童話の小箱
七倉イルカ
第1話 どっちが好き?
「どっちが好き?」
パパとママは、いつもコウタに聞いてきます。
「ねえ、コウちゃん。
パパとママ、どっちが好き?」
「んーーとね、パパとママ」
コウタが答えると、パパとママは、嬉しそうな顔になります。
ヘンなの。
コウタは、そう思います。
だったら、最初っから、どっちが好きと聞かずに
「どっちも好き?」と聞けばいいのに。
三歳になったコウタは、家の周りを探検します。
「葉っぱとお花、どっちが好き?」
「どっちも好き」
一人で質問しては、一人で答える遊びが、最近のコウタのお気に入りです。
「葉っぱは緑、お花はピンクで、どっちも綺麗だから」
「コロコロの石とサラサラの砂、どっちが好き?」
「晴れた日に、公園でパパと遊ぶのと、雨の日に、おうちでママに絵本を呼んでもらうのと、どっちが好き?」
「どっちも好き」
やっぱりこれは、ヘンな質問なんだとコウタは思います。
「お菓子とピーマンどっちが好き?」
これは、いい質問です。
だって、お菓子の方が好きだから。
そして、コウタに妹ができました。
ママが赤ちゃんを産んだのです。
ほわほわの、とってもかわいい女の子。
コウタは、お兄ちゃんになりました。
ある日曜日のお昼。
赤ちゃんの相手をしているパパとママに、コウタは質問をします。
「ねーーねーー」
「なあに、コウタ」
「なんだい、コウタ」
「えーとね、えーとね。
コウタと赤ちゃん、どっちが好き?」
「もちろん、どっちもよ」
「コウタも赤ちゃんも、大事な宝物だよ」
ママがほほ笑み、パパがコウタを抱きしめてくれました。
コウタは、ホッとして、胸が温かくなります。
どっちが好き?
これはもしかして、いい質問かもしれない。
コウタは、そう思いました。
そして、パパとママにこう言います。
「コウタも赤ちゃんとパパとママ、みんな、だーーい好き」
童話の小箱 七倉イルカ @nuts05
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