第221話圭太は銀座監査法人に戻る それぞれの想い
池田商事役員会が終わり、圭太は来た時と同じ、徒歩とメトロで帰った。
総務部長川崎重行から「昼食も一緒に」と誘われたが、遠慮した。
いつものようにスタスタと歩き、池田商事から姿を消した。
池田商事会長室では、圭太の歩き去る様子を見ていた。
池田光子は、苦笑する。
「圭太君らしい」
「芳香ちゃん弁当でしょ?」
「いいお嫁さんもらって、幸せと思いますよ」
銀座監査法人会長杉村忠夫も、圭太を評した。
「厳しいようで、最後に救いを作る」
「里中寛治さんの血かな」
「今は、そっと新婚生活を見守りたい」
専務高橋美津子は、圭太の披露宴に言及した。
「披露宴は、律子さんの新盆の後に」
「芳香ちゃんの提案みたいです」
「律子さんがお盆に戻って来て、報告してからにと」
杉村忠夫は、少し笑った。
「関根昇がどうしても、出たいとさ」
「親代わりでもいいとか」
「どうせ、また接触して来るさ」
池田光子は、圭太が、心配になった。
「難しいですよ、現財務大臣の接触を断るのは、しかも近い血縁」
「圭太君は、どうするのかな」
高橋美津子は池田光子の顏を見た。
「圭太君は、筋を通す人」
「その上で、出来る限り、何とかするのかな」
圭太が銀座監査法人のビルに戻ったのは、午前11時45分。
まず、第一監査部部長と課長に「遅刻のお詫び」、それから自席についた。
※私、紀子にも「遅れて申し訳ない」の言葉があった。
でも、そのまま監査対象帳票をキチンと整え始めるのが、いかにも圭太らしい。
整え終わったところで、ようやく次の言葉が出た。
「机上の乱れは、心の乱れ」
(私は・・・サッと直した)
(はいはい・・・乱れ女です・・・)
正午のベルが鳴った。
そのまま、出て行こうとするから、袖を引いてあげた。
(乱れ女に袖引き女をプラスした)
「今日も4人だよ、置いて行かないで」
(肌触りがいいスーツだ)(芳香ちゃんが選んだ)
圭太は「え?」の顏だ。
(要するに、またラインの未読だけれど)
(お尻を蹴飛ばしたいけれど、それは芳香ちゃんに任せた)
(嫁の仕事だから)
4人席について圭太は、また「ボケた」ことを言って来た。
「何かあったの?」
(芳香ちゃんも呆れた、池田のことと、耳元で)
圭太は、少し頭を下げた。
「ああ、ごめん、予定通りだ」
(言わないとわからない?マジに鈍感だ)
圭太は続けた。
「今後も池田との関係はない」
「でも、光子さんが困ったら、出来る範囲で助ける」
「それを申し上げただけ」
(・・・実に予定通り)
そんな「普通の昼食」を終え、圭太は、午後も普通の監査業務を続けた。
そして、私と佐藤由紀の想いなんて、完全に無視。
強い嫁(でも愛されキャラ)の芳香ちゃんと、仲良く帰って行った。
佐藤由紀がポツリ。
「圭太さんのことだから、池田商事の売却提案をするかなと」
私は否定した。
「計算上は、損だよ、黒字だし」
「圭太は、感情では動かない、実務上可能か不可能か、で動く」
佐藤由紀は、頷いた。
「池田商事会長付秘書の人事内示を断ったのも、お母様の看病を優先したから」
「本当は情に厚い人ですよ・・・芳香ちゃんのことも」
私は、唇を噛んだ。
「諦めきれないけれど、諦めないと、女の格が下がる」
佐藤由紀は、また目が潤んでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます