大文字伝子が行く100
クライングフリーマン
大文字伝子が行く100
=============== この物語は、飽くまでもフィクションです。 ======
食中毒事件の翌日、午後2時。EITOベースゼロ。会議室。
「みんな、池上病院の蛭田先生のお陰で命拾いしたな。勿論、藤本2尉が猛毒とすり替えてくれたお陰で、悪性下痢で済んだんだが。」と、理事官は切り出した。
「理事官。2尉は、藤村警部補のパターンでしょうか?両親が誘拐されたとか。」と、なぎさが尋ねると、「まず、間違いないだろう。両親の件は地元岡山県警に捜査を任せるしかないが。」と理事官は応えた。
「我々の中で死者が出たと発表はしておいたが、信じるかどうかは分からん。それより、痺れを切らしたのか、期限を区切って来た。明後日に人質交換しろ、と言ってきた。」
「明後日・・・あ。建国記念日だわ。」と、結城警部が言った。
「日本を壊滅させたい奴らだ。その日を選んだのは偶然ではあり得ない。既に、空自、陸自、海自とも臨戦体制に入っている。我々も心してかからなければならない。例の吹き矢ボウガンの複製は出来たが、毒がいかなるものかは分からない。そこで、今回の功績を鑑みて、池上先生を通じて、蛭田博士に抗毒血清、所謂血清の生成をお願いした。蛭田先生は、本来の泌尿器科の診療を休診にして、他の医師が代診をしている。今回の決戦で、猛毒の吹き矢ボウガンが使われるかどうかは未知数だ、明後日までに間に合えばいいが・・・。」
眉間に皺を寄せた、理事官に伝子はメールをディスプレイに表示して、見せた。
「ケンって、あの・・・。阿倍野元総理を狙撃した真犯人だと言った・・。」
「違うんです。続きを読んで下さい。私は、直感で彼ではない、と感じたので、深追いしませんでした。志田総理の近くにスパイで入っていたことは事実でしょうが、どこか違和感があったんです。私のピンチを救ってくれもしました。」
理事官は、続きを読んで、驚愕した。
「イーグルが独立したことは、昨日のニュースに流れたが、ケンが大使として帰国するとは。」
「『シンキチ』を連れて帰るとも書いていますね。じゃ、革命軍に参加していたんだわ。」と、あつこが言った。
「EITOの闘いに参加しなくては、とも書いている。どういうこと?」と、みちるが言った。「待っているのが、使い魔でなく、です・パイロットだとすると、旧知なのかも知れませんね。」と、日向が言った。
「断る理由はない、と思います。証拠はないけれど、阿倍野元総理の暗殺実行犯でないのなら。」と、伝子は理事官を説得した。
「うむ。まずは我々も体制を整えるべきだ。ケンが連れてくる『シンキチ』が50人の一人だとすると、最後の『シンキチ』は、一体どこでどうしているんだ?」
「あのう。」「どうした、新町。」と理事官はあかりに尋ねた。
「です・パイロットって、『パイロットです』って言っているように聞こえるんですけど・・・。」というあかりに、結城が「安直すぎるだろう。」と窘めた。
「いや、警部。そうでもないでしょう。どうせあまり時間がないんですから、ダメ元で調べてみてはどうでしょう?理事官。現役でなく、引退もしくは所在不明のパイロットです。」
「草薙。やってみろ。日本一のホワイトハッカーなんだろう?」
理事官の指示に、「うーっむ。せめて年齢を絞って貰えないですか?アンバサダー。」と、草薙は抵抗した。
「じゃあ、25年以前。その期間の引退もしくは行方不明の独身男性のパイロット。親族が近くにいない。出来れば、恋愛に失敗している。」
「アンバサダー。最後の条件だけは勘弁です。データを集めようがない。いや、待ってください。恋愛相談所に登録しているデータを重ねてみますか。」
草薙は、走って会議室を出た。
午後3時。会議はそれ以上、進展することがなく、終了。散開して、トレーニングする者以外は一旦帰宅することになった。
午後4時。伝子のマンション。
「何だ、母さん。来てたのか。昨日はありがとうな。」「まあ、珍しい。開口一番が『クソババア』じゃないなんて。」
2人を案じた高遠は、「ちょっと遅いけど、おやつにしましょう。あの煎餅が役に立つとはねえ。誰も想像できなかった。」と言った。
「なあ。二人とも何か思いつかない?です・パイロットがこれほど『シンキチ』に拘る理由。」
「です・パイロットが男だったら、恋愛関係ね。」と、綾子はシタリ顔で言った。
「恋愛?」「です・パイロットは、女性を『シンキチ』に取られちゃったのよ。でさ、シンキチは死んじゃった。彼女は永遠にシンキチのモノになった。もう、悔しくて悔しくて仕方がない。そうだ。シンキチが悪い。シンキチという名前の人間はみんな悪い。シンキチの人生を、何もかも奪ってしまえ!どう?」
「あ。私、無意識に『恋愛に失敗している』って、草薙さんにデータ検索の条件に加えていたわ。」
伝子は、会議室での様子を語り始めた。「うーむ。お義母さん、珍しく冴えてますね。」
「珍しく?言うようになったわね、婿殿。やっぱり誘惑しちゃおうかな?」
綾子は、睨み付ける伝子に、「冗談よ。ごめんごめん。トイレ行ってこよう。」
トイレに行った綾子を見て、高遠と伝子は吹き出した。
「でも、悲恋ってのいうのは、いい線だね。一佐見ているとね、一佐の永遠のパートナーなんだな、一ノ瀬一佐は、って思うよね。」と、高遠はため息をついた。
「同感だ。一ノ瀬さんのご両親が引き取ってくれなかったら、おかしくなって行ったと思うよ、私も。つまり、母さんの説によると、シンキチに対する気持ちは『男の未練がましい感情』なんだ。」
「そうだ、検索範囲にセスナ機のパイロットとかも入っている?」「さ、聞いてないな。」「もし、航空機や自衛隊機のパイロットじゃなかったら、遊覧とかのパイロットかもよ。行方不明もさ、失踪じゃなくて遭難かも知れない。」
「遭難して、敵になる?飛躍だろう?」「映画の観すぎって言わないのが、伝子のいいところだね。知ってるけど。」
「伝子のいいところだね、知ってるけど。また、いちゃついてる。」と、綾子が揶揄った。
「何でいちゃついちゃいけないんだよ、クソババア!」
2人に割って入って高遠は、「今の草薙さんに言わなくてもいいの?」と言った。
「学。紅茶!」そう言って、伝子は高津との推理を草薙に報告した。
「了解しました、アンバサダー。」と、草薙はウインクして、通信を切った。
「なんでウインク?」と、伝子が首を捻ると、「きっと伝子に気がるのよ、そんな顔をしていたわ。」と綾子は済ました顔で言った。
「黙れ、エロばばあ。」と、伝子は綾子を睨んだ。
午後5時。綾子がテレビを点けると、ニュースが流れた。
「臨時ニュースを申し上げます。昨日、独立をしたイーグル国が、国連に、国家としての認知を行い、国連は加盟を許諾した模様です。繰り返します・・・。」
同じ頃。喫茶店アテロゴ。
「マスター。大変なことになりましたね。いよいよ那珂国は日本に攻めてきますね、本格的に。」と、辰巳が言った。
「ああ、運を天に・・・いや、運を大文字に任せるしかないな。」物部は呟いた。
翌日。午前10時。EITOベースゼロ。
「諸君に紹介しよう。イーグル国の特別大使、ケン・ソウゴ。日本名では睦見健太郎氏だ。」
理事官が紹介したケンは、今度は隣にいる人物を紹介した。「渥美震吉。彼は君たちが探している『シンキチ』の一人だ。」
「ケン。渥美さんは保護しないと、狙われているんだから。」と、伝子が言うと、 「大文字。心配ない。渥美は、イーグル国の国籍を持ち、日本国の国籍を抜いた。今までは、イーグルの戦士だったが、今はイーグル国の国民だ。従って、です・パイロットの標的の条件を満たしていない。それに、明日の人質交換に必要だ。」と、ケンは応えた。
「今こそ話そう。阿倍野元総理は、あの容疑者の弾で死んだんじゃない。俺はスナイパーとしてフォローアップすることになっていた。だが、組織は俺を疑っていた。そして、もう一人のスナイパーを用意した。今、『です・パイロット』と自称している人物だ。そして、奴は俺が瞬間躊躇った隙に狙撃、命中した。奴は枝から幹に昇格した。『死の商人』グループの作戦が、大文字やEITOによって、ことごとく失敗。幹として暗躍するようになった。明日、人質交換には、この渥美と俺を連れて行け。最後の『シンキチ』が見つかっているなら作戦は変更するが。」
「ケン、ありがとう。やっと、喉に刺さった小骨が取れたよ。実は、最後の『シンキチ』は、まだ見つかっていない。です・パイロットの素性は知っているのか?」
伝子の問いに、「ああ。奴は25年前の遊覧セスナ機のパイロットだったが、台風でセスナ機は墜落、セスナ機は大破。客として乗っていた那珂国人は、政府要人だった。奴は、政府要人と共に、那珂国人の密輸船に助け出された。そして、スパイになった。もう、パイロットとして復帰出来る体では無かったから、組織の言いなりになるしかなかった。俺は、その密輸船に乗っていた。奴を船に引き上げたのは、俺だ。奴は組織の為に懸命に働いたよ。そして、出世した。どうせ真犯人は分からないだろうから、黙っていることにした。志田総理は、那珂国のポチだった。だから、俺も奴も簡単に秘書として雇った。明日は、俺が奴と対決する。大文字達は、存分に戦え。そうだ、理事官。奴はまた仙石諸島の実効支配を狙っているぞ。東北・北海道も危ない。」と、ケンは一気にしゃべった。
「ありがとう、ケン。もう海自空自陸自共に、最終決戦に備えている。さあ、明日の作戦の会議だ。」理事官は宣言をした。
午後5時。伝子のマンション。
伝子が帰ると、DDのメンバーが全員集まっていた。あつこと久保田警部補の子供も。
「何だ、これ。」伝子が驚いて言うと、「大文字。祝勝会前夜祭だ。」と、物部が代表して言った。
宴が3時間続いた。皆が引き上げた後、EITOから通信が入った。
《お前達待望の最終決戦は、明日午前10時。赤坂の元テレビ局跡だ。お土産を忘れるな。》
EITOからの画面が消えた後、高遠は言った。「伝子、生きて帰って来い。夫として命令する。」「はい、あなた。必ず生きて戻ります。」
誰にも邪魔をされない夜は、永遠の時を刻んでいるようだった。
翌日。午前10時。です・パイロットが指定した、元テレビ局跡。
1台の自動車が駐まっている。その隣に車椅子の男。側に那珂国国民服を着た女が立っている。その横には、椅子に縛られた、そして、覆面をした-藤本2尉がいた。
エマージェンシーガールズがやって来た。どこからともなく、武装した一団が現れた。500人はいるだろうか?
エマージェンシーガールズの中から、伝子と、学生服の男と会社員風の男が出てきた。
「最初に言っておく。ことごとく、私の邪魔をしてくれたが、これが最後だ。」と、です・パイロットが言った。
「使い魔という幹部格はもういなくなったな。惨めなものだな。藤本2尉。ご両親は無事だ。そいつの配下も逮捕連行した。次は、あなたを助ける。さあ、人質交換だ。」
伝子の声に、「よかろう。そこに印があるだろう。そこが交換地点だ。急げ!」女は、2尉を連れて、交換地点まで歩いて来た。一方、『日向』は、『2人のシンキチ』を連れて、交換地点まで来た。女と2尉は、2人のシンキチを無理矢理です・パイロット側に連れて帰った。
「卑怯者だな、やはり。」日向が叫ぶと、「お褒めにあずかり恐縮だ。やれ!」と、合図した。エマージェンシーガールズと那珂国マフィアの集団の闘いが始まった。
午前10時。仙石諸島の中央島付近。那珂国の戦艦が、排他的経済水域(EEZ)を乗り越え、領海内に侵入しようとしていた。海自のイージス艦からトマホークが発射された。
那珂国の戦艦はUターンをして自国の方向に転回した。
午前10時。津軽海峡。那珂国の潜水艦が侵入しようとしていた。その方向に、海自の潜水艦が現れ、行く手を阻んだ。護衛艦『いなずま』も現れた。
ゼロ戦ペイントの空自の戦闘機F-35Aが10機並び、ドローンを飛び立たせた。
ここでも、那珂国潜水艦は、転回せざるを得なかった。
午前10時。那珂国ミサイル発射基地。
10本のミサイルが発射された。
午前10時半。日向は、エマージェンシーガールズの救援に走った。エマージェンシーガールズは、銃や機関銃に翻弄され、動けなくなっていた。
そこへ、ホバーバイクが3台入って来た。3台の内、2台は銃や機関銃をペッパーガンや水流弾で撃ち落として行った。弓矢隊が到着した。弓とボウガンで、やはり、銃や機関銃を打ち落とした。弓矢隊が、撤退した。
ショベルカーが到着した。なぎさは、荒々しい運転で、集団の中に突っ込んで行った。
ショベルカーが待避した後、今度はMAITOのオスプレイが現れた。エマージェンシーガールズが一旦引くと、消火弾が落とされ、集団は水浸しになった。銃や機関銃も水浸しになった。エマージェンシーガールズ隊は、シューターと電磁警棒で次々と敵を倒して行った。
一方、です・パイロットに近づいた伝子はホバーバイクを降りると、エマージェンシーガールズの頭部の頭巾部分を脱いで、こう言った。「お前はもう、終わりだ。」
女は藤本2尉に化けていた部下と共に、2人のシンキチに襲いかかった。
2人のシンキチは、女と偽2尉を捻り上げた。
シンキチ達は、目深に被っていた帽子を脱いだ。
「久しぶりだな、樗沢さとし。真相は、大文字に話したよ。お前の知らないことを今言ってやろうか?」
その時、車のトランクを明ける音がした。エマージェンシーガールズ姿の総子だった。トランクには、本物の藤本2尉が猿ぐつわと手枷足枷をされ、横たわっていた。
「本物は見付けた!」総子は叫んだ。
一瞬のことだった。女は吹き矢ボウガンに使われた吹き矢をケンの首に刺し、です・パイロットの首に投げた。「日本人は、ワクチンによって免疫機能が落ちた民族だ。滅ぶべき存在だ。」女は笑った。
伝子は、すぐに長波ホイッスルを吹いた。すぐに、待機していた救急車を井関が運転して、伝子の側で止まった。中から、蛭田博士と、看護師姿の飯星隊員が降りて来て、ケンと、です・パイロットに注射をした。
伝子は、女の肩を脱臼させてから、ケンの様子を伺った。
「まだ、死なせる訳にはいかないぞ。言いかけたことを言ってくれ、ケン。」
泣きながら言う伝子に、「大文字。お前に涙は似合わないな。抗体血清か。手回しがいいな、流石だ。樗沢は、です・パイロットは欺されていた。昨日は話さなかったが、今は言っていいだろう。樗沢は、ある男と、その女を巡って張り合った。その男、蜷川仙吉は、嵐の夜、決闘した時に亡くなった。その女、二見千子(せんこ)は、樗沢をなじった。そして、セスナ機の事故が起こった。セスナ機に細工したのは、実は千子だった。セスナ機の客は、マフィアの手先だった。千子もマフィアの手先だった。樗沢に近づく為に、蜷川千吉という、架空のライバルを作った。千子こそ、仙吉だった。」
「どういうことだ、何を言っている?」と、です・パイロットこと樗沢はケンに尋ねた。
「その女が二役をしていたのさ。仙吉と千子が一緒にいた所を見たことがあるのか?」
樗沢は答に窮した。
「ちょっと待て、ケン。仙吉仙吉って、シンキチじゃなかったのか?」と、今度は伝子が尋ねた。
「最初はセンキチの積もりだったが、那珂国の女の千子の言葉を樗沢が聞き違えたので、シンキチに変えたんだ。詰まり、シンキチを50人葬っても、2000人葬っても、一生報われない。そんな残酷な仕掛けをマフィアは施した。阿倍野元総理の暗殺。囮に使ったあの青年を洗脳し、俺と樗沢に同時に引き金を引かせたのも、後で、お前を煩悶させる為だった。そのマフィアの幹部は、お前に恨みを持っていた。その事情までは、流石の俺も分からなかったが、要は、そいつにとって、樗沢が『滅ぶべき相手、シンキチ』だったんだ。」
「何ということだ。しかし、よく話してくれた、ケン。いや、睦見健太郎、いや、ケン・ソウゴ。回復したら、皇太子の元に返すよ。」と、いつの間にか来ていた久保 田管理官が言った。
ケンは、井関が乗ってきた救急車に運ばれ、救急車は去って行った。
です・パイロットこと樗沢は、池上院長が乗ってきた、ドクター・ヘリに乗せられ、 飯星は同乗した。
千子は、橋爪警部補と愛宕がパトカーに乗せ、連行された。
いつの間にか、闘いを終えた、エマージェンシーガールズとエレガントボーイズがやって来た。
「おねえさま。2尉は私が送るわ。」と、なぎさが言った。
「ミサイルは全部、日本列島の外に落ちた。それより、大文字。姿さらして大丈夫か?今日は、カメラの攪乱装置ないぞ。」と、筒井が言った。
「えー、New tubeに流れるのか?何とかしてくれ、筒井。」伝子は頭を抱え込み、しゃがみ込んだ。
「さあ、どうしたもんかな?ウチのアナザー・インテリジェンスに尋ねるか?」
筒井の言葉に、渥美震吉が笑った。総子も笑った。一同は、釣られて笑い、笑い声は、テレビ局跡の広場に響き渡った、時刻は、午後2時を回っていた。
―完―
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