第16話 相変わらず
「青バラでしょ?」
意図していなかった問いかけに、一瞬だけ思考が止まった。
「はあ?」
依然として付いてくる風見から「青バラ」という単語が出たことで、意識がこの黒髪
女に集中する。
こいつ今、なんて?
「うちの学校でも流行ってるんだよね。青バラを手に入れたら願いが叶うって」
「それ、どういうことですか?」
食いついたのは、針本。
「あ、かわいい彼女が初めて口を開いた。声もかわいいね。やったじゃん、駆」
「彼女じゃないです」
即答する針本。そうだ。彼女なんかじゃない。恋仲にすらなれないな。俺とは釣り合
わない。心の中で強引に同調する。
「あ、本題ね。うちの学校の子がね、この島で真っ青なバラを見つけたんだって。知
ってる? 青いバラって、品種改良されても完全な青じゃないのよ? 淡いパープル
系なんだって。しかも天然由来であんな空のように青いバラ、この世に存在しないは
ずなのよ?」
どうせネットで拾ってきた知識だろ。さも自分が学習して身に着けたように披露しや
がって。こいつは相変わらず俗っぽいというか、浅はかというか、テレビやスマホ、
同世代の人間の噂話に多大なる信頼を注ぐ女だ。こいつの短所の一つである。
「それに、青バラの花言葉はね、えっと」
今度は、露骨にスマホで検索し始める。
「『奇跡、夢かなう』だってさ! だから夢ちゃんが頑張って探してるんだね」
夢ちゃん、とは差し詰め表向きでは親友のような存在だろうな。こいつは平気で俺の知らない人間の名前を出す。俺の情報も、こうやって知らない誰かさんたちにバラまいてんだろうな。
「風香ちゃーん。早くこっち来なよ!」
「あっ、やば、夢ちゃんだ。はーい! もう行くよー!」
風見風香が、表向きの友人たちの方へ走り出して行った。男女で合計6人の烏合の衆
へと。
見るからに俺が嫌いな連中に対して、風見風香は俺がずっと嫌いだった、その余所行
きの笑顔でわざとらしく手を振った。
気に食わないんだよ。その顔が。その意地汚い性根が。
「足利さん?」
「あ? ああ、悪い」
歯噛みして全身に力が入っていたことに気付き、落ち着きを取り戻そうとゆっくり息
を吸って、吐いた。
じゃ、行くか。
気を取り直して目的地へ出向いた俺たちに、再び邪魔が入るなんて思いもしなかっ
た。
「私の元カレ。で、隣は多分なんだけど新しい女」
近くに何人もの人の気配を感じて、振り向くとやはり、風見風香を加えた男女6人組
が手を伸ばせば触れられそうな距離に近づいていた。
トゲ女と青バラ探しの旅 ヒラメキカガヤ @s18ab082
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