキャン!キャイ~ン!」

色々な鳴き声と声が交錯する。


「や、やめろぉおおおおお!」

柴崎はそういって小鳥の所に走っていくと、半ば強引に子犬を奪い取った。


「ちょ!?何?何すんの!?」

「お、俺が飼う!」

「は?はぁ!?アンタ何いってんの?」

「こいつは俺が先に見つけた!だから俺が飼う!大丈夫だ!」

柴崎はそういって力強く小鳥に言った。


「あのねぇ。柴崎くん。動物を飼うってのは、そこら辺の玩具買ってくるのとはわけが違うんだよ。責任が伴うの!この子のこと理解しなきゃいけない。この子のことちゃんと知らなきゃいけないんだよ!」

小鳥は半ば呆れた顔で、柴崎に言った。


「いや、お前には言われたくないけどな!」

柴崎は心のなかで大声で反論した。


「頼むよ!しっかり面倒見るから!」

柴崎も必死になっていた。だが、あの切ない子犬の鳴き声をそのまま放っておくわけには行かなかった。


「ふぅ…しょうがないなぁ…ちゃんと面倒見れるの?」

「お前よりは恐らく」と柴崎は言いたかったが言えなかった。


「ショコラ、せっかく弟が出来ると思ったけど、柴崎くん本気っぽいから任せてみようか?」

「クゥーン…」

ショコラは淋しげな鳴き声を返した。柴崎は当然苦い顔をした。


「分かったよ。じゃあ、任せるよ。でも、無理だと思ったらちゃんと言うんだよ」

「あ、ああ。分かったよ」

柴崎はそう言うと、ホッと胸を撫で下ろした。柴崎の胸に抱えられた小さな子犬は少し安心したのか、柴崎の腕の中でじっとしていた。


「ふぅ。で、この子の名前は?どうするの?」

「い、いや、そんなのまだ考えてない…」

「じゃあ、アタシが考えてた名前にしよう!マカロ…」

「あ!いや!名前考えてた!実は決めてた!」

「え〜?なんて名前?」

「い、いや、タロウとか…」

苦し紛れに柴崎は言った。


「は?タロウ??あはははは」

「え?」

「そ、そんな、シワシワネーム!?昭和かよ!?何?南極とか連れて行く気?ねぇショコラ!ちゃんと考えないと可愛そうだよ!あははは!」

「ゲ、ゲヘェ!ゲヘェ!ゲヘヘヘヘ!」

「…い、いや、お前らにだけは言われなくねーけど…」

心のなかで言い返す柴崎だった。


結局、子犬の名前は柴崎武蔵の名前にちなんで「コジロー」に決まったと言う事実を小鳥が知ったのはしばらく後のことであった。

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最強・無敵のJK♡芹沢小鳥♡は強さ隠して今日も可愛く生きるのだ!という話 珈琲パンダ @wassan

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