A級ダンジョン⑤

 アレックスが戦っている一方。

 

 「おい! そっちに20行った!」


 「なんで通すのよバカタレ!」


 「どんだけ前から来てんのか見えねぇのか?あ?」


 誰も見ていないと、夫婦喧嘩のように暴言を吐きまくる二人。


 「あ、あははは⋯⋯」


 完全に置いてけぼりの杉浦は笑うしかなかった。


 わ、私、完全にいない者扱い⋯⋯しょうがないよね。


 『ふッッ!』


 凄い。一瞬で10体も首を飛ばしてる。


 鈴鹿さん。トレーニング時はあそこまで強かったかなぁ?そこまで好戦的な感じもしなかったんだけど。


 『錬! もう少し周囲を見なさいよ!』


 て、天道さんも凄い。

 文句を言いながらもしっかり戦ってる。

 ⋯⋯時々暗殺者のせいで見えない時が多いけど。


 「杉浦さん、大丈夫!?そこのバカ女にいじめられてない?」

 

 「だーれがバカ女ですって!?こんのイカレ脳筋!」


 「だ、大丈夫です!守ってもらってます!」


 「それにしてもよぉ、若は10万だろー?やべぇなやっぱ」


 「そうねぇ。スキルが違うのかしら?それとも全盛期の力がそのまま反映されているのかしらね?」


 若⋯⋯? 一体誰なんだろう。


 「あの⋯⋯若って一体⋯⋯」


 「あぁ〜まぁ色々あるのよ!」


 「そうだぜ?若頭⋯⋯的な?」


 「カバーになってないのよ!」


 「グハッッッ!」


 突っ込んだつもりが、鈴鹿さんが遠くの壁にめり込んだ。え?天道さん⋯⋯あんなに強くなかったよね?私の勘違い?



 「さて──っ!?」


 「⋯⋯うぇぇぇっ!?」


 目に見えるのは、凰龍の構えをしているアレックス。思わず二人がピタリと固まる。


 「ねぇ、やっぱりあの人おかしいと思うんだけど」


 「奇遇だな。俺も思う」


 「何がですか?」


 「「えっ!?なんでもないよ!」」


 何聞いているんだみたいな驚きなんだけど、正直言ってここで話すことではないのでは⋯⋯と思う。


 「やっぱり数が一向に減らないわね」


 「あぁ。やっぱり使うしかないんじゃねぇの?」


 「んん⋯⋯でもここで使うにはリスクが高すぎる気がする」


 二人の視線は私に。やっぱり、何か隠しているのは間違いなさそうだなぁ。


 「杉浦、ちょっと魔法掛けていいか?」


 「え?なんの魔法?」


 「サイレントの魔法よ。ただ漏れちゃいけない情報だから使うだけ。良い?」


 「断れないよ。いいよ」


 



 ***


 

 「錬、口上を述べます」


 「あいよ」


 まだまだ先が見えないほどの魔物の群れが見える中、二人の男女がゆっくり前へと歩いていく。


 ゆっくり、ゆっくり深呼吸をしながら、梓は述べる。


 「現時点のみ──私、天道梓。特殊部隊"神門隊"最高側近兼零番隊副隊長が命じる。

 ⋯⋯今、この場で神門式の開門を許可します。

 ただし封門開放は禁じることとします」



 その直後、魔物群れの中を、赤い稲妻が空を奔る。


 

 "無限の龍神"


 "天高くどこまでも続く流星で有れ"


 "己が目指す咆哮を眼前にぶつけろ"


 "赤い輝きは血と肉で出来上がった己だ"


 "その狂気は永遠に"



 



















 「しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 "神門式刀術第五式──龍ノ薙■■■■■■■■■■"


 強烈な雄叫びと狂気的な笑みを浮かべる錬の手には、大太刀が握られていた。


 鈴鹿錬最高の愛刀──墨竜波旬ぼくりゅうはじゅん


 通常の人間では使えないとされているその大太刀を、馬鹿力で魔物の間を赤い稲妻と共に抜け、全てを一撃の下に屠る。


 舞う鮮血。ぐるぐる千切れる魔物の死体。

 

 その全ての血が、大太刀が飲み込むかのように滴っている。


 「⋯⋯⋯⋯」


 錬の見回す視界には魔物は一匹も居ない。

 たった数秒動いただけで、魔物は途絶える。




 一方。もう一つの場所で舞う赤い稲妻の舞踊は周囲の魔物の肢体を強制的に捻らせる。


 "舞え"


 "狂喜の下に暴れ咲く黒真珠"


 "死を謳え"


 "愛すべき死者へと"


 もう一つの赤い稲妻は魔物たちを駆け抜ける事はしない。その場に留まり、踊る。


 月光の下で踊るその眉目秀麗な女性の姿は戦場には全く似つかわしくない。


 赤い稲妻は嵐となり、魔物たちを引き寄せ、捻らせる。


 レキ。それが天道梓の使用する武器の名前であり、一点物の槍だ。

 真っ赤に煌煌と輝く深紅はまさに、その美貌を現すかのような滑らかさと美しさ。


 「レキちゃん。お仕事よ」


 切っ先部分に軽く口付けをすると、槍はその色の如く激しく回転し、猛威を振るう。


 "神門式槍術第五式──魅那れ櫻■■■■■■"。


 空高く飛散する魔物だった肉片。

 たった二人の力によって、数千、数万以上の魔物を無力化した。


 見ていた杉浦は、ポカンと口を開けるしかなかった。


 「ふぅ。終わったわね」


 「久しぶりだと加減がキチィや」


 武器と謎の稲妻はすっかりと消え失せ、二人はいつもの姿で杉浦の前に現れた。


 「す、凄かったです!!」


 「あ、ありがとう⋯⋯あはは」


 「この事は⋯⋯黙っててくれよ!頼むよ!」


 「は、はい!勿論です!」


 「「あぁ⋯⋯優しい。何ていい子なんだ」」


 ハモる二人は互いに見つめ、『キモッ』っと言い合う。


 「アレックスさんはまだ戦っていますけど⋯⋯援護の方は⋯⋯」


 「「あ」」


 三人が意識を向けた時には、既にオーガロードの姿は無く、ただ紫色の迸る雷電が視界を埋め尽くした所だった。


 「す、すごい⋯⋯あれがS級⋯⋯なんですね」


 「おいおい」


 「あれ⋯⋯間違いなく既視感」


 杉浦の感想とは裏腹に、二人の目はマジモード。


 「やぁ!二人とも凄いね。よくこれだけの魔物を倒したもんだよ」


 途轍もない斬撃を見せ、爽やかに帰ってくるアレックス。


 「凄かったです!アレックスさん!」


 「ほ、本当かい?」


 「ええ。とても興味深かったです。是非どうやったのかを教えて欲しいくらいです」


 「天道さん、笑ってないんだけど」


 一瞬空気が凍りそうになったのだが、なんとかイイ感じに解ける。


 「さて。早く仲間と合流して状況を把握しないとね」


 「それには同意見です」


 「だな」


 「はい!」


 そうしてアレックス達はすぐに状況把握へと動き出した。

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不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。 ちょす氏 @chosu000

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