第17話 違和感の在処
違和感は、消えたDMが元通りに全て戻っても消えなかった。
一番強く感じた場所は、自宅から最寄り駅への道だった。
おかしいと思った女は辺りをキョロキョロと見回す。何がおかしいと感じるのかが、分からなかったのだ。
道幅が広がったように感じる。しかし正確な長さを知らず測定する気力もない。夏の間にはびこっていた草花が枯れて広く見えた……のかもしれない。そう女は自らを納得させる。
だが、道路の白線がそれまでハッキリ引かれていたはずが、突然スッカスカな擦れて掠れて不鮮明になっていた。横断歩道も同様だ。こちらは納得出来ない。
(……こんなに消えそうな線ならすぐ引き直すのに……やっばり世界線違い?確か綺麗に直してそんなに経ってなかったよね?こっちは交通関係に無頓着な世界線?僅か一週間足らずで国道も県道もラインがボロボロのスッカスカなんかにならないよね?いくら鈍い疎い私だってそれくらい分かるぞ?)
二度も消えたDMが再び現れたとすると、世界線を跨いだかもしれない。
それを念頭に置いて、間違い探しのように再度見渡した。
すると、すぐに正体が明らかになった。原始世界線では勿論、数回移動したと見られる先の世界線にも無かった植物、シュロの木が見つかったのだ。シュロの木は、女の原始世界線では珍しかった。なぜそれと分かったのか。30年以上勤めているクリニックの庭に植えられていて、痛んで枯れたらしく伐採されたことを記憶していたからだ。周辺地域でも庭木としてスタンダードではなかった。切られたのは20年以上も前のことである。
出現したそれらは、ある場所ではガードレール下の大木として(眼下に木の頭頂部が見える)。ある場所では民家の庭先や県道の道端の崖上に。竹林の入り口付近にも見つかった。.大木も若木も入り混じっていた。
極めつけは、月に最低十回はゴミの収集場所へ向かう途中に隣家の下道(獣道)を通っているが、柿の木だったものがシュロの木に変わり、伸びた枯れ枝が頭を突いて危ない、と思った瞬間にハッ、と立ちすくみ落胆したことだった。
(ここもぉ~!?)
こちらは大木であった。
女はシュロの木は成長が速いのでは?と、自らを強制的に納得させようとネットを開くが逆に幼木から成長が遅いとの記事があり、返って結論を急ぐ結果となってしまった。
やはり、世界線を跳んだのだ、シフトしたのだ……と。
(やっばり、強力なパワーを持つマンデラーさんに近付いてはならないのかなあ……。それとも、カクヨムコンに応募してみようと決断したり、竹を切り倒そうなんてやり始めたから移動しちゃったのかな……?)
別のSNSへ記録として記事を書く。そして、またマンデラエフェクトのネタが増えてしまった、と微妙な気持ちになった。
帰る帰る詐欺にはなりたくはない。
心の底から離れたいと願うのに。
いつの間にか、妙な現象が起きてしまう。
一体どうやったら帰れるのだろうか。
令和四年の十月八日はすぐそこに迫っている。
もう、力まないでブレないようにしなくては。
(って、決意することがネックなのかな……どうすりゃいいんだって、腐りそう……)
移動を止めたい。
移動をするならば、原始世界線へのみ、を希望する。
マンデラエフェクトに引っかかってから、じきに二周年になる。
女の人生は天変地異の如く変わってしまったのだった。
コレも当たり屋のような扱いでいいのだろうか?と、女は考え始めていた。他人が「チャンス」と呼ぶモノだ。女にはチャンスなど必要ない。
(一年分毎にまとめて体験小説を書こう。竹を沢山切り倒そう。麻薬書類も書かなきゃ。レセプトもあるし、健診の書類のまとめとインフル予防接種も始まるから準備しないと……もうもうもう!リアルもごちゃごちゃだ。資料本も探して読まないとならないし。いつまで経っても脳内スクリーンがサイレントムービーだから……マンデラばかりに気を取られてはいられない!)
運命の扉は蹴破るに限る、のだろうか?高いハードルにぶち当たるとくぐり抜け、壁にぶち当たると横道に回避して来たツケが今、目前に迫っている。
扉を蹴破ることしか考えつかない女であった。
十月八日はひたすら普通に過ごすことを決めて、何事もなくやり過ごしたことに満足をした。
翌日の朝にウィキペディアを見て、東京タワーが赤白だったことに落胆したことをここに加えておく。
第二部 完
世界が何処かで変わってる ~マンデラエフェクトとパラレルワールド体験記~ 第2部 永盛愛美 @manami27100594
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