珈琲カップ&日内変動 🧦

上月くるを

珈琲カップ&日内変動 🧦





 たびたびのカフェ譚で恐縮ですが、ヨウコさんの出かける先はといえば、カフェとスーパーぐらい、諸物価高騰を即反映させたコンビニとはすっかり疎遠になり……。


 反対に、値段据え置きのモーニングカフェとはさらに親密になってまいりまして。

 どうしてそこまで熱心に通うのか、その理由は後半で述べさせていただきますね。




      ☕




 行きつけの二軒の店のロゴ入り珈琲カップ、いずれもたいへん分厚いのですよね。

 慢性腱鞘炎がひどいときには、重さに耐えかね、手がブルブルふるえるくらいで。


 でも、おかげで、とびきり美味しいブレンドがいつまでも冷めずにいてくれます。

 ヨウコさんのように一時間あまりかけて、ゆっくり味わう客にはありがたい限り。


 気を利かせたつもりで家臣が用意した超薄手の上物の陶器で熱い汁を飲まされる、我慢づよいお殿さまの童話を思いながら、庶民でよかったな~と、しみじみ。(笑)




      🤵‍♀️




 どさっと降った恒例春の大雪の翌朝は日曜日で、家に閉じこめられていた人たちがわっと繰り出して来たらしく、順番待ちの紙は二枚目の半ばまで埋まっていました。


 以前のヨウコさんなら混む日は遠慮していたのですが、この節、ひとり客は珍しくないと知ってからは堂々たるものでして(笑)入り口付近の椅子で待つこと十数分。


 ようやく名前を呼ばれて案内されたのは明るい窓際席だったので、ラッキー!!

 とそこへ水を運んで来てくださったスタッフさん「いつものでよろしいですか?」


 えっ?! 思わずお顔を見上げましたよ、なぜって、シフトが合わなかったのか、じつに数か月ぶりだったんですよね、聡明でやさしい瞳をした年若い彼女とは……。


「久しぶりなのに、よく覚えていてくれたわね~。オバサン、尊敬しちゃいます~」「仕事ですから」短い会話がヨウコさんの一日をどれほど温めてくれたことか。💧





      🟡🟢🔵🟣





 ご用済みの判をぽんと押されて決済箱へ放りこまれ、それから六年が過ぎ去った。

 いったい、いつまで生きているつもり? 自問してみても、どうしようもなくて。


 神だか仏だか知らないが、もういいよと言ってくれない限り生きているしかない。

 強硬手段もないわけではないが、遺されたものに生涯の傷を負わせることは……。


 だから今日も、起きて暮らして寝てまた起きて暮らして寝て起きて暮らして寝て。

 静かな拷問とも言えそうな残酷な時間が、地方の小さな家をひたひた浸してゆく。




      🪟




 そんな妄想にとりつかれているのは、冬と春の境の不安定な陽気のためだろうか。

「暁は宵よりさびし鉦叩 星野立子」この句の本当の意味が、いまこそ身に沁みる。


 で、ふと思い当たって検索するとやはりそうだった、うつの典型の「日内変動」。

 明け方に最高潮に達する不安が、宵に向かうにつれて薄らいでゆく「体内時計」。


 パニック発作は完治したと思っていたが、じつはまだ抱えていたんだよね、爆弾。

 どおりで心療内科医から「もう来なくていいです」と言ってもらえないわけだわ。




      👩‍⚕️




 抗うつ剤を処方してくださる薬剤師さんに「朝夕二回の服用」を必ず念押しされ、「先生のご指示を守らないと、どかんと大きな波が来ますよ」と警告されてもいる。


 あのことこのことあらためて思い返せば、なんだ、わたし完璧に患者じゃないの。

 自分で勝手に治ったと思いこむのもまた、大方のうつ病患者の傾向であるらしい。


 朝が危ないことを知り、あ、そういえばと思い当たるのはモーニングカフェ通い。

 危険を避けるために本能的な自助作用が働いたのかと、いまさらながら得心する。





      🟡🟢🔵🟣




 話はかわりますが、日曜日朝のファミレスでの話を思い出したので書き添えます。

 お代わり自由のドリンクバーとはいえ、ヨウコさんはカフェラテ一杯が定番です。


 それ以上いただくとお腹がカポカポするからですが(笑)、ある朝、ふと気持ちが動き、みなさんが美味しそうに飲んでいるオレンジジュースを追加してみることに。


 思ったとおりフレッシュで甘くて、とても美味しかったのですが、レジで店長さんが小声で「ジュースにはすごい量の砂糖を入れているから、やめといた方がいいよ」




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