A級ダンジョン②
それから蒼き星とダンジョンメンバーの自己紹介が済み、A級ダンジョンを進んでいた頃。
「A級ダンジョンなんか余裕そうだな!」
「相変わらず猪突猛進な性格をしているな、森下」
「猪突猛進とはなんだ! いいだろ?別に!」
「あまり甘く見るなよ。お前はこの数カ月何をしていたんだ」
前衛二人組。いつもは森下のような発言ばかり目立つ神宮寺だったが、何故か今回は控えめにして忠告をしていたのには訳があった。
それはB級ダンジョンの事での出来事だった。
指揮をとっていた神宮寺の班には数人の優秀なメンバーが揃っていたのにもかかわらず、死者を出した事があった。
⋯⋯原因は傲慢さと神宮寺の経験不足からくるものだった。
その一件は本人にもかなりトラウマの対象となったようで、今ではかなりダンジョンについての勉強をするようになっていたのである。
「俺は剣聖だ! 負けることなんてないさ!」
プンスカ起こる森下を横目に、神宮寺は半分呆れたように鼻で笑って進む。
「ちょっと待って」
そう声を上げたのは、立ち止まる天道だった。
「なんだよ、天道」
「森下、話くらい聞けよ。梓なら何か見つけたんだろ、どうしたんだ?」
「何か前から来てない?」
呟く天道に全員が耳を澄ませるが、特に音らしきモノは聞こえてこない。
「はぁ?天道⋯⋯ついに耳ぶっ壊れたんじゃねぇの?」
「でも、天道さんが変なことを言うとは思えないし⋯⋯」
「杉浦ー、お前天道を信じ過ぎだよ。過信も良くねぇぞ?」
そういう二人の会話を遮り、アレックスが笑いながら天道の横について尋ねる。
「天道梓さんだっけ?」
「はい、アレックスさん」
「さすが。全員戦闘準備に備えてね」
にやりと笑い、迫る来る真正面を見ろと指をさした。
「うぇっ!?天道の言うことが本当だったのかよ!」
「だから言ったじゃないですか森下さん!」
「梓はやっぱり天才だな」
「てめぇらっ! 何分かった気でいやがんだよ!」
速攻で抜剣する森下とそれに合わせて優雅に剣を抜く神宮寺。
「さぁ、確か勇者様の中では皆さんが特別優秀だと聞いているよ。実力を見せてください」
蒼き星の三人は一番後ろから腕を組んで微笑ましそうに眺めている。
「見てるだけかよ!」
「文句言うな、森下」
「いつにも増して黙りこくり過ぎだ、神宮寺!」
梓の心を手に入れるには、控え目な方がいいだろう。最近は女遊びを少しは辞めたし、このままサポートキャラとして居ればいい。
見当外れなのだが、神宮寺は優雅に正眼で構え、森下は剣聖独特の構えでその迫りくるモノを待つ。
「GYAAA!!!!」
「「⋯⋯本当に来やがった!」」
音も無く、猪のように突撃してくる巨大な影。
神宮寺と森下はその異様な影に驚いた拍子に左右に飛ぶ。
「行くぜっ!!」
「ちょっと二人とも!!」
そういう天道の言葉を無視して結局二人は勢い良く前へ前へと向かっていく。
「ハイランドオーガ?」
「流石だね、勇者杉浦さん」
小さく呟く杉浦にアレックスが感心したようにツッコむ。
「ほ、本で勉強しましたから!」
「では、僕からの質問だ。ハイランドオーガの特徴は?」
顎に手を当ててゆっくりと考える杉浦。
「通常個体とは違ってかなり体格が大きく、かつ繊細な性格をしている個体が多い。一番特殊な個体としての要因はその体格で音を無くす特殊な動き方です」
「さすが、博識だね」
満場一致の拍手。杉浦が恥ずかしそうに何度も小刻みに頭を下げる。
「ちっ!何なんだこいつら!」
「Wo!!!」
オーガはオークの上位個体のはずだろ!?
何でこんなはえーんだよ!
森下を感知したオーガの乱暴な足の振り回しを華麗に宙返りで捌き、一気に距離を詰めて柄を握る。
「アレックスさん、すみません」
「天道さんが謝る事はないですよ。なかなか面白い二人組ですね」
構えろとは言ったが、同じように突撃しろとまでは言っていない指示に二人は当たり前のように突っ込んでいったことに天道は平謝りだった。
「錬、これ無かったことにできないのかしら?最悪なんだけど」
「やめとけよ、無理だ。あの二人にまともな事を要求するのはもう結構前から諦めてたろ?」
「⋯⋯凄い言われようだね。確かにあの性格の二人では苦労しそうだ」
そうこうしていると爆発音が響き渡る。
「勇者天道さん。あれは彼のスキルですか?」
「はい、勇者は万能なようでして、全ての適性があり練度も上がりやすいスキルも得ているようです。土魔法を使用してオーガを足止めして、剣聖のスキルによる絶刀という剣聖固有能力で無数の斬撃を浴びせて魔力の残滓を残し、それらが爆発するように出来ているスキルらしいですね」
「優秀だね、うちのパーティーに欲しいくらいだよ。天道さん」
「ありがとうございます」
自動的に魔力残滓により爆発していく森下が残した剣痕。
次々の爆発していきながらも、オーガも爆発的な再生力で持ち直しつつある中、上空から綺麗な舞いの動作から神宮寺が剣を高速で動かして再生を阻止する程の威力で斬っていく。
「神宮寺、やるじゃないか!」
「うるせぇ、さっさと続けろ」
こっちは魔力維持で精一杯なんだからよ。
不器用で暴言を言い合う二人だが、意外にも息はぴったりと合ってオーガの再生力を上回る速度と連携で最終的には木端微塵にして露出した魔核を壊す事で完全に死滅した。
「これでたった一体か」
何気なく呟いた森下だったが、神宮寺も気持ち的には全く同意見だった。
「とんでもない再生力だった。俺達でなんとかなるレベルなら、他の奴らはマズいんじゃないのか?」
「そこは安心してよ」
背後にいたアレックスが爽やかに笑いながら、気付けば二人の前に出ていた。
「他にもしっかり指南役はたっぷりいるし、ここはかなり念入りに調査が入るくらいしっかりしているところみたいだしね。とはいっても、僕らみたいなのが駆り出される辺り⋯⋯あまりよくない事があるのかもね」
「「⋯⋯!!」」
その時、梓と錬しか気付かなかったが、異様な気配が前方から迫っていた。
恐らく同じオーガがもう一体。
「勇者森下さんと神宮寺さん」
無音で迫るくるオーガの不気味なら細い風がやっとの事現れたその時、アレックスは笑う。
「まずは二つの指導が必要です。一つはダンジョン内だからといって、決して油断しない事」
「WAu!!!!!」
「アレックスさん!!」
アレックスの頭上辺りから無音で飛びか上がって叩き潰そうと両手で構え、そのまま地面に衝突するオーガ。
辺りには土埃が舞い、視界不良。
しかし、カタカタ金属音が鳴り響くのだけは全員の耳に入っている。
「2つ目。」
そう呟くアレックスの言葉が聞こえたのは、視界が晴れてからのことだった。
オーガの必死な一撃をアレックスほとんど位置を動かさずに剣でいなし、軌道を逸らさせて埋めさせていた。
「冒険者に必要なのは派手な事ではなく、酷く地味で無駄のない動きのみです。スキルや職業にとらわれず、各々自分という表現を目指してみてください」
手入れが行き届いている綺麗な直剣を鞘に納めたその瞬間、オーガの胴体に切れ目が出来上がる。それはやがて大きく深くなっていき、最終的には魔核さえも切断した。
「それが、皆さんの目指す──勇者という肩書きです。私達よりも強くなってください。そして、魔王討伐をよろしく頼みます」
爽やかに笑うアレックスだが、森下と神宮寺は完全に呆気にとられていた。
"おいおい、まじかよ。
今いつ斬ったんだ?"
"アレックスだったか?
この人、Sランク手前なんて言ってたが、本当はもうS級冒険者なんじゃないのか?"
二人の本音は完全に格上。
「「⋯⋯⋯⋯」」
梓と錬といえば、コソコソ焦ったように話し始めていた。
「ねぇ、あれ逆閃じゃない?」
「間違いなく逆閃だ。俺もよく使うからわかるけど」
逆閃。文字通りの意味であるが、一度斬った太刀筋を逆再生するかのように同じ軌道で切り捨てる技であり、神門創一が最も得意とする剣技の一つである。
練度が高過ぎると、まさに斬ったかすら分からぬ内に二撃決められた事になり、食らった相手はほとんどが死に落ちる一撃必殺の基本技というバグった位置づけだ。
「あの人⋯⋯マジで何者だ?」
「さぁ。わからないけど、これは調べて見る価値はありそうよ」
「さぁ、先に進みましょう!」
パンッと胸の前で叩きながら笑うアレックスの言葉で、呆気にとられていた二人も元に戻り、再度攻略は進んでいく。
⋯⋯しかし、問題が発生したのは第10層で起こる。
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