遊女の恋
海石榴
第1話 比翼塚に恋は眠る
延宝年間の頃、江戸吉原の京町三浦屋に美しい遊女がいた。名を濃紫という。
濃紫は端女郎をつとめていた十七の頃、平井権八という若者と馴染みになった。権八は見るからに美丈夫で、立ち居振る舞いのさわやかな男であった。
二人は床を重ねるごとに比翼連理、すなわち将来を固く契り合う仲となった。
濃紫が愛しい男に乳首を吸わせながら睦言をささやく。
「ねえ、おまえさん。わっちの年季明けまで本当に待っていておくれかい」
「当たり前じゃないか。武士に二言はねえよ。絶対だ」
しかしながら、権八は武士とはいえ、最下級の渡り
権八は荒れた。毎晩のように辻斬りをし、憂さを晴らしたが、いつしか人生の無常を感じるようになった。
濃紫と会えない寂しさもあったのであろう。権八はいさぎよく自首し、鈴ヶ森で
遺骸は目黒の東昌寺という虚無僧寺が引き取って、寺内に埋葬した。
数日後、二十歳過ぎの美しい女が東昌寺を訪れ、権八の供養にと布施を差し出した。しばらく小さな墓に手を合わせていたが、やおら懐剣を抜いて、見事に自害して果てた。濃紫であった。真っ赤な血が、権八の墓に泪のごとく降りそそいだ。
目黒の不動尊前に、東昌寺址と称する地がある。
その残ったわずかな敷地に、ただ「比翼塚」とだけ彫られた青石がぽつねんと佇み、折からの雨に打たれていた。
――了
遊女の恋 海石榴 @umi-zakuro7132
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