if Neo
夜空に浮かぶ無数の星々。僕はベランダに横たわり、空を見上げていた。どこか懐かしい風が吹き抜け、穏やかな波音が遠くから聞こえてくる。この光景は、まるで何度も見たことがあるような気がした。
「パパ、あのお星さまの星座はなーに?」
ふと気がつくと、横には小さな声で問いかけてくる子供がいた。僕はその声に目を向ける。少し掠れたように感じるが、どこか懐かしい響きだ。
「うん、あれはね……パパが一番好きな星座、くじら座だよ。」僕はゆっくりと答えた。「真ん中にある星が『ミラ』っていう星で、パパが宇宙で一番好きな星なんだ。長期変光星って言って、明るさが変わる星なんだよ。まるで星が鼓動しているみたいにね。」
子供はじっと空を見つめていた。無邪気なその瞳に映る星たち――僕が幼い頃、父親に教えてもらったように、今度は僕が子供に教えている。
「その上にある星が『メンカル』っていうくじらの鼻にあたる星なんだ。すごく明るい星だよ。そして、その下にあるのが『デネブ・カイトス』。これも明るいけれど、メンカルよりはちょっと暗いんだ。」
「でも、パパ、なんでデネブ・カイトスの方が明るいのに、メンカルはα星なの?」
子供は不思議そうに尋ねる。その質問に、僕は少し笑いながら肩をすくめた。
「それはね……実はパパもよく分からないんだ。でも、星にはたくさんの秘密があるから、いつかその答えを見つけられるかもしれないよ。」
「星博士に聞いてみよっか!」
「そうだね。星博士に聞いてみようか。」僕はそう言って、空を見上げた。
その瞬間、遠くで感じた違和感がふと消えた。そう、これは夢の中の光景だったんだ。現実と夢が交錯するこの場所で、僕はただ、静かに星々を見上げていた。
時間が過ぎ、僕は目を覚ました。ベッドの上で、胸にこみ上げる感情を感じながら、現実に戻る。
そうだ、僕たちは選んだのだ。この世界の均衡が崩れることを知りながら、瑠海と共に新しい未来を歩むことを選んだ。そして、僕たちは並行世界へと旅立った。
今、僕がいる場所は、その新しい世界だ。
僕と瑠海は、この世界で新しい人生を歩んでいる。記憶は断片的にしか残っていないが、それでも僕は、何か大切なものを守るためにこの選択をしたのだと、どこかで感じている。世界が崩れる音が遠くに響いていたが、それも今では静かになった。
瑠海は僕の隣にいて、僕たちは共に未来を築いている。この世界で、僕たちは新しい家族を持ち、穏やかな日々を過ごしている。星空を見上げるたびに、僕はどこかで失った世界を思い出すが、それでもこの選択に満足している。僕たちはこの世界で、新しい命と新しい未来を手に入れたのだから。
「パパ、まだ教えてない星座、他にもある?」小さな声がもう一度僕を現実に引き戻した。
僕は微笑んで、子供の目線に合わせながら、優しく頷いた。「うん、まだたくさんあるよ。次は……そうだな、オリオン座なんかどうだろう?」
僕たちは星空を見上げながら、話し続けた。静かな夜空に浮かぶ星たちは、まるで僕たちの新しい人生を見守ってくれているようだった。遠い昔のこと、そして別の世界で出会った仲間や選択は、もう戻らない過去になってしまったけれど、その記憶は心のどこかに確かに刻まれている。
あの夏の日、僕たちは選んだ。世界の均衡が崩れ、僕たちのいた世界が音を立てて壊れていった。だけど、その選択の先に、瑠海と共に歩む未来があると信じた。斉藤と高梨も、僕たちの選択を支持してくれた。彼らも、あの世界でどんな未来を迎えたのか……それは、もう知ることはできない。
しかし、僕たちは今ここで生きている。この新しい世界で。
夜が更けて、子供が眠りに落ちた後、僕はひとりでベランダに立ち、再び星空を見上げた。そこには、くじら座が静かに輝いていた。遠くの記憶がぼんやりと蘇る。ケートスのこと、瑠海が僕を救ってくれたこと、そして、僕たちが新しい未来を選んだこと。すべてが星の光の中でぼやけ、けれど確かに感じられる。
「僕たちは、この未来を選んだんだ……」僕は静かに自分に言い聞かせるように呟いた。
その時、優しい風が吹き抜け、まるで瑠海が隣にいるかのような感覚に包まれた。彼女は、僕の選択を受け入れてくれた。あの日、僕たちはお互いの手を取り合い、そして新しい未来へと旅立った。それが、僕たちにとって正しい道だったと、今でも信じている。
「ありがとう、瑠海。」僕は小さく呟いた。彼女との未来が、ここでこうして続いていることに感謝しながら。
星々は、今夜も静かに輝いている。その光が、この新しい世界でも、僕たちを照らしてくれるだろう。僕たちが選んだ未来は、決して間違っていなかったのだから。
こうして、物語は終わる。あの夏の終わり、僕たちは世界の均衡を崩し、選んだ未来へと進んだ。後ろに残るものはなく、ただ新しい命と共に、今この瞬間を生きている。
夜空の星々が、僕たちの新しい未来を静かに見守っている――永遠に続く光のように。
孤独な鯨が叫んだif のきさきの @koki1109
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