A級ダンジョン①
場所はA級ダンジョン前。
早朝より動き始め、勇者たち一行はつつがなく到着した。
「それでは全員集合!」
ゴルドの指示に勇者たちは軍隊並みの速度で整列し腕を後ろに組んだ。
「ふっ、最初の時とは別人だな」
そう言って今回のダンジョン攻略に当たっての説明を始めた。
***
「森下和也、職業は剣聖だ!レベルは32、前衛は任せろ!よろしく!」
「杉浦⋯⋯琴音です。しょ、職業は聖女です!レベルは29で、です!回復はお任せください!」
──杉浦琴音。
召喚当初はロングヘアーだったのだが、動きづらいことを理由にショートヘアへとチェンジ。顔は大人しいがリスのような可愛らしさがありクラスの男子からはダークホースとして人気。
「神宮寺龍騎だ。職業は勇者な!勇者!
レベルは42、まぁ何でもできるからな。せいぜい足だけは引っ張らないよう───」
その時近くで見ていた鈴鹿のナメ腐った視線に、神宮寺は本能が震え上がって咳払い。
「ま、まぁみんなで力を合わせて頑張ろう!」
一瞬空いた間に全員が頭上にはてなを浮かべたが、そのまま自己紹介は続く。
「天道梓、職業は暗殺者。不意打ちくらいなら私に出来るから」
「おい!レベルは?」
少し張って梓に絡むのは森下。
「レベルなんて関係ないでしょう?」
「はっ?必要なのはレベルだろ?ステータスが無ければ足手まといになるのは見えてるんだからな」
ムッとした森下は梓の言葉に意味わからんと嘲笑混じりにそう返した、が。
「おっとわりぃ!俺は鈴鹿錬!彼女募集中!」
二人の間に割って入り、緩和させようと自己紹介したのは錬。
「まさかそれが自己紹介だなんて言わないよな?鈴鹿錬」
「おいおい〜! 仕方ないだろ?攻略前に喧嘩すんなって!」
バシバシ森下の腰を叩いて場を和ます錬。
「それになんでフルネームで呼ぶんだよ?別に名字だけでもよくね?」
「俺達別に仲良くはないだろ?」
「⋯⋯何言ってんだよ!もう異世界で同郷という仲間じゃないか!」
「うっ、確かに」
何故か勝手に追い込まれていく森下を見ていた全員が笑いを抑えきれず噴き出す。
「ていうかもう結構入っていってるな」
3組程が既にダンジョンへと入っており、残るは最上級のこの班ともう二班。
「だな。俺達はどうするよ?」
錬と森下は同時に神宮寺の方へと視線を向ける。
「⋯⋯俺か?」
「当たり前だろ?リーダーなんだから」
「そうだそうだー!いっつもリーダーっぽく振る舞っておいて、いざという時にリーダーじゃないなんて言い張るのはダサいぞ!」
「そ、そうだな!なら俺達は最後にしよう!」
神宮寺は若干おだてられた事によって良い気分にはなるが、眩しいスマイルの中身を分かっているあまり、若干恐怖を隠せないまま過ごした。
「それじゃ行くぞ!」
神宮寺の掛け声に一斉に「おー!」と拳を上げてA級ダンジョンに入っていく。
今回突入する班は全部で6組。
1班5名計算での振り分けだが、特に成績上位者はこの班にもれなくブチ込まれた。
「いやー、まさか異世界なんてあるなんて未だに信じらんねぇよ」
「ほ、ほんとだよね!」
「そうだぜー?なんたってあの杉浦が聖女なんて職業で人々を助けてるなんて言うんだから」
「あはは⋯⋯」
ゴルド達の調べにより、A級ダンジョンは全部で50階まであり、下へ行けば行くほどより強力な魔物が待機していることが分かっている。
だがしっかりと報酬もあり、倒せばかなりの確率で魔石が落ちたりダンジョン内にある隠し部屋などの場所から武器やアイテムが落ちていることもあるのだ。
「ていうかさ?天道と鈴鹿はなんでいつも二人一緒なんだ? まさかもう出来てたりして?」
「誰がこんなアバズレ女と」
「誰がこんなクソガキと」
同時に隣を指さし、吐きそうという表情を見せる二人。
本気で嫌そうな二人の表情に、全員が笑うのを堪えている。
「じゃあなんで?」
「元々家族関連で一緒にいざるを得なかったの」
森下の疑問を答えたのは梓だった。
ため息混じりに答える梓に森下は『ドンマイ』と軽く肩に手を置いて笑うが、当たり前だろと言いたげにその手を嫌そうに軽く払う錬。
そうして歩く事数分が経つと、突然その場にいた全員が微弱程の殺気に当てられて一斉に戦闘態勢をとった。
同時に緊張が張り詰め、口からの呼気が漏れながら全員の視線は殺気の主を見つめた。
「俺と森下は前、中間は鈴鹿」
すぐに二人は前に出て武器を抜き、残りの人間は後方へと下がって魔法の詠唱準備に入った。
「さっさと姿を見せやがれ!そこにいんのはわかってるんだぞ!」
剣を暗闇へと向けながら大声で挑発する。
「⋯⋯⋯⋯くそっ!何処だ!」
ひたすらに周りをキョロキョロする神宮寺に梓と錬は内心ため息が止まらなかった。
(さっさと火の魔法でも使えばいいのに)
(なんで神様はあんなやつに勇者の職業なんて与えたんだか)
その瞬間だった。
神宮寺が油断したほんの僅かの間に、暗闇から一人の影が一瞬で目の前に姿を表した。
「⋯⋯ぐっ!!」
恐らく召喚した中で一番良い物を与えられている神宮寺ですら、ステータス負けして踏ん張る足がジリジリ後ろへと滑る程の威力。
一瞬のことだったが、神宮寺は顔を上げて相手を確認する。
「⋯⋯人間!?」
「⋯⋯⋯⋯」
顔を隠されてはいるが、肌が露出しているところを見るに、人間である。
手に持つのは一本の直剣。
「くそっ!」
神宮寺は全力で前へと弾き飛ばし、その反発で大きく後ろへとさがる。
そのまま手には炎を用意して片手には魔力を纏った剣を構えた。
「勇者に勝てるわけないだろ!」
地面を蹴り、魔力とスキルを使った加速で一気に謎の者との距離を詰め、連撃。
横、縦、斜め、全部から攻撃してやる!
神宮寺の乱舞にも近い技は、傍から見れば高速でギリギリ目で追えるというレベル。
だが、目前の謎の人間は当たり前のようにその乱舞を片手で防いでいる。
「くっ、まじかよ!!」
乱舞を終えてガラ空きの神宮寺に気付いた謎の人間はその場で若干飛んで流れるように横蹴りを放つ。
「ぐぅっ⋯⋯!!!」
咄嗟に両手をクロスさせたはいいが、一気に数十メートルは飛ばされ、遥か後方にある壁に凄まじい轟音と共に埋まった。
「⋯⋯あら、これは初めて見るほどの実力ね、錬」
「凄いな。いくら俺が鈍ってるとはいえ、かなりの練度だな」
「二人とも見えたんですか?」
そんな二人の会話に杉浦は首を傾げて軽くドン引きしている。
「ええ、暗殺者だし」
「俺も侍固有スキルがあるし」
「凄っ、聖女⋯⋯役に立っていないような⋯⋯」
「えっ?いやいや戦闘に直接関わるってことじゃないじゃない!問題ないわよ!」
「そ、そうーだぜ?」
明らかにどよーんとがっくし肩を落とす杉浦を必死に励ます二人。
だが、その謎の者の体は他に向く。
「おい!遊んでる場合か!?こっち見てんぞ!」
森下の喝が入り、全員戦闘態勢を整え直す。
「⋯⋯こんな所でいいかな」
「何?」
すると、謎の者はフードを取って全貌が明らかになった。
「こんにちは、俺は⋯⋯いや、俺達は今回君たち勇者様たちの護衛兼指導役として派遣されたS級手前の『蒼き星』というパーティーリーダーのアレックスと言います。以後お見知りおきを」
さっきとは別人のような風格で爽やかな笑みを浮かべるアレックスに全員キョトンとしている。
「あれっ、これはやり過ぎたかな?リーナ」
「やり過ぎにきまってるでしょ?」
「私達の出番が無かったじゃないか」
続け様に暗闇からはドーグとリーナの姿がやってくる。
全員の警戒度は更に上がるが、どう見ても敵意はなく、全員やっと深呼吸して落ち着けたのだった。
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