A級ダンジョン④

 「アレクと勇者たちが離れてるから、防御と探知よろしく!」


 「任せろ⋯⋯ジン・フォートレス!」


 防御スキルが掛かったリーナが笑いながらフレイムランスを生成し、周囲の魔物たちに向けて放つ。


 以前のリーナとは一線を画す程の威力とコントロール力に進化し、その一発の威力に関心を覚えるほどだった。


 魔物たちが悉く焼死している中、リーナは眉を寄せる。


 「ドーグ、全く数が減らない」


 「確かに⋯⋯」


 チラッと一周し、ドーグは若干引きつりながら笑う。


 「もしかしたら最悪のタイミングで重なったのかもしれんぞ?」


 「「スタンピード」」


 「ハモっちゃったじゃないの。やっぱり⋯⋯かしら?」


 「あぁ。条件がこうして揃いすぎているからな」


 ダンジョンは一定期間放置しておくと、徐々に敵の質が高くなる傾向がある。わざとそうしている場合も多いほどだが、これは明らかに何者かの手によって強制的に高くさせられた感じだ。


 「まさか人生でまたこんな目に遭遇するなんて思っても見なかったわよ」


 「早く合流しないとな。魔力はあるか?」


 片手で魔法を飛ばしながら、口で瓶の蓋を開けてポーションを口にするリーナ。


 両手を指揮者のように上げると、ドーグとリーナの周りを円形に囲い、次の瞬間炎が高く舞い上がる。


 「フレイムウェーブ!!」


 火の津波が一気に魔物たちを侵食し、大部分の魔物を全て一発で屠る。


 「よし!」


 「それじゃ──」


 『──Gwwwwwwwaaaaaaaa!!!!』


 「「⋯⋯っ」」


 二人の表情が固まる。


 「今の叫び声、もしかしてオーガロード?」


 「くそっ! どうしてこんな時に!」


 「タイミング悪すぎでしょ⋯⋯」


 「どうする?」


 「どうするもこうするも、アレクと即合流よ!とういうより、あの二人の勇者は結局どうなったのよ」


 「分からん」


 「まぁ度胸と才能はあるし、この際覚醒でもしてもらわないと」


 「⋯⋯だな」


 だが、アクシデントにはアクシデントが重なる。


 天井の崩落が始まり、視界は全て埋め尽くされる。


 「嘘でしょ⋯⋯!?」


 「なんとか破壊して先へ⋯⋯」


 「いや、マズイわ。もし闇雲に破壊でもしたら、全部崩れてくる可能性もあるから」


 苦笑いのドーグがリーナに更にスキルを重ね掛けをしている。そうして二人は、すぐにアレクの元へと急行するのだったのだが、上手く行かず、二人は上層へと向かう事になった。





***



 「これは酷いね」


 「はい。先程よりも魔物が3倍以上に膨れ上がっています」


 困惑気味のアレックスと特別何も感じていなそうな二人、そして完全にビビって何も出来ずに震えている杉浦琴音たち一行は周囲に映る地獄のような魔物たちの数に笑うしかなかった。


 「まぁ、なんとかなるっしょ!」


 「勇者鈴鹿くん、凄い前向きなんだね」


 「そうじゃなきゃ⋯⋯勝てない。そうでしょ?」

 

 「その通りだ」


 横目で訊く錬の笑みに答えるように、抜剣するアレックスは、リーナ達と同様のことを頭に浮かべていた。


 トラシバの一件でもそうだ。

 なんでこうも悪運が強いんだか。


 まぁ⋯⋯何故か今回は生き残れるっていう確信みたいなのがあるっていうのがせめてもの救いなのかな。


 「勇者杉浦さん。大丈夫?」


 「だ、大丈夫です!回復しか役に立ちませんが」

 

 ⋯⋯大丈夫じゃなさそうだな。

 足を抱えて震える杉浦に、空笑いを浮かべるアレックス。


 「一先ずの陣形を組むんだけど、とりあえず俺が前衛。勇者鈴鹿はバランスの良い中衛。勇者天道は勇者杉浦さんを守る後衛をしながら魔法で雑魚狩りをしながら後衛として今回は動いてもらうよ。勇者杉浦はみんなの回復と支援を」


 「「了解!」」


 「はい!」


 そう言うと少し前に歩くアレックス。

 ハァ⋯⋯。

 前回は滅多にない奴だったのに今回も。本当なんでこんな⋯⋯。


 しかも今回は勇者様たちの護衛で⋯⋯。

 こんな依頼引き受けなきゃ良かったよ。


 報酬金がかなり良かったし、騎士団のナンバーワンが直々に来てくださって依頼を頼まれたから断りづらかったんだけど。


 「──楽しくなってきたな、オーガ?」


 「グルルル⋯⋯⋯⋯」


 威嚇する喉から漏れでる音はまるで虎だ。


 きゃ〜!師匠の真似しちゃった!

 抜剣しながらそう言い放つアレックスは無表情だが、内心かなり違う意味で動揺していた。


 やっぱあの真似は無理だ!

 表情とか動きがカッコイイのは良いんだけど、俺に真似出来ない!


 ⋯⋯って、そんな場合じゃないか。


 「さて、行こうか」


 「⋯⋯G?」


 距離の空いていた間をスキル疾走で瞬時に埋める。


 上空でゆっくりと息を鼻から吸い込み、視界を確保。瞳を軽く閉じると頭の中をスッキリさせては本能を呼ぶ。


 ドクン──。


 「ウゥゥ!!」


 高速で剣をしまい、赤と蒼のダブルカラーの双剣を抜いてオーガキングの背中を切り刻む。


 「少し、浅かったか」


 「ウゥ、ウゥゥワゥゥ!!」


 完全に標的にされているな。

 これでいい。彼らに被害が行くようなことは避けたい。


 片方の短剣を逆手持ちにし、オーガが突進する前にこちらから突っ込む。


 「疾走!」


 縦横無尽にオーガキングを切り刻んで行く。

 しかし、やはり再生の能力のせいか中々傷は深まらない。


 「ウ?」

 

 オーガキングが見上げると蒼と紅に剣が煌めく人族がいた。


 漏れでる剣形はやがて竜となり、二匹の竜を双剣に宿らせる。


 「スゥゥゥゥ⋯⋯ッッ!」


 上空から垂直に落ちていく自分の体を最大限使い、二匹の竜をオーガキングにぶち当てる。

 

 「双竜──斬撃ッッ!!」


 「グワァァァ!!!!」


 よし、効いてる!

 両腕はぶっ飛んでるから、後は魔核をぶち壊せば⋯⋯⋯⋯


 

 ──ドガァァァァン!


 

 ダンジョンの至る所から突如鳴り響く爆発音。  

 

 「なんだ?」


 ドシン。

 

 ⋯⋯冗談だろ。


 「おいおい勘弁してくれよ。こっちはオーガキングで手一杯なんだが?」


 オーガロード。

 キングがこんだけいるんだから予想はしてたが。


 「ったく面倒だ」


 腰に双剣をしまい、再度直剣を抜くアレックス。

 

 「本来はこっちで戦ってたからね⋯⋯負ける気はしない」


 いつからだったかな。師匠のおかげか、恐怖心とてつもなく減った気がする。


 「オーガロード。行くぞっ!」


 ガゼルから受け継いだ剣術。神門式剣術。


 神門式は基本技を含めた十式からなる型を極限まで鍛え上げた剣技である。


 この技には、神門創一の人生で受け継いだ様々な剣の理を使用して改善に改善を重ねた技術の結晶だ。


 少なくともアレックスはまだ基本中の基本、二式までしか使用できない。しかし、質が違う。


 "一式は、極限まで丁寧に。達人たちはたった一振りで全てを断ち切ることができる。その一振りの軌道と必要な筋繊維をこの動かし方でやれば必ず身につく"


 一式の前には様々な構えがある。

 神門式が習得困難と言われている理由の一つだ。


 構え、歩法。


 剣を振る前に必要だと言われているモノだ。

 この神門式では、数百の構えと歩き方、場面場面に応じたパターンでシミュレーションして作った鍛錬法がこれまた100以上ある。


 その全てに意味があり、当然普通の剣術の型をやっているのとはワケが違う。


 動いているだけで勝手に必要な部位の筋繊維が鍛えられ、腱もそれ着いていくように少しずつ進化するのだ。


 そして。


 ──"その構えは龍神を模した"

 ──"鳳凰と龍が舞うように"


 その独特な構えは、オーガロードの威圧を消す程だった。


 「ウゥ?」


 "神門式剣術──第一式『閃』"


 弾丸のように突如オーガロードの眼前にやって来たアレックスが刹那よりも更に短い時間でオーガロードの両足を強制的に三枚に卸した。


 「グンァァァァァァ!!!!アヴ!!アヴ!!」


 「ジュゥゥゥゥゥ⋯⋯」


 たった一息ついた次。

 蒸気機関車のような激しい呼吸が聞こえると全身が微かに紫電色に染まる。


 ──お前にまだ早いかもしれないが、二式も教えとく。分からなくなったら諦めろ。


 閃の次は皇。最初の一太刀も十分に威力があるが、次の一太刀は違う。正真正銘──どんなモノも断ち切る言われている技。


 ''紫電と狂気に包まれた人間"


 "紫陽と修羅を混ぜ合わせた者、無敵なり"


 アレックスは手首を返す。


 ''神門式剣術第二式──『皇一閃』"


 一瞬迸った紫電が通り過ぎると、オーガロードの肉体は一瞬で爆散し、魔核をも綺麗に切り裂いていた。


 放った一閃は軽く100mは前方に飛んでおり、数え切れない程の魔物の死体がそこにはあった。


 キンッ。

 

 抜いた一太刀を終え、鞘に剣を納めると、アレックスは笑って三人の方へと向かう。


 「大丈夫だった?」


 「「「はい!」」」


 「よし、なら早く移動しよう!何かあってからじゃあ遅いからね!」


 アレックスは我ながら良い所を見せられたんじゃないかと内心ドヤ顔を披露していたのだった。

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