異常事態

うーん。あれ?なんか体が、重い。

今日?いや、昨日か。

昨日は少しはしゃいだからな。

疲れてるのか。少し水を飲んでから寝よう。


俺は重くなった体を起こして部屋を出る。

結構やばいかもな……足元がおぼつかない。

階段を踏み外さないように、

注意しながら降りていく。


それにしてもここまで体がだるくなったのなんて

かなり前だな。半年ぐらい前だったかな?

……半年前?

今の状態と、時間。嫌なことが頭に浮かんでくる。

体から汗が溢れる。呼吸が荒くなる。

いや、そんなわけない。

だってあと5、6日はあるはずなんだ。

そんなことあるわけがない。


俺は急いで部屋の明かりを点ける。

だけど俺にはいつもと違って、少し暗く見える。

ただ単純に暗いわけじゃなく、

明かりはしっかりついているのに眩しくない。

フィルターがかかったような独特さ、

確定だ。何が起こってるんだ。何で滅日が――

そうだっセラは?


俺は走ってドアを開けて飛び出す。

外はいつも通りの静かな夜だった。

――月明かりが

  よく見えなくなっていること以外は。


「何で?何で誰も気づいてないんだ?!」


いや、当たり前か。

俺だって気づけたのはたまたまだ。

体が悪くなるのはいつものことなのに、それを

滅日と何故か結びつけたのが噛み合っただけ。

明かりを点けるまでは、

ただの体調不良と勘違いしやすい。

俺は全力で声を張り上げて叫んだ。


「みんな!滅日だ!

 何を言ってるか分からないだろうけど、

 明かりを点けて下さい!それで分かります!」


とりあえず言うことは言った。

本当に聞こえてるかは分からないけど、

気にしてられない。

次は、セラの方に行かないと。セラの商品の中に

何か使える物があるはずだ。


俺はセラが泊まっているはずの

宿屋に向かって走る。

もう、体は大分疲れてるけど、

ここで休んでる暇はない。

俺は宿屋に着いたらドアを勢いよく開いた。


「あれ、シン君じゃないですか。何の用で?

 ちょっと今日はもう寝たいんですよ。 

 だから、うるさくはしないでもらえると……」


「店長、そんなこと言ってる場合じゃないです。

 滅日になってます!」


「え?でもシン君のお父さんがあと1週間ぐらいだと

 手紙で連絡していたじゃないですか」


「俺にもいまいち分かってません。

 とりあえずセラを起こしにきました。

 どの部屋ですか?」


「ああ、一番奥の部屋ですよ。

 僕は外で他の人に確認してきます」


そう言って店長は宿屋を出ていった。

俺は階段を上がって廊下を進んでいく。

セラの部屋はここだな。

セラが泊まっている部屋のドアを強く叩いた。


「セラ、起きてたら出てきてくれないか?」


返答はない。俺はもう一度ドアを叩く。


「セラ!」


もう一度セラの名前を呼ぶとドアが開いた。


「少し外が騒がしくなってるな。

 それと、妙に焦ってるシン。

 呼吸も荒い。ここまで走ってきたのか。

 もしかして、シンのお父さんがいないのか?」


「分かるのか?」


「当然だ。シンがここまでするんだ。

 生半可な状況じゃないのは察しがつく。

 すぐに王国へ向かおう。

 シンのお父さんがいない時点で、

 この村では滅日を抑えるのは不可能だ」


「分かった。っ……!?」


宿屋の外から誰かの叫び声が聞こえてきた、

もう魔物が入ってきたのか。このままじゃ……


「大丈夫だ、シン。まだ焦るときではないよ。

 今だからこそ冷静にしないと」


「そ、そうだな」


そうだ。冷静、冷静にだ。焦るんじゃない、まだ。

俺とセラが宿屋を出ていくと

出口を目指している人と、

反対に向かう大人の人が、

武器になりそうな物を持って

入り乱れていた。

出口と反対に行くあの人、大丈夫なのか?

いや、そんなわけない。

仮にも滅日なんだ。

いくらこの村でも抑えられない。

止めないと――


俺はあの人を止めたくて、

声をかけようとしたとき、

セラに止められた。


「それは駄目だ。

 彼だって覚悟は決めているんだ。

 その優しさはただのお節介だよ」


「……分かった」


どうしたら、

俺はセラみたいに冷静で居られるんだ?

俺はこんなとき、

自分の命も守れないときでも、

どうしても余計なことを考えてしまうのに。

自分では何にもできないくせに、

俺は見捨ててしまったような感覚がして、怖くて

割り切ることができない。俺は臆病だ。

せめて、

助けられる力があったら違ったかもしれないけど、

そんな力は俺にない。


俺とセラはひたすらに走って村の入り口に着いた。

そこには逃げてきた人達が集まっていた。

子どもと、女の人が多いけど、

この村で暮らしてる人の数と比べてかなり少ない。数えることもできるぐらいだ。


「セラさんよね?

 王国まで逃げようとしているけど、

 村の馬車じゃ全員乗れないの!だから、

 あなたの馬車にも乗せてもらえないかしら?」


この村には馬車は2両しかないから、

いくら人数が少ないとはいえそうなるよな。


「大丈夫だ。速く乗ってくれ、

 馬車は人が乗り終わったら

 すぐに出すんだ」


セラがそう言うと同時に集まっていた人達は

馬車に乗り込んでいく。

あとは、自分が乗る番を待つだけか。

俺は村の奥の方を見る。

まだ魔物は来てないみたいだ。

けど、いくらなんでも遅すぎないか?

大人の人達が抑えてくれているとはいえ、

流石に魔物の姿が一匹も見えないのはおかしい。

 


え?あれは……逃げ遅れたのか!?

向こうから女の子が走ってきている。

それを追ってきたんだと思う魔物もいる。


「助けに行こ――」

「駄目だ。出発する」


……セラ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シンの家族再開計画(未定) ヒトクロ @katabami_umai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ