A級ダンジョン③

 「いやー俺のおかげ随分楽に降りて来られたな!」


 「うわ、だるコイツ」


 「はぁ!?」


 すっかりこの男二人の言い合いに慣れた一同。

 場所はもう、10層に差し掛かる所まで来ていた。


 「あの二人は本当に仲が良いんだね」


 「伊達に1日に何時間と言い合えないと思いますから」


 アレックスと天道はかなり話が合い、かなり細部の話まで話題を広げている。


 この人、やっぱり誰に師事している様子。

 誰だ? ⋯⋯まさか若?


 いや、流石に名前まで出すわけには行かない。

 そもそもここの世界の人たちは漢字の概念を知らない。


 「どうしたの?天道さん」


 「っ、いえ」


 そんなこんなで進むと、10層の扉前まで辿り着く。天道はいつも通り探知スキルを使用し先に色々知っておこうと思ったのだが。


 「アレックスさん。この先かなり敵が出現していますが、大丈夫ですか?」


 「それはありがたい情報だね。リーナ」


 「今調べてる⋯⋯ッ、彼女の言う通りで間違いないわ! まずい!」


 汗が滲むリーナが声を張った。


 「どうした!?」


 「中にオーガキング三体、他にも強力な魔力反応が多数よ!」


 「一旦戻ろう──」


 「全員避けろぉぉ!!!」


 

 ドガァァァァン!!


 ドーグの叫び声で一斉に左右に全力で飛び込んだ。

 直後、壁が崩壊し爆音が周囲に響き渡る。


 まずい。オーガキングは俺達が3人協力して戦うモンスターだ。

 まさかキングが三体も当たり前に湧いてるのは聞いてないぞ!

 

 「全員、訓練を終了し、これは実戦である事をとする!下手な行動を控えてくれ!」


 アレックスの一声が響く。

 だが、馬鹿二人は全く状況の理解できていなかった。


 「大丈夫だぜアレックスさん!俺一人であいつをぶっ殺してくるからよ!」


 「ちょっと森下さん!?」


 一瞬で走り抜ける森下とそれを追う神宮寺。

 だが同時、二人の走った方向の頭上から瓦礫が降ってきては視界を塞いだ。


 「帰ったら首が飛ぶな」


 「勇者を育てるのも一苦労だ」


 隣にいたドーグが鼻で笑いながらそう呟く。


 「だな」


 「アイツらは置いておきましょう」


 「天道さん?」


 「いえ、目の前から大量のモンスターが迫ってきていますし」


 天道が指差す先は、ゴブリンなどの雑魚モンスターを含めた大量の魔物が自分たちの方へと行進の限りを尽くしていた。


 「一旦置いておこうか。よし、全員、一旦二人のことは後回しにして、俺達は目の前の全滅から行う!指示は俺達が行うから安心して動くように!」


 アレックスの言葉で全員が一斉に各々の武器を取り出して構えた。


 


***



 「どりゃァァッ!」


 カーン、と響く森下の一撃。

 

 「⋯⋯ッ!?」


 だが先程のオーガと違い、まるで空気でも斬っているかのような感触に森下は表情を強張らせる。


 地面に着地し流れるように後退しながらオーガキングの猛攻を避け続けていると、火の槍が森下の横を通り抜ける。


 「っ、神宮寺か」


 「おい。先行くなって!」


 「うっせぇよ神宮寺! 異世界で元の世界の序列なんて関係ねぇだろう?」


 「⋯⋯分かってるよ、そんな事は」


 「今の魔法は?」

 

 「ファイヤランスという魔法らしい。見たまんまの火の槍を具現させて射出する魔法の一つだ。一応王宮の図書館にある魔法書を大体読み込んだが、使えそうなのはこのファイヤランスとアロー、ウォールなんかの想像に容易い魔法ばっかりだな」


 「さすがの勇者様も上級魔法は厳しいか?俺の剣を簡単に弾くくらい硬度があってよ」


 「森下の剣でか?それは面白い話だな」


 「時間がない。お前の魔法で使えそうなのをあらかた教えてくれよ。タイミングを見計らって強硬手段に出るから」


 「俺にも魔力の限界ってもんがあるんだが?」

 

 そんな二人の会話を斧を持ったオーガキングの一体がぶった斬る。飛び退き、二人がいたところに振り下ろした痕を眺めた森下が若干顔を引きつらせている。


 「わーお。まぁ負ける気はしないが」


 「キングなんて名前が付いてるんだから予想はしてたがな」


 続けて違う場所からはゴブリンたちか何らかの魔物の手によって発射された大量の矢が二人を襲う。


 「神宮寺!」


 「ちっ!使えない剣聖だな!」


 剣に魔力をまとわせ、刹那の元に全て弾く神宮寺。


 「お前なぁ! 少しは考えて行動しろよ!」


 背中合わせの二人の周りはカオス。

 オーガキングだけではなく、他の雑多な魔物も多くいるのだ。喋りながらでも二人は斬りながら今の会話を繰り広げているのだ。



 暫くの戦闘を繰り広げた二人だが、一向に減る気配はない。


 「おいおい⋯⋯神宮寺、どうするよ?終わる気配がないぞ?」


 さっきから消していってるにもかかわらず、むしろ増えてる。よくある事としては召喚の陣や召喚魔法の類で呼ばれてることが多いようだが⋯⋯。


 「俺達が突っ走ったせいでこんな目に遭ってるんだがな」


 「おい神宮寺。お前勇者だろ?なんかねぇの?」


 「無茶を言うなよ森下。俺達レベルも経験も全く足りてないからこうしてダンジョン攻略をしようとしてるんだが?」


 「はっ、使えねぇ勇者職だなー!」


 「⋯⋯なっ!?」


 斬り捨てながらキレ気味に喋る森下に目を見開かせて青筋を浮かばせる神宮寺。


 「脳筋が⋯⋯いい加減にしろ!」


 黄金の光が神宮寺を包み、一瞬で周囲の魔物を高速で一撃の元に斬り捨てるスキル──剣乱。


 片膝をつき、鞘に収めると、同時に魔物が消滅する。


 「数がむしろ増えてることになぜ気付かない?」


 「は?知らねぇよ」


 「聞いた俺が間違いだったよ!!」


 コントみたいな二人だったが、なんとか善戦していた。

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