第222話関根昇の訪問 圭太らしい返事 約束の横浜へ(完)

数週間が過ぎた。

与党役員人事と内閣改造が行われ、関根昇は副首相兼財務大臣となった。


その前日(土曜日)の午前、関根昇本人が、圭太の家に来た。

(SP付き、私服だった)

関根昇は、母律子と父隆の位牌に線香をあげて、圭太に迫った。

「来年は早い時期に総選挙になる、それが終わったら手伝って欲しい」


圭太は、明確な発言を避けた。

「総選挙の時期、監査法人での実務状況を勘案します」

「職を失っていた私は、拾ってもらった立場」

「その時点で判断するとしか言えません」


関根昇は、笑った。

「いずれにせよ、血縁らしい血縁は、俺だけだ」

「迷惑になるようなことはしないよ」

「そんなことしたら、寛治叔父にも律子姉さんにも、合わす顔がない」

「俺は、圭太君が好きだ」


圭太は、苦笑い。

「残業をしないので、お役に立てません」

芳香が、関根昇に、お茶を注ぎ足した。

「圭太さんは、曲げませんよ、そこは」


これには、関根昇も苦笑い。

「確かにな、酷い限りだ、質問通告の取り決めなんて、守られたことがない」


圭太は、冷ややかな顏で続けた。

「俺だったら、定時で着信拒否にするだろうし」

「いても出ませんよ」

「三日でクビです」


関根昇は、ますます圭太が面白い。

「大臣を大臣と思ってない」

「ただの叔父さんとの世間話か?」

圭太も、笑って返した。

「歴代の政治家と官僚の悪癖なんて、俺には無関係」

「その意味で、寛治じいさんも、悪い」

「地政学も何も、結局人類は大なり小なり、利権争いの歴史」

「俺は、どうでもいいし、関与しませんが」


関根昇は笑って話題を変えた。

「披露宴は決めたの?」

圭太は、背筋を真っ直ぐにした。

「お盆過ぎ、母さんの新盆の後です」

「神田明神様にお願いしました」


関根昇は、圭太をじっと見た。

「大臣規範も何も関係ない」

「何とかするから、出たい、頼むよ」

圭太は、真っ直ぐに関根昇の顏を見た。

「俺は、芳香と、普通に幸せに生きたい」

「そのために、リスクは取りたくないんです」


少し間を置いた。

「法的規範の厳守、マスコミの完全排除、それが条件です」

(芳香がハラハラとするほど、圭太の顏は厳しかった)


関根昇は、しっかりと頷いた。

もう一度、父隆と母律子の遺影に手を合わせ、圭太と握手をして、帰って行った。


芳香は、見送ってから、ソファに、よろよろと座った。

「圭太さん・・・怖かったです」

「うれしいけれど、あれでは関根昇さん、可哀想です」


圭太は、表情を変えない。

「当然のことを言ったまで」

「我が家にも、関根さんにも」

「・・・あるいは日本にも・・・とまでは言わないが」


芳香は、笑った。

「伊豆長岡で嫁になりました」

「その後、富士山と駿河湾にもお祝いしていただいて」

「佃住吉様に正式に報告いたしました」

「私は、とっくに満足していますよ、旦那様」


圭太も、珍しく、しっかりと笑った。

「約束の横浜に行こうか」

芳香の顔がパッと輝いた。

「港の見える丘公園に」



約1時間後、圭太と芳香は、横浜港からのシーバスのデッキの上。


圭太は、自然な言葉。

「いい風だ、胸がスッとする」


芳香は顔が真っ赤。

「港の見える丘公園でキスしてください」

少し間があった。

「あの・・・ここでも・・・待ちきれません」


圭太は芳香をしっかりと抱いた。

やさしく、その唇を芳香の唇に、重ねている。










恋など捨て、愛にも生きず(完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋など捨て、愛にも生きず 舞夢 @maimu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ