アラフォー自覚する。
木曜日になり、今日は高橋さんが2回目のバイトに入る日だ。
生田から揶揄われたことで、少しだけ高橋さんと顔を合わせるのが気恥ずかしい。
こんな歳で何言ってんだって思うかもしれないが、恥ずかしいもんは恥ずかしい。流石に顔に出すことはないと思うけど。
「お疲れ様です」
事務所で仕事をしていた俺に声がかかる。事務所のドアを見ると高橋さんがちょうど入ってくるところだった。
「高橋さん。お疲れ様」
そちらを向き、笑顔で答える。それを見た高橋さんも満面の笑みでこちらに答えてくれる。
「今日もよろしくお願いしますね」
ヤバい・・。可愛い・・。キュンってする。
って違う!!アラフォーの俺が一回り以上下の子にキュンとして恋して沼るなんて絶対ない!!多分絶対そうかもしれない!!
自分に言い訳をしながらも、自然体で話を続ける。
「それじゃあ着替え終わったら、今日はキッチンに入ってもらうけど大丈夫?」
「はい!!料理は得意なんで大丈夫です!」
「良かった。それじゃキッチンで待ってるね」
そう言って事務所を出る、外に出た瞬間にしゃがみ込んで頭を抱えてしまった。
うわ〜。まじヤバい。俺って生田が言ってるみたいに恋しちゃってるのかな?アラフォーで?大学生に?大丈夫か俺?
世が世なら、“お巡りさんコイツです!”案件だぞ。
そんな事を考えていると頭上から声がかかった。
「あれ店長?どうしたんですか?」
その声を聞き顔を上げると、いつもキッチンに入ってくれている岡本君がいた。
「あぁ。ちょっと疲れてるのかな?俺も年だしね」
「大丈夫ですか?無理しないでくださいよ?店長居なくなったら店回らないですし」
岡本君は高橋さんとはまた違う大学の4年生だ。彼はそのまま大学院に進むことが決まってるため、今はそれなりの頻度でバイトに入ってくれている。性格も悪くないため、たまにご飯を食べに行ったりすることもある。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。今日は新人の高橋さんがキッチンに入るからよろしくね」
「お!?新人さんですか。その子可愛いですか?」
「そうだね。可愛いと思うよ?」
岡本君は現在彼女募集中の為、そういう出会いに期待しているようだ。
まぁうちとしても別段恋愛禁止なんてこともないし、気まずいことにならないようにしてくれれば、それでいい。
でも2人が付き合う事を想像すると、ちょっと嫌かも。
「マジっすか!?いやぁそれは期待大だなぁ」
「ははは。とにかく着替えたらキッチンに来るように言ってあるから先に行こうか」
「りょーかいです」
可愛い子が来ると聞いてご機嫌な岡本君と一緒にキッチンへと向かった。
しばらくすると高橋さんがやって来た。
「お待たせしました」
その声を聞いて岡本君がすぐに反応する。
「お!初めまして!俺、岡本拓也って言います!彼女募集中です!よろしくね!」
グイグイと行く岡本君に、若干腰が引き気味に高橋さんが挨拶を返す。
「あはは・・。初めまして。高橋カリンです。よろしくお願いします」
「それじゃ、とりあえずキッチンの説明するね」
俺がそう言うと、高橋さんは少しホッとしたような顔をして、こちらへ来た。
その姿をにこやかに手を振りながら見送っている岡本君をチラリと見て、高橋さんに向き直る。
「じゃあまずは・・・」
ある程度説明をして、最初は卵を溶いてもらうことにする。
うちは卵の溶き方にもこだわりがある為、これを練習することも大事なのだ。
「じゃあこうやって卵を溶いてみて」
「はい」
まずはお手本を見せた後に高橋さんの前に卵を割って渡す。
流石管理栄養士の資格を取るための学部にいるだけではある。ちゃんとしたかき混ぜ方をしているのを見て感心してしまう。
「へ〜。上手いね」
「そうですか?ありがとうございます!」
そのやりとりを聞いて、今は注文が入っていないため暇をしている岡本君が近寄ってくる。
「どれどれ・・。ホントだ!カリンちゃん上手いね!」
いきなりのカリンちゃん呼びか・・。若いって良いなぁ。俺がいきなり呼んだら嫌な顔をされるかもとか考えちゃうから俺には無理だ。
おじさんなんだからそんなの気にすんなって生田なら言うかもしれないけど、おじさんだからなだけじゃ無くて、立場的にも悪印象を抱かせるようなことをしたくないのだ。
「えへへ・・。ありがとうございます」
はにかんだ顔を岡本君に向ける彼女を見ると、チクリと胸が痛んだ。
あぁ。その顔を岡本君じゃ無くて俺に向けて欲しい。
そんな思いがチラリと胸をよぎる。
・・・。これはマジで恋してしまったのかもしれない。普段こんなことくらいで嫉妬なんてしないのに。アラフォーにもなって一目惚れみたいな事するなんて・・。
俺がそんな事を考えているなど露にも思ってないであろう高橋さんがこちらを向く。
「どうですか宮崎さん!これなら戦力になりますか?」
まさに花笑むとはこの事だろう。
高橋さんの魅力的な笑顔を見て、俺の胸は跳ね上がり、自然と顔が赤くなるのを感じる。
それと同時に暖かなものが心を満たす。
「あ、あぁ。そうだね。すぐ覚えてくれそうだし、実際に調理しながら今日は頑張ってもらおうかな」
「やった!」
「良かったね。カリンちゃん!俺もキッチンだから一緒にガンバロ!」
「はい!」
笑顔で岡本君に答える高橋さん。それを見て、完璧に自覚をしてしまう。
あぁ。言い訳なんてできない。
俺は恋をしてしまったのだ。
アラフォーの俺。今更恋をする。 トマトオニオンスライム @bakannushi
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